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浮舟の章
浮舟の章㉓
しおりを挟むその頃、ルークは薔薇の庭園でカフェオレを飲んでいた。
頭の中では冷静に敗因を分析していた。
己は絵の真贋だけに囚われ、イフラースは浮舟の心に寄り添った。
絵の真贋を見極めるだけなら間違いなく己の目が正しかった。
だが彼女が求める答えを導き出したのはイフラースだった。
「はぁ・・・認めたくはないが、完敗、か」
ため息をつくと、「キュン!」と鳴き声が聞こえた。
「・・・君達は・・・」
黒と灰色の、長毛のモフモフ。
今日は何と二匹揃っていた。
「キュ~~ン・・・」
最初に出会った子がルークを慰めるように見上げた。
もう一匹は遠慮なく膝に上がる。モフモフ達は敗北した男を慰めに来てくれたのだろう。
「負けたよ。私はどうやら結婚に縁がないらしい」
そんなことはないとモフモフ達は首を振る。
こんなに小さな子達にまで気を使わせてしまい、申し訳ない。
ルークはモフモフ達の頭を優しく撫でた。
「結婚には縁がなかったが、ペットに縁はあるようだ。飼い主がいないなら一緒に来るか?不自由はさせないぞ」
一緒に来るか。
その一言にモフモフ達は瞳を輝かせた。
「「キュン!」」
モフモフ達はルークを引っ張り、立つように促すと歩き始める。
何度も振り返り、ルークがちゃんと付いて来ているか確認していた。
「?」
モフモフ達が何をしたいか分からないが、ルークは後を追ってみた。
追ってみると、ルークは立ち入りが禁止されている大神殿最深部まで案内された。
一際豪華な扉の前でモフモフ達は立ち止まると、若紫の護衛である瑠璃が扉を開いた。
「ルーク殿ですね。お待ちしていました」
「??」
中に入るよう促されると、モフモフ達は椅子に座る若紫の足下へ駆け寄った。
・・・ひょっとしてこの子達は王女の飼い犬だったのだろうか?
王女の飼い犬を拐かした犯人としてここへ連れて来られたのだろうか?
だとしたら誤解だ。
ルークはこのピンチをどう切り抜けるか考えていると、若紫は柔らかく微笑んだ。
「ルーク殿、話は聞いていますわ。この子達を娶りたいという事で間違いはないでしょうか?」
「・・ん?」
娶る??誰を??
「胡梅、冬梅。本来の姿をルーク殿にお見せなさい」
モフモフ達は頷くと、ポンッと音を立てて真の姿を現わした。
「・・・は?」
ルークは固まって動けなくなった。
人型になったモフモフ達は雪のように白い肌をしていた。
目元は涼やかで小さな唇は薄い紅色。その顔は品があり、清楚系の整った顔立ちをしていた。
長い髪は艶やかな黒と灰色で、尻尾はモフモフ達と同じふわっとした長毛だ。
二人は双子ではないが、実の姉妹でとてもよく似ていた。
モフモフ達は美しい黒狐族の女性だった。
「ルーク様・・・嬉しいです」
「我ら姉妹、喜んでルーク様に嫁ぎます」
「?????」
混乱するルークに若紫は満面の笑みを浮かべて説明を始めた。
「胡梅と冬梅は私の侍女です。由緒正しい伯爵家令嬢ですわ。彼女達は北方出身で、ある変わった風習があるのです」
「風習?」
「ええ。ルーク殿はソロレート婚をご存じですか?」
「ソロレート婚・・・?」
「二次婚姻を指します。妻を亡くした夫が再婚相手に妻の姉妹を選び、娶る慣習をソロレート婚といいます」
財産の流出を防ぐ目的で行なわれる婚姻だ。
愛など関係なく、家同志で結ばれる契約結婚の意味合いも強い。
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