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朧月夜の章
朧月夜の章⑩
しおりを挟む「・・・母上殿を失った父上殿は深く後悔した。だからせめて、最愛の息子の為に何を為べきか考えた。だから領主を引退した」
「・・・・・・」
蒼淳の言葉には説得力があった。
当時の父の年齢で引退は、正直早すぎた。皆戸惑ったが喜びが勝った。浪費家で仕事を放棄し、妻を過労死に追いやった駄目領主。
父は領民達から心底嫌われていた。ディアゴが領主を引き継いだと知ると町中がお祭り騒ぎになった。駄目領主は最後の最後で真面な仕事をしたと嫌味を言われていたが、否定はしなかった。
それが母への償いだとしたら。これ以上一人息子に迷惑を掛けない様に身を引いたなら。
「・・・償いにもならないが、賢明な判断だったな」
「一度拗れると修復は難しい。だが、死しても許されぬ現状に父上殿は落ち込んでいる」
「死んだからチャラにしろと言っているのか?何処まで腐っているんだか」
「其方も大概頑固だな。本当は許したいのではないか?」
「・・・どうだかな」
許したい。許せない。その感情はずっとディアゴの中で燻っていた。
許そうとした瞬間に母の顔と痩せこけた子どもの姿を思い出す。この状況を作り出した男を許す訳にはいかない。再び憎しみが湧く、その繰り返しだ。
「許せなくとも墓参りには行ってやれ。別に減るものではなかろうに」
「・・・気が向いたらな」
蒼淳は呆れたようにため息をついた。
その後は蒼淳の好きな寿司を追加注文し、雑談を交わして解散となった。
「・・・ありがとう」
素直に礼を告げると、蒼淳は驚いた顔をした。
「感謝は素直に告げる。母にそう教えられたからな」
「そうか。私も今日は礼を言う。美味い寿司をご馳走になったからな」
「それは良かった」
彼と話し合えて良かった。ずっと気に掛かっていたモヤモヤが晴れたようだ。
父への憎しみは薄れてはいないが、いつか許せる日が来るのだろう。それが何時かは分からないが、肩の荷が下りた気がした。
誰も自分を責めたりしないと知れたのは幸いだ。
『頑張れ、負けるなディアゴ』
言われなくても負けない。蒼淳には言わなかったが、父の応援が嬉しかった。
本当にちょっとだけだけど。
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