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朧月夜の章
朧月夜の章⑳
しおりを挟む大神殿の最深部。
八人の姫君とその関係者が滞在する一角は神殿史上類を見ない最高レベルの警備体制が敷かれていた。鼠一匹すら通さない厳重な警備を、朧月夜専属の侍従兼護衛の玻璃は顔パスで進んでいく。
彼は一人の男を連れて歩いていた。今宵の任務は朧月夜の部屋まで彼を案内する事。
この日をどれだけ待ち侘びていたか。玻璃の顔は晴れやかだった。
「朧月夜様、お連れ致しました」
「・・・入って頂戴」
「どうぞ、お入り下さい」
最終審査を突破した男は朧月夜の部屋に入った。部屋には贈り物の花が沢山飾られていて、仄かな香りが漂う。テーブルの上には彼女の占い道具とカード、お茶とクッキーが置いてある。朧月夜の姿を探すと、薄い天幕に覆われたベッドに彼女は座っていた。
「狡賢い人。何で分かったの?」
彼女は少しだけムスッとしていた。その反応が愛らしくて男は笑った。
「・・・君は嘘をつかないが、本心を隠すのがとても上手だ。だから、逆を考えた」
丸い耳に縞々の尻尾。朧月夜が最後に選んだのはフォルクバングの領主・ディアゴだ。
ディアゴは跪き、白い手を取って朧月夜に結婚を申し込もうとした。だが、朧月夜は制止した。
「その前に、私の話を聞いてくれる?全て話すわ。・・・最後は、貴方が決めて」
「分かった」
答え合わせの時間が始まる。
朧月夜は高名な占い師一家の三女として生まれた。
幼き頃より際立った美貌は瞬く間に評判となり、両親は朧月夜に期待した。教育に金を掛け、美しく着飾らせる。
その上朧月夜は才能もあり、地頭も良かった。何処へ出しても恥ずかしくない自慢の娘だと、両親は朧月夜のみを溺愛した。
それに対して上の姉達は地味な見た目で才能も凡庸だった。朧月夜に全てを懸ける両親から愛情も金も掛けられず、放棄された。両親による理不尽な仕打ちも全て、朧月夜が生まれた所為だ。
彼女達は妹への憎しみを募らせていった。
ただ、家の立場が悪くなるのを恐れて表面上は仲良し姉妹を演じていた。それ程に朧月夜の影響力は大きかった。
腹は立つが長女の須磨は跡取り娘の自負がある。必死に両親の機嫌を伺い、朧月夜の顔を立てた。
次女の初音は容姿も才能も人並みで、朧月夜への劣等感は増すばかり。それでも爆発せずに済んだのは、自慢の美しい婚約者がいたからだ。
須磨の婚約者は同じ一族出身の占い師で、あくまで血筋重視。初音の婚約は利害関係が絡んでいた。
千年続く名門一家と、上昇志向が強い成金一家。両者の結び付きを強くするために必要な縁談であったが、幸い初音と婚約者は仲睦まじく順調に愛を育んでいた。
「また朧月夜が番付一位!?凄いわね」
「才能もある上、あの美貌!本当に憧れるなぁ」
月に一度、朧月夜の実家では占い師の指名本数と売上金額をランキングで発表していた。目的は占い師のモチベーション維持のためだが、須磨と初音は良い気がしなかった。
二人はこれまで一度も朧月夜に勝てたことがない。一門の弟子達が朧月夜を褒め称える度にイライラが募る。両親の愛情も、美しさと才能も、占い師としての腕も、何一つ敵わない。
同じ両親から生まれたのに何故こんなに違うのか。余りにも不公平だと思った。
だが、当の朧月夜は姉達の負の感情に気付かず占いの研究に没頭する毎日。
初代、有明の秘術を解き明かそうと寝る間も惜しんで書物を読み漁る。ひとつ、ひとつと解明されていく術式に朧月夜は喜びを感じていた。
「朧月夜、贈り物があるんだ。受け取ってくれないか?」
その日、突然声を掛けてきたのは初音の婚約者だ。背が高く、大きく形の良い瞳が印象的な美男子だ。
彼が持っていたのは古代に使われていた星座と星の名が記された絶版の書物。書物を見た朧月夜は目を輝かせた。
「凄い!図書館にもなかったのに、どうやって手に入れたの!?」
「代々文官を務めている家の蔵にあってね。譲って貰ったんだ」
「お金は払うわ。幾ら?」
「要らないよ。これは君へのプレゼントだから」
「本当?ありがとう、お義兄さん!」
輝くような笑顔を見た男は、スッと目を細めた。
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