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浮舟の章
浮舟の章㉘
しおりを挟む浮舟は人生初の飛行機に乗っていた。
隣で眠るレオパ殿は本当に愛らしい。グウグウ、むにゃむにゃと彼の寝息は聞いていて本当に飽きない。
空から見た有鱗目の国は噂に聞く通り、砂漠と岩が多かった。
初めて見る景色は新鮮で飽きなかった。
座席のパンフレットを手に取って読むと、沢山の観光名所が紹介されていた。
有鱗目の国も最新の技術によって、少しずつだが緑も増えてきているらしい。
美しいオアシスは少しずつ拡大し、人が集まる。小さな集落はやがて大きな町に成長するだろう。
この国はまだまだ発展していく。
この地に降り立った最初の黒狐族として、浮舟は何処まで見届けられるのか楽しみで仕方ない。
インスピレーションがどんどん湧いてくる。
イフラースの家に着いたらアトリエを作ろう。新しいアトリエで美しい絵を描こう。
いつか、この手で家族の肖像画を描きたいと思った。
きっと貴方は喜んでくれるでしょう?一番の宝にしてくれるでしょう?
浮舟は眠るイフラースを見て微笑んだ。
浮舟は天空の庭に立っていた。
フマヤドの花は美しく咲き誇っていた。風に揺れる赤い花。
夢のような光景はまるで浮舟を歓迎するかのようだった。
「綺麗に整備されているじゃない」
「・・・母が亡くなった場所ですけど、荒れ地にするのは忍びなくて」
「優しい貴方らしいわ。ねぇ、危ないところはフェンスでも立てる?」
「フェンスですか?」
「そう、転落防止に」
ふふ、と浮舟は笑った。
「子どもが落ちたら危ないでしょう?」
意味を理解したイフラースは顔を真っ赤にした。
「可愛いレオパの子どもが良いわ。性別にこだわりとかある?」
「あ、ありません!!無事に産まれてくれさえば・・・」
「ま、それが一番よね。私育児には自信ないから任せたわよ」
このままでは家事育児全てがイフラースの担当となる。
お人好しで優しいイフラースは気が付かず、拳で胸を叩いた。
「任せて下さい!」
「よろしくね」
浮舟はニヤリと笑った。
天国にいるイフラースの両親が今の会話を聞いていたら頭を抱えているだろう。
息子は悪い女を選んでしまった。
どうか過労死だけは避けてくれと必死で祈っているに違いない。
・・・でもね、選んだのは彼。
先に私を好きになったのも彼。
こんなに優しくて何でも言うことを聞いてくれて、その上容姿も美しく超が付くお金持ち。
黒狐族でも滅多に見つからない超優良物件を手放すわけがない。
浮舟はギュッとイフラースに抱きついた。イフラースはぎこちない動きだが、浮舟の体を優しく抱きしめた。
優しい貴方。
私に全てを捧げてくれる代わりに私も貴方に捧げよう。
愛と優しさの搾取ではなく、互いに満たせる関係を築いていこう。
愛し方など分からないし教わったこともないが、自分なりの表現を模索しよう。
どんな表現でもきっと貴方は見抜いてくれると信じているから。
浮舟はフマヤドの花を摘むと、柔らかく微笑みながらイフラースに差し出した。
その笑顔が余りにも美しく、イフラースは目が離せなかった。
何とか記憶に焼き付けたくて暫く見つめた後、イフラースは妻から差し出されたフマヤドの花を受け取ったのだった。
浮舟の章~終わり~
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