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浮舟の章
浮舟の章⑬
しおりを挟むその後、馬鹿女は弁護士を通して後見人に名乗りを上げたが無視した。
一人になった浮舟だが、後見人は信頼できる人物を選んでいた。
黒狐族美術協会現会長、端眼だ。
彼は困窮していた浮舟を見かね、援助してくれた優しい紳士だ。
見た目は長い髭の好々爺だが、美術の話になると眼が鋭くなる。端眼自身も名の知れた芸術家だ。年を取っても創作意欲は衰えない。優秀な弟子も多く輩出した偉大な芸術家だ。
彼は浮舟の才能を父の次に見抜いた。
路上で似顔絵を売る浮舟の未来を憂い、真っ先に養子縁組みの話を持ちかけてくれた。
父に治療を奨めてくれた恩もあって、浮舟は後見人選定の際に端眼の名を上げた。
幸い、彼は快く引き受けてくれた。
お金持ちで大らかで優しくて、美術の知識も豊富だ。
浮舟にとって端眼は理想の親のような存在だ。
端眼に母のことを相談すると、彼は眉を顰めていた。
浮舟に心酔するファンの中には優秀な弁護士が何人もいた。
馬鹿女は端眼と優秀な弁護士達に任せて浮舟は創作に没頭した。
残念ながら親子の縁を切る法律は存在しない。
桜詩と浮舟は血が繋がった実の親子だ。
ただ事情が事情なので誰も浮舟を責めたりしない。
彼女が路上で似顔絵を売り、父を支えていた話は余りにも有名だったからだ。
その後の悲劇も知れ渡っている。
世間は浮舟を擁護して桜詩を非難した。
それでも桜詩は浮舟にしがみついた。恥など無い。何としても娘から金を引き出し、元の華やかな生活に戻りたがった。
・・・殺すか。
浮舟を引き留めるものは何もない。
だから遠慮無く出来る。邪魔をするなら馬鹿女の夫もまとめてあの世に送ろうと思った。
馬鹿女の夫も最近はスランプ気味で荒れていると聞く。
ざまあみろ。天罰だ。
踏み台にした男の娘が天罰の締めを飾る。我ながら美しいのではないだろうか。
馬鹿女が住む家を見つけると、短刀の鞘を抜いた。
突撃しようとした瞬間。なんの偶然か明石と再会した。
『・・・浮舟?』
『明石・・・』
浮舟と明石は幼なじみだ。
優しい明石が大好きだった。
一人っ子の浮舟はよく明石の家に遊びに行っていた。おかずを取り合う賑やかな食事がとても楽しかったのを覚えている。
母が家を出てから一気に生活が立ちゆかなくり、父子は借家を追い出された。
僅かな画材を持って浮草と浮舟は治安の悪い地区のボロアパートに引っ越した。
別れの挨拶すら出来ず落ち込んだ浮舟だったが、まさか今明石と再会するとは。
『浮舟・・・どうしたの?』
『・・・別に、何も』
『嘘。良いから話して。浮舟は今、すっごく苦しそうだもの。お願い』
ギュッと握りしめられた手が温かい。
温もりを感じたのは何時ぶりだろうか。
浮舟は気付いたら泣いていた。
『明石・・・明石!!』
『浮舟、大丈夫。もう大丈夫だよ』
明石の大きな胸に顔を埋めて浮舟は泣いた。
明石も一緒に泣いてくれた。頭を撫でる手が優しくて安心した。
浮舟は明石に全てを話した。
重く暗い話だったが明石は真剣に聞いてくれた。
そして明石は浮舟をある場所まで連れて行った。
大神殿家庭・人権科。
当時見習い神官だった明石は先輩方に事情を説明し、何とか浮舟の力になれないか必死で懇願した。
美術協会会長と敏腕弁護士が間に入っても引き下がらなかった女だ。
その目的が浮舟の金であることは明白。
当時の室長は浮舟が母親に搾取され、重大な人権侵害が起こる可能性があると危惧した。
後見人端眼、弁護士軍団、家庭・人権科室長が集まって一つの結論を出した。
彼らは合同で詩桜を訴えた。
彼女に対して親権の永久剥奪と接近禁止を裁判所に申し立てたのだ。
桜詩は猛反発したが泥沼化することなく、裁判は呆気なく決着が付いた。
全てを知った彼女の現夫が和解を申し出たからだ。
恥をかかされた現夫は青あざだらけでボロボロの詩桜を伴い、裁判所に現れた。
桜詩は夫が見守る中、震える手で和解案に署名した。
その後、馬鹿女がどうなったかは知らない。
周りも姿を見ていないそうだ。
監禁でもされているのだろうか?ひょっとしたら埋められているかも知れない。
あの馬鹿女の末路を知って浮舟は清々した。
ここから明石一家との交流が再開し、狂気と破壊衝動は落ち着くようになった。
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