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浮舟の章
浮舟の章③
しおりを挟む突然の最終審査開始にイフラースは魂が抜けそうになっていた。
白目を剥いて固まるレオパを無視し、ルークは絵画をジッと見比べた後にスマホで撮影していた。
ルークの眉間に皺が寄る。
目利きのバイヤーの審美眼を以てしても真偽の判別は難しかった。
「浮舟姫、この絵画の作者を伺っても?」
「秘密」
浮舟はニヤリと笑った。
「でもこれだけは教えてあげる。地上の作家ではないわ」
作者は天界の画家。
地上の画家なら自信のあるルークだが、天界の画家となると一気に難易度は高くなる。
何故なら天界の作品は地上に出回らない。
存在はしても王族か旧家所有、もしくは神殿の至宝として管理されているのが殆どだからだ。
イフラースとルークは薄々感じていた。
二枚の内一枚は、浮舟が描いた絵だ。
『本物』は浮舟か否か。
分かりやすいが逆に不安だ。
どちらも浮舟、もしくは浮舟ではない意地悪問題の可能性も否定できない。
「回答は一週間後。絵は期間中、ずっとこの部屋に飾っておくから好きに見て」
それだけ告げると浮舟は灰簾と共に去ってしまった。
部屋に残されたイフラースはピンッと背筋を伸ばし、二枚の絵を見比べる。
中央に椅子を置き、遠くから眺めても見た。
探そう。きっと何かヒントがあると信じて。
その横でルークが何やらブツブツ呟いているが、専門用語は分からない。
イフラースは心を無にして絵画と向き合った。
突然の最終審査開始に空とユアンも戸惑った。
今日は三人でイタリアンだ。
空とユアンは早速絵を見せて貰うと、二人揃って黙り込んだ。
「・・・同じですよね?」
「私だけかと思いましたが、空くんも同じに見えます??」
「はい」
「ですよね・・・実物を見ても何が違うのか分かりませんでした」
イフラースはボロネーゼを食べながらため息をついた。
「筆のタッチはどうです?」
「画家には癖があるそうですが」
「浮舟さんは最終審査を最初から決めていたんだと思います。どれだけお願いしても画集すら見せてくれませんでしたから」
「用意周到ですね・・・」
ユアンは感心して呟いた。
浮舟という人物は気難しくて皮肉屋。笑顔は滅多に見せず愛想もない。その上気が乗らなければ喋らない。
画家という職業と人並み外れた美しさから何処か浮世離れして見える。
『八人の美姫』で最も近寄りがたい美人だ。
唯一の例外があるとすれば、それは親友の明石だ。
抑揚のない口調が明石だと嬉しそうに弾む。表情も柔らかだ。
イフラースは明石が呟いた一言が頭から離れなかった。
『どうか、浮舟の全てを受け止めて下さい』
彼女の過去に何があったのか分からない。
どのような過去があろうと、イフラースは浮舟の全てを受け止める覚悟は出来ている。
『鉱山王』イフラースもある悲劇を乗り越え、一人で今の地位を守り続けているのだから。
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