174 / 201
浮舟の章
浮舟の章㉔
しおりを挟む「彼女達が住む地方はソロレート婚が盛んに行なわれてる場所でもありましたの。初期は娶る度に盛大な式を挙げていたそうなのですが、次第に面倒くさくなったのでしょう。ある年から姉妹がまとめて嫁ぐようになったのです」
はぁ、と若紫はため息をついた。
「結婚式は女性にとっても夢ですのにね。と、いうわけでルーク殿。胡梅と冬梅をよろしくお願い致します」
ニコリと笑う若紫にルークは慌てて反論した。
「ちょっと待って下さい!!彼女達を連れて帰ると言ったのはペットとしてであって、妻ではない!」
「そんな・・・酷い」
「私達を弄んだのですか・・・?」
「それは違う!!」
ペットと聞いた胡梅と冬梅はとても傷付いた顔をしていて、ルークは即座に弁明した。
「知らなかったんだ。君達が黒狐族だったなんて」
「確かに犬と仰っていましたね」
「私をお膝に乗せてモフモフしていましたし」
「ぐっ・・・!」
思い出すのはモフモフ達に癒やされた日々。
撫でてこねくり回し、腹に顔を埋めたりした。
黒狐族の女性と知っていたらもっと丁重に扱っていた。
ルークは己の行動を深く反省していた。
「・・・ルーク様。私はあの日からルーク様をお慕いしておりました。お願いします。私達をルーク様の妻として迎えて下さい」
胡梅は泣いて頭を下げた。
ルークと出会ったあの日。
胡梅は好奇心から余所見をしてしまい、皆とはぐれてしまった。
神殿の中には女日照りで結婚できない六種族成人男子が大勢いる。
正体が露見すればどんな目に遭うか分からない。
胡梅は想像しただけで震えた。
急いでキャットミントの花の中に隠れ、人気がなくなるまで身を潜めようとした。
ジッとしているのに耐えられず、少しだけ動いたらルークが見つけてくれた。
彼はとても優しい鹿で、胡梅を案内所まで連れて行ってくれた。
その日から胡梅はずっとルークを見ていた。
姉妹が一緒に嫁ぐ風習が色濃く残る地域出身なので、彼に嫁ぐなら妹も一緒だ。
好きになった人を教えると、冬梅は胡梅のふりをしてルークに接近した。
インテリ風イケメンが見せる甘い顔に冬梅もすっかり骨抜きにされてしまった。
ルークが浮舟の最終候補者として選ばれたときは悲しかったが、敗れたのなら自分達にもチャンスがある。
他でもない、ルークが一緒に来るかと言ったのだから。
涙を流す胡梅を見るとルークは強い言葉で断れなくなった。
「・・・だが、鹿族は一夫多妻を認めていない」
「あら、そんな些細なことを貴方が気にしますか?」
若紫は笑った。
「気骨のインテリさん。貴方の妻になりたいと胡梅が泣いてお願いをしているのです。断るのは無粋では?」
「・・・胡梅殿の気持ちは分かった。だが冬梅殿はどうなる?風習は尊重すべきだが、私は無理強いをしたくない」
「え?好きですよ。嫌じゃないです。是非お願いします」
あっさり答えられてルークは天を仰いだ。
彼女達は王女の侍女で、初顔合わせは王女の部屋。
これはつまり、王女が仲介した見合いとなる。
断るなど許されない。
優雅な笑みを浮かべているが、ルークは若紫からずっと強い圧を感じていた。
妻を二人も連れて帰れば批判は必須。総叩きに遭うのは目に見えている。
・・・それでも。
「「ルーク様・・・」」
潤んだ瞳で見上げられると断れない。
ルークは女性の涙に弱かった。
それに他ならぬ自分が言ったのだ。一緒に帰るかと。
「任せなさい。権力圧力世論諸々と戦うのは慣れている。最早特技だ」
「「はい!!」」
泣きながら抱きつく新妻達をルークは優しく抱きしめた。
その後、ルークの結婚は国に大論争を呼び起こしたが彼は『風習』『伝統』という言葉を使って世論をねじ伏せた。
胡梅と冬梅は正式にルークの妻となり、子供も産まれ幸せな家庭を築いたそうだ。
0
あなたにおすすめの小説
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
【完結】一番腹黒いのはだあれ?
やまぐちこはる
恋愛
■□■
貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。
三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。
しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。
ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。
BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。
父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した!
メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
好きな人と結婚出来ない俺に、姉が言った
しがついつか
恋愛
グレイキャット伯爵家の嫡男ジョージには、平民の恋人がいた。
彼女を妻にしたいと訴えるも、身分の差を理由に両親から反対される。
両親は彼の婚約者を選定中であった。
伯爵家を継ぐのだ。
伴侶が貴族の作法を知らない者では話にならない。
平民は諦めろ。
貴族らしく政略結婚を受け入れろ。
好きな人と結ばれない現実に憤る彼に、姉は言った。
「――で、彼女と結婚するために貴方はこれから何をするつもりなの?」
待ってるだけでは何も手に入らないのだから。
【完結】お父様の再婚相手は美人様
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
シャルルの父親が子連れと再婚した!
二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。
でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる