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花散里の章
花散里の章⑥
しおりを挟む翌日、花散里はウィリアムと大神殿内歴史資料館でデートをしていた。
「ウィリアム様は領主と歴史研究家。二つの顔を持っていらっしゃいますが、切っ掛けを伺っても?」
猫の国三大領主の一角、スルーズヘルムを統治するウィリアムは優秀な領主でありながら歴史研究家としても名を馳せていた。
「・・・切っ掛けはある物語です。敷地内に古い蔵があるのですが、父の本を保管するためにリフォームを始めると壁の中から一冊の本が発見されました」
ウィリアムはスルーズヘルムを統治する大領主の嫡男として産まれた。
幼き頃から優秀で、責任感が強い性格だった。
敏いウィリアムは自分がどの様な振る舞いを求められているか理解していた。
スルーズヘルムを更に良くする為に良きものは率先して取り入れ、悪しき習慣は切って捨てる。批判の声は正面から叩き潰した。
冷酷、悪魔と罵られても何とも思わなかった。
全ては国と領民の為。
私情を挟まず冷酷な判断が下せる息子は父・ヘンリーの自慢でもあった。
ウィリアムが二十六の誕生日を迎えると、元々体の弱かったヘンリーは領主を引退し療養に入った。
療養も虚しくヘンリーは間もなく病死したが、その顔は非常に穏やかでまるで眠っているようだった。
ヘンリーは読書家だった。
父の死後、大量の本を蔵に移動していたウィリアムは経年劣化し朽ちた壁が目に付いた。
父の本は最高の環境で保管したかった。
すぐに業者を呼び、リフォームを始めると大工が壁の中に隠された木箱を発見した。
ボロボロで、今にも崩れ落ちそうな箱の中には一冊の本が入っていた。
箱のお陰かなのか、長く壁に隠された本とは思えぬほど保存状態は良かった。
『愛の王子と二人の騎士』 作者・アナキン
それが隠されていた本のタイトルだ。
「読み進めていくと、この本にはある事実が隠されていることに気が付きました。そして面白いことに、二人いる騎士の内一人はピューマなんです」
「ウィリアム様と一緒ですね。ひょっとしてモデルは御先祖様では?」
「私もそう思います。そして愛の王子にも明確なモデルがいるのです」
「まぁ。きっと素敵な御方なのですね」
「・・・伝説の王子、レオベルト。私は彼で間違いないと思っています」
本にはこう綴られていた。
我ら騎士、愛に生きる王子に付き従い美しき姫を迎えに行くのだと。
物語はレオベルト王子が何かしらの騒動を起こし、牢に閉じ込められていた所から始まる。
遠くへ嫁いでいた王子の姉が二人の騎士に依頼し、弟の脱走を手引きする。
王子には大切な恋人がいて、彼女を迎えに行かねばならない。
真摯な愛に心打たれた騎士達は王子と共に、急いである国へ向かった。
読み進めていくと気付いた。
この物語は記録も兼ねている。レオベルト王子と二人の騎士がどの様なルートを使ってかの国へ辿り着いたかも。
そして以前から謎に包まれていた離島の秘密をウィリアムは知ってしまった。
遺体無き二基の墓。
一基はレオベルト王子、もう一基は彼が愛した女性のものだとされていた。
物語を読んで確信した。レオノーラ王女は知っていた。知っていた上で、敢えてその名を墓に刻まなかった。
弟王子が愛した者を知られるわけにはいかなかったからだ。
本にはしっかりと彼女の名が記載されていた。
・・・『サンノミヤ』と。
レオベルト王子が命を懸けて愛したのは、黒狐族の女性だった。
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