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朧月夜の章
朧月夜の章㉓
しおりを挟む身形からして随分高貴な女性のようだ。
朧月夜は彼女を知っていた。
黒狐族なら誰もが知るプリンセス。最も高貴な血を受け継ぐ王の長子・若紫だ。
「私、貴女の身に何が起きたか知っていますわ。朧月夜、今貴女の目の前には二つの選択肢があります」
一つ、若紫が匿う代わりにある重大なお役目を引き受けること。
二つ、今起きている出来事を全て忘れて実家に戻り、望まぬ相手と結婚する。
「簡単な二択ですわね。貴女の実家が追っ手を放っています。答えを急いで頂けると助かりますが」
ニコリと微笑む若紫は美しい。
美しいが、朧月夜は彼女が少し怖かった。
本能で感じる。我らが王女は『普通』ではないと。
「さぁ、美しき朧月夜。貴女はどちらを選びますか?」
何故自分を知っているかなんて愚問なのだろう。
この王女は全てを知った上で自分を迎えに来た。答えも分かり切っているだろうに、それでも敢えて選ばせるのは退路を断つためだ。
何のお役目を課せられるのか皆目見当も付かないが、今の状況よりずっとマシだろう。家に戻れば、地獄しかないのだから。
「・・・王女様についていきます」
「賢明な判断ですわね。流石は当代一の占い師。朝顔、彼女を城へ」
「了解」
影から姿を現わした麗人は若紫の従姉妹にして護衛、朝顔だ。
朧月夜は朝顔に背負われ、若紫が暮らす王城へ連れて行かれた。
城で匿われるようになった朧月夜は適切な治療を施され、平和な日々を過ごしていた。
あれから家族がどうなったかは知らない。敢えて聞かなかったし若紫も何も言わなかった。
背中の傷が癒えた頃、朧月夜は若紫の招集により共に下界に降り立った。
黒狐族の未来を掛けたお見合い。
一族自慢の美姫に選ばれたのは悪い気がしなかった。相手は呪われた六種族と聞いても不思議と嫌悪感はなく、『夫』を自分で選べるのは寧ろ幸運だと思った。
占い師として鍛えた目で、沢山の男の中から良き男を見つけ出す。
アピールの頻度も重要だ。どうせなら自分を一番好いてくれる男を選びたい。
あっさり婚約者を捨てる薄情な男は嫌だ。
地位と財力に目が眩み、娘を売り飛ばそうとした男も嫌だ。
朧月夜は最終候補で三人の男を選んだ。
どの男も心根が優しく、自分を一番に好いてくれる。あとは自分が本当に望むものを与えてくれたら最高だ。朧月夜は望みを花に託し、全てを受け入れてくれる男を待った。
花調の答えはアキメネス以外は単純だ。
ダンジ―は両親への抵抗。家を捨てて幸せの道を切り開こうと進む朧月夜の決意も意味する。
ダリアは初音を裏切り、朧月夜へ心変わりしたあの男を示唆する。
四つ葉のクローバーは妹への憎しみに駆られて復讐を実行した姉達を意味した。
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