136 / 201
明石の章
明石の章㊱
しおりを挟む毎日屋敷前で土下座をする明石を哀れみ、止めるよう促す者もいた。
明石を支援するかのように、匿名で雀鷂達のいじめを告発する者も現れた。
これまで明石に救われた母子達も署名を集め、助命嘆願書を送ったが宰相に動きは無かった。
判決前日。
大雨が降る中も明石は土下座をしていた。
両親は心を痛め、床に伏してしまった。
動けるのは自分しかいない。もし今日で動きがなかった場合、明石は己の命に代えてでも死刑判決を止めるつもりだった。
体を打ち付ける雨が止む。
顔を上げると、美しい姫君が明石に傘を差し出していた。
『風邪を引きますわよ』
この顔は知っている。
黒狐族自慢のプリンセス、若紫だ。
『・・・王女様?』
『ねぇ明石、今貴女の前には二つの選択肢があります。一つ。妹君と弟君を解放する代わりにある重要なお役目を引き受けること。二つ。今の話を忘れ、明日下される厳しい判決を受け入れること。健気な貴女にチャンスを差し上げますわ。お好きな方を選んで下さい』
ニコッと若紫は笑った。
『・・・本当に、本当に妹と弟を解放して下さるのですか?』
『ええ。勿論』
若紫はあっさりと答えた。
『相手は宰相様ですが、本当に・・・?』
宰相の地位は王に次ぐ序列二位。
王の子女といえども、宰相の決定を覆すのは難しいのではないだろうか?
明石の不安が伝わったのだろう。若紫は柔らかく微笑んだ。
『問題ありませんわ。何故なら黒狐族において、私より立場が上の者などいないからです』
明石は現黒狐族王の顔が浮かんだ。
黒狐族で誰が一番尊いかと問われれば、答えは間違いなく王だ。
王より上の立場とは一体・・・?
『さあ、哀れで美しい明石。貴女はどちらを選びますか?』
何故王女が自分を知っているかは分からない。
不安はあるが、頼れるのはもう若紫しかいない。明石は若紫に土下座して懇願した。
『お願いします。妹と弟を助けて下さい!私はどうなろうと構いません!』
『賢明な判断で何よりですわ』
若紫は満足そうに目を細めると、宰相の屋敷に入っていった。その後を朝顔がぴったりとついて行く。
気が付くと雨は止んでいた。
その日のうちに妹と弟は全員釈放され、厳重注意と神殿での無料奉仕一ヶ月の処罰が下された。
明石の辞表も取り消され、神官の籍は残ったままとなった。
これまで明石が受けたいじめも調査され、雀鷂と送火、菖蒲は謹慎処分を受けた。
明石の名誉は回復されたが、神殿はもう彼女の帰る場所ではない。
明石は荷物をまとめると、王城へ向かった。
家族には全て話した。若紫の提案を受け入れ、呪われた六種族との見合いに応じると。
自分達の釈放と引き換えに姉が六種族に嫁ぐ。話を聞いた妹弟は俯いて泣いた。
ただ、常磐だけは泣かなかった。
『姉さん。嫌じゃないの・・・?』
『不思議と嫌悪感はないの。同族の方が怖いなんておかしな話よね』
『そんなことないよ。あの馬鹿女、もっとひっぱたいておけば良かった』
『牢屋暮らしはもう懲り懲りでしょう?』
『はは、確かにもう遠慮したいわ』
『常磐、大好きよ。姉さんの妹に産まれてきてくれてありがとう』
『うん』
明石は家族に別れを告げ、笑顔で生まれた家を去った。
0
あなたにおすすめの小説
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
【完結】一番腹黒いのはだあれ?
やまぐちこはる
恋愛
■□■
貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。
三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。
しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。
ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。
BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。
父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した!
メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
好きな人と結婚出来ない俺に、姉が言った
しがついつか
恋愛
グレイキャット伯爵家の嫡男ジョージには、平民の恋人がいた。
彼女を妻にしたいと訴えるも、身分の差を理由に両親から反対される。
両親は彼の婚約者を選定中であった。
伯爵家を継ぐのだ。
伴侶が貴族の作法を知らない者では話にならない。
平民は諦めろ。
貴族らしく政略結婚を受け入れろ。
好きな人と結ばれない現実に憤る彼に、姉は言った。
「――で、彼女と結婚するために貴方はこれから何をするつもりなの?」
待ってるだけでは何も手に入らないのだから。
【完結】お父様の再婚相手は美人様
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
シャルルの父親が子連れと再婚した!
二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。
でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる