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浮舟の章
浮舟の章⑩
しおりを挟むその頃、煮詰まったルークは気分転換に薔薇の庭でカフェオレを飲んでいた。
「キュン!」
「ああ、また君か」
黒に淡いグレーの毛が混ざった、小さな長毛のモフモフ犬。
大きな焦げ茶の目はキラキラとルークを見上げた。
「ほら、今日はクッキーを持ってきたぞ」
「キュ~~ン!」
食べやすいようにクッキーを割り、モフモフの口元へ持っていく。
モフモフは嬉しそうにクッキーを食べた。
同じくモフモフで長い尻尾が嬉しそうに揺れる。大きな耳もピコピコ動いていた。
何と愛らしいのか。
その動きも表情も、全てが癒やしになる。尊い存在にルークは柔らかく微笑んだ。
「美味いか?」
「キュン!」
「そうか」
ルークはモフモフの頭を優しく撫でた。
このモフモフとの出会いは少し前に遡る。
朝顔との見合い終了後、疲れ切ったルークはこの場所でカフェオレを飲んでいた。
朝顔と対面で見合いをするためには試練が必要だったが、女性と戦うなどとんでもない。
肉弾戦の不合理さをつき、理論的に戦闘を回避したルークだが待ち受けていたのは頭脳戦だった。
三対一での花札対決。何とか勝利したがその後の見合いはもっと疲れた。
朝顔という女性は色々と規格外だ。ルークはその存在に圧倒された。
最後は鼻で笑われたが嫌では無い。
彼女からすれば自分は何ともつまらなく、面白みのない男だろうから。
ふぅ、とため息をついた時、キャットミントの花がガサガサと揺れた。
何事かと覗いて見たら、このモフモフが縮こまって震えていた。
『犬?』
『キュ~~ン・・・』
震える姿が何とも哀れで、ルークはモフモフを胸元に入れると神殿案内所へ向かった。
落とし物として届けるのは如何な物かと思ったが、慣れているのか案内所の神官は笑顔でモフモフを受け取った。
『キュン!』
ありがとうと聞こえた気がした。
以来、モフモフはルークがここで休んでいると欠かさず現れるようになった。
・・・そして、気のせいでなければもう一匹いる。
「今日は最初に会った子だろう?相方の分も用意したから持って帰って食べろ」
ルークは小さな包みをモフモフの体に巻き付けた。
「キュン!」
モフモフはルークの足下にギュッとしがみついた後、スリスリして帰って行った。
悩んでいた心が一気に癒やされていくようだ。モフモフは正義である。
「さて・・・行くか」
ルークは再び絵に向き合う。
真贋を見極めようとする真剣な背中を、二匹のモフモフは静かに見守っていたのだった。
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