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浮舟の章
浮舟の章⑨
しおりを挟む「・・・嫌われてしまいました・・・」
イフラースは落ち込んでいた。
今日のランチは『イフラースを励ます会』となり、空とユアンは必死にイフラースを慰めていた。
ユアンは追加でフルーツパフェを注文し、イフラースの前に置く。
イフラースはパフェの上に乗っている林檎を手に取り、ゆっくりと囓った。
優しい言葉でイフラースを慰めている空とユアンだが、心の中では浮舟に怒っていた。
何の前触れもなく、理由も知らせずイフラースに暴力を振るった。
無断で絵に触れた行動が癪に障ったにせよ、イフラースを殴って蹴った上に首を絞めるのは違うだろう。
イフラースが大好きな二人は言いたかった。
そんな酷い女は諦めた方が良い。
浮舟のためにイフラースが傷付く必要などこれっぽっちも無いと。
でも言えなかった。
どれだけ酷い女でも、イフラースは浮舟が好きなのだ。
『女を見る目がない』
確かにそうだ。だが浮舟は逆だ。
「浮舟さんは男を見る目がありますね」
「え?」
「そうですね。優しくて包容力があって、好きな人のためなら自身が傷付く事も厭わない。浮舟殿は純粋な心に惹かれたのでしょう・・・。だから遠慮無くやれる」
浮舟の狂気の根本は分からない。
ユアンは『綺麗』というワードが引っかかっていた。
浮舟がイフラースを選んだのは誰よりも綺麗だからだと。
間違いない、それは『心』を指す。
イフラースは優しい。
そして余り表に出てこなかった影響か、二六とは思えぬほど心が澄んでいる。
破壊衝動と加虐性を秘めた彼女が羨ましく思うのも無理はない。羨ましいの対義語は妬ましいだ。
妬ましいから、壊すのも罪悪感がない。
ユアンとしてはこれ以上浮舟に関わって欲しくない。
優しさを搾取され、ボロボロに壊されるイフラースを想像したくなかった。
「大丈夫ですよ」
ユアンの考えを見抜いたのか、イフラースは笑った。
「伊達に鉱山王と呼ばれていませんから。確かに戦うのは苦手ですが、心も体も頑丈なんです」
「でも、それじゃあ・・・」
空は俯いた。
心も体も強ければ、いくらでも痛めつけられても良いのだろうか?
そんなの余りにも辛い。
優しいイフラースは同じように優しい女性を愛して欲しい。
傷つけられるだけの恋愛など彼に相応しくない。
止めるなら今だ。
空が顔を上げると、イフラースは何時ものように優しく笑っていた。
「空くん、大丈夫ですよ。私は立ち止まれますから。だから引き留める事も出来るんですよ」
「引き留める?」
自分で言った何気ない一言にイフラースはハッとなった。
『貴方に求めているのはソレじゃない』
『浮舟殿がイフラース殿に求める役割は果たして同調でしょうか・・・?』
・・・ああ。そういう事か。
イフラースは自分が何を求められているか、やっと分かった気がした。
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