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朧月夜の章
朧月夜の章⑭
しおりを挟むただ、空は一つ。どうも気になる言葉があった。
「・・・大事な人とは、一体誰を指すんでしょうか・・・」
空の言葉にディアゴは何も答えられなかった。
足繁く朧月夜の元へ通っていたが、今思えば彼女は家族の話を避けていた気がする。自分もそうだ。心のどこかで「触れられたくない」と拒絶していた。父の話はしたくなかったし、母を思い出すと涙が出るから。
・・・君も、俺と同じなのだろうか?
家族に対して複雑な感情を抱いているのなら。許したいのに許せないと苦悩しているなら。
「・・・抱えきれないなら、俺も一緒に抱えるのに」
ポツリと呟いた一言は全員の耳に届いたようで、反応はそれぞれだ。
ヒュ~~ッと口笛を吹く男に、真っ赤な顔をする者、目を輝かせる者に、拍手をする者、驚く者だ。
無骨な男が見せた情熱的な一面に特に感動したのがイフラースで、目を輝かせた後に何故か泣いていた。
「ディアゴさん、頑張って下さい!私で良ければ何なりと力になりますので!!」
ギュッと握手を交わし、腕をブンブン振られる。対応に困ったが悪い気はしなかった。友人とは良いものである。
「ああ。困った時は頼む」
「はいっ!」
イフラースは嬉しそうに返事をした。
ディアゴはホテルに戻ってもずっと、花かごと花言葉を交互に眺めていた。
朧月夜の心に少しでも近づこうと、彼女の言葉、表情、行動を思い起こす。朧月夜はどちらかと言えば飄々としていて、感情は表に出ない。言葉も職業柄、意味深だ。
ただ直感的に嘘は言っていないように思う。彼女は洞察力があり勘も鋭い。心の内を読む力に長けているからこそ、自分の言葉を飾らない。嘘をつく理由もない。
ならば、誰に復讐したのか。
誰に戦いを挑んだのか。
一体誰を大切にしたかったのか。
・・・いや。この決めつけこそ彼女が用意した罠の可能性もある。彼女と出会って間もないが、朧月夜は憎しみに駆られて誰かを傷付けるようなタイプでは無い。
・・・もしかして、逆なのか?
「復讐された側なのか・・・?」
だとしたら、一体誰に?
美しき朧月夜。
誰もが憧れる才能と美しさを持って生まれた一族の華。
その名の意味は『春の夜の霞んだ月』。柔らかに輝く春の月夜は美しい、そう賞賛した詠から名付けられた。
月のように妖しく美しく、密やかに笑う彼女を誰もが欲した。
そう、誰もが。
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