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浮舟の章
明石の章④
しおりを挟むイフラースは鉱山業で財を成した父ミドハトと母アズィーザの間に産まれた嫡男だ。
父ミドハトはイフラースと同じ黄色のレオパで、母アズィーザは美しい青色のアオホソオオトカゲだ。
アズィーザは褐色の肌に豊かな金髪、長い睫と大きな青い目、形のよい赤い唇が印象的な美人だ。
背も高く体付きも魅力的で、頭も良い。実家も裕福だった。
誰の目から見ても彼女は完璧だったが、縁談に恵まれなかった。
理由は彼女の左足だ。
アズィーザは左足が欠けた状態で産まれた。
歪な足は立つことすら難しく、彼女は補助具無しでは歩けなかった。
左足を引きずるように歩く姿が不格好だと、実の両親からも疎まれていた。
中肉中背で、目は大きいが平均的な容姿をしたミドハトは大学で彼女に出会った。
隣の席に座った美女にすっかり心を奪われた。
彼は後にイフラースにこう話している。
『妖精が隣に座ったかと思った』と。
その日からミドハトの猛アタックが始まった。
アズィーザは左足を理由に交際を断ったが、ミドハトは気にしなかった。
彼女の歩調に合わせて歩き、生活もアズィーザを優先させた。
アズィーザが暮らしやすいように家を整え、最新式の補助具を見に鹿の国へ行く。
優しいミドハトにすっかり絆されたアズィーザは彼を受け入れ、結婚を前提とした交際が始まった。
大学卒業と同時にミドハトが両親に彼女を紹介すると、結婚を猛反対された。
理由はアズィーザの左足だ。
こんな嫁を貰っては家名に傷がつく。世間の笑いものになってしまうと両親は二人を罵倒した。
激怒したミドハトは両親の反対を押し切ってアズィーザと結婚した。
結婚の無効を訴えようとした両親だが、世間の目を気にして出来なかった。
その代わり息子夫妻にある条件を突き付けた。
『三年以内に子が出来なければ離婚しろ』
有鱗目族の人口減少率は龍族に次いで第二位。初婚で子に恵まれる確率は限りなく低かった。
ミドハトは子が出来なくてもアズィーザと別れるつもりは毛頭なかった。
三年もあれば充分だ。
その間に資金と人脈を手に入れ、他国で起業すれば良い。
野心的で頭も切れるミドハトにはその才能があった。妻の敵となるなら両親であろうとも容赦はしない。
ミドハトにとって大切なのはアズィーザだけだ。妻のためなら鬼にも悪魔にもなれた。
幸い、両親に牙を剥く前に奇跡が起きた。
結婚して一年後に二人の宝物となる男児が産まれた。
それがイフラースだ。
幼いイフラースでも分かっていた。
母が祖父母に罵られ、意地悪をされていることを。
父に取り入ろうとする取引先や仲の良い友人達が裏で母を馬鹿にしていることも、全部知っていた。
その全てから母を守る父をイフラースは尊敬していた。
だが不甲斐ない自分は父の最後の願いを叶えてやれなかった。
大切な母を守れなかった。
逆に、守られたのだ。
周りは全員そう言っていた。
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