187 / 201
花散里の章
花散里の章⑦
しおりを挟む本には彼女の詳細も書かれていた。
サンノミヤは黒狐族王家のプリンセスで、三番目に生まれた娘だからサンノミヤと名付けられたそうだ。
小柄で大変愛らしく、レオベルト王子は一目で恋に落ち二人はやがて恋仲となった。
だが、虐殺が二人の仲を引き裂いた。
レオベルト王子は虐殺に遭い、滅亡一歩手前の国からサンノミヤを迎えに行ったのだ。
あの島はレオノーラ王女が二人の隠れ家として用意した物だ。
町も、レオベルト王子が出来るだけ多くの黒狐族を連れて帰るために設備された。
・・・結局、使われぬままで終わった。
物語の結末も二つ用意されていた。
一つは事実。
もう一つは騎士達が望んだ未来。
・・・現実は残酷だ。
だからこそ望んだ未来の結末を見て涙が出た。
胸を打たれたウィリアムは物語と史実を照らし合わせ、王子と騎士が辿ったルートを調べた。
レオベルト王子とサンノミヤ、騎士達の物語が真実だと証明して見せたかった。
研究に没頭し、領地の運営も手を抜かない。
結果、厳格なピューマは独身のまま三十三の誕生日を迎えた。
一人でもウィリアムは満足していた。
三十三の誕生日に研究の成果を発表し、大反響を得たからだ。
手応えを感じたウィリアムは歴史研究家として本格的に活動を始めた。
レオベルト王子の資料が新たに発見されたら自ら出向き、収集する。
研究室は書物と資料で倒壊一歩手前だ。そろそろ増築も必要かもしれない。
ウィリアムはいずれ黒狐族側の資料も確認したいと思っていた。
レオベルト王子が愛したサンノミヤ。
本だけでは掴めない彼女の実像が黒狐の国に必ずあるはずだ。
サンノミヤが確かに実在した証をこの目で確かめたかった。
「・・・つい熱く語ってしまいましたね。失礼」
「いいえ。素敵です。千年前、誰からも否定された恋をウィリアム様が肯定して下さったのです。きっと天国の二人も喜んでいます。騎士様達も」
「・・・確かに。すっかり二人のファンです」
「そういえば、もう一人の騎士、アナキン様は猫族の方なのですか?」
「これが詳細を書いていないのです。分かっているのは彼も何かしらの騒動を起こして牢屋に入れられていたそうですが」
「・・・罪人だったと?」
「恐らく、他種族の男です。騒ぎを起こして牢屋に入れられたものの、扱いに困ったのでしょう。最後は私の先祖が故郷に連れて帰って面倒を見ていたようです」
「仲が良かったのですね」
「二人は戦友でもありますからね。千年も隠され続けた秘密を共有した仲です。正直、羨ましいです」
彼と話すのは好きだ。
理知的で、時折見せる情熱的な一面は好感が持てる。
責任感が強いのも良い。領民の信頼がない男など駄目に決まっている。
その点、彼は領地を手堅く運営する優秀な領主だ。
・・・ああ。自分の駄目な一面が出ている。
感情より理論、条件、将来性。花散里は首を横に振った。
「もっとお話を聞かせて下さい。次はウィリアム様自身のお話を」
「・・・では、チェスをしながらお話ししましょう」
「それは良いですね」
花散里は微笑んだ。
ただ、自分は負けず嫌いだ。勝負事なら尚更。
自分に負けていじけるような男ならここで切ろう。
大人しげな顔に潜む冷酷な一面が出てくるが、微笑みを浮かべて無理矢理引っ込めた。
0
あなたにおすすめの小説
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
【完結】一番腹黒いのはだあれ?
やまぐちこはる
恋愛
■□■
貧しいコイント子爵家のソンドールは、貴族学院には進学せず、騎士学校に通って若くして正騎士となった有望株である。
三歳でコイント家に養子に来たソンドールの生家はパートルム公爵家。
しかし、関わりを持たずに生きてきたため、自分が公爵家生まれだったことなどすっかり忘れていた。
ある日、実の父がソンドールに会いに来て、自分の出自を改めて知り、勝手なことを言う実父に憤りながらも、生家の騒動に巻き込まれていく。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。
BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。
父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した!
メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
好きな人と結婚出来ない俺に、姉が言った
しがついつか
恋愛
グレイキャット伯爵家の嫡男ジョージには、平民の恋人がいた。
彼女を妻にしたいと訴えるも、身分の差を理由に両親から反対される。
両親は彼の婚約者を選定中であった。
伯爵家を継ぐのだ。
伴侶が貴族の作法を知らない者では話にならない。
平民は諦めろ。
貴族らしく政略結婚を受け入れろ。
好きな人と結ばれない現実に憤る彼に、姉は言った。
「――で、彼女と結婚するために貴方はこれから何をするつもりなの?」
待ってるだけでは何も手に入らないのだから。
【完結】お父様の再婚相手は美人様
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
シャルルの父親が子連れと再婚した!
二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。
でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる