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明石の章
明石の章⑧
しおりを挟むそれは人の国での出来事だ。
朱寧は滞在していたホテルである女性と知り合いになった。
年は五十代だろうか。優しげな顔立ちをした清掃スタッフの女性だ。
ふっくらとした体付きをしていて、良く気が利き客への気遣いも素晴らしい。
彼女と話すようになった朱寧は彼女の身の上話を聞いて衝撃を受けた。
「あらまぁ、私にも心付けを下さるなんて優しい方ですね」
心付けとはチップのようなものだ。朱寧はお礼の気持ちを込めて彼女に封筒を手渡した。
「三倉さんが掃除をした後の部屋は綺麗で気持ちが良いのです」
「ふふ、嬉しいです」
嬉しそうに笑う彼女は三倉智子という。
彼女に自動販売機で購入したジュースを手渡し、朱寧はこれまで回った国の話をした。
三倉智子は目をキラキラ輝かせながら朱寧の話に耳を傾けた。
「いつか私も龍の国へ行ってみたいです」
「三倉さんなら大歓迎です。いつでも朱家を尋ねて来て下さい」
「お金を貯めて行きますね。一人なので身軽ですし」
「一人?」
「ええ。一人」
三倉はこれまで五回結婚し、離婚した。
離婚理由は子どもが出来なかったからだ。
三倉の両親は金と引き換えに娘を嫁がせ、出戻ってくると直ぐに金払いの良い相手に嫁がせた。
五度目の離婚の後、両親は子が出来ぬ娘を叩き出し一方的に絶縁を言い渡した。
もう充分金は貯まったからお前はいらないと。
「身一つで叩き出されて死ぬしかないと思ったけど、案外と何とかなるものですよ?でも、私のように虐げられて捨てられた女性を支援してくれる所ってなかなか無いんです。あればとても助かるのに」
三倉智子は笑ったが、朱寧は怒りでどうにかなりそうだった。
強く握りしめた愛用の扇子がミシッと音を立てる。
「・・・朱寧様、怒らないで。仕方ないんです。これが私に下された罰なのです」
諦めたように笑う三倉智子を見て決めた。ならば自分が支援する場所を作ろうと。
それから朱寧の行動は速かった。
全国を回って作り上げた人脈と金を使い、支援センターを創設した。
子に恵まれず虐げられ、住処と仕事、家族を失った女性達に職業訓練や住居の提供、仕事の斡旋に弁護士の紹介など思いつくものは全て無償で提供した。
運営費は家業で得た利益と、支援センターを応援する人々からの寄付金で賄った。
重大なトラブルがあれば朱寧は自ら出向き、解決する。朱寧の名は次第に広がり、龍族以外の種族にも一目置かれるようになった。
支援センターが軌道に乗り出した頃、三倉智子から手紙が届いた。
彼女は人伝に朱寧の活動を知ったそうで、感謝を伝える為に手紙を書いてくれた。
朱寧は嬉しかった。
彼女の存在があったから支援センターを作ろうと思った。
虐げられた女性を守りたい。
朱寧の考えに賛同してくれた者達がいたからこそ、ここまで来られた。
支援センターを卒業した者の中にはボランティアスタッフとして参加してくれる者もいる。
決して自分一人の力ではない。
不幸な女性が一人もいなくなるまで活動を続ける。
返事に書かれた文字を見て、三倉は嬉しさで涙が溢れて止まらなかった。
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