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花散里の章
花散里の章⑭
しおりを挟むユアンの心配など知らぬ顔。
花散里はそれはそれは美しい笑顔を浮かべた。
「それでは早速始めます。文車様から順番にお願いします」
「ええ。では第一問。此方をご覧下さい。これは何と書いてあるでしょう」
スクリーンに蚯蚓のような線が何本も映し出される。
アレは一体何だ??
ユアンが戸惑っているとポールがすぐにボタンを押した。ピコン!と可愛らしい音が響く。
「古代人族の象形文字ですな。文車殿、貴女の名前です」
「まぁ、素晴らしい。正解です」
「ハッハッ!私は考古学者ですからね!」
六角形の床が一枚光る。ここに進めと導いているようだ。
ポールはご機嫌に鼻歌を歌いながら前に進む。
本日のポールは真っ赤な作業着を着たグリーンイグアナだ。
有鱗目族が珍しいのか、文車はポールの姿をジッと目で追っていた。
「それでは次は私が。千年前、七カ国で唯一結ばれていた協定は何でしょう?」
明星は声音もセクシーだ。
実を言うと、彼女はユアンが最も苦手とするタイプだ。なので正解が分かっても反応が遅れた。
ポールよりもウィリアムが早かった。これはウィリアムの専門分野だからだ。
「桐の道不可侵協定」
「正解です」
ウィリアムは無表情で一歩前に進む。
クールなピューマに明星は興味深そうに視線を送った。弧を描く唇も色っぽい。
次は花散里の番だ。
「此方をご覧下さい」
スクリーンには映し出されたのは同じ絵が二枚。
可愛らしい黒狐が本を売っている絵だ。
「間違い探しです。右の絵と左の絵は一見同じですが、よく見ると間違いが三つあります。さて、どれでしょう?」
ユアン、ウィリアム、ポールは絵を凝視した。
可愛らしいイラストだが、よく見ると細部まで描き込まれている難易度の高い間違い探しだ。
ド近眼のユアンと右目の視力が極端に悪いウィリアムは正直不利だ。
ユアンが何一つ見つけられないでいると、ポールがボタンを押した。
「左上の本、背表紙の色が違います。手の指が四本になっているのと、ステンドグラスに描かれている犬神の尻尾の先が丸と四角です」
「まぁ凄い。正解です」
嘘だろうとユアンは思った。
実はポールは目が良い。
古代文字に精通する彼は違和感を即座に察知する能力を持つ。
象形文字は似たような形が多く、僅かな違いで意味が大きく異なるものもある。
間違い探しで役に立つとは思わなかったが、ポールはスキップしながら一歩前に進んだ。
「これは面白いですね。花散里、貴女の誘いに乗って良かった」
「光栄です」
文車は侯爵令嬢。配偶神付きの文官とはいえ、花散里の数倍身分が高い。
彼女は花散里の誘いを断ることも出来たのにしなかった。
黒狐族が誇る知識人は『娯楽』に飢えていたからだ。
「ふふ、では次の問題です。これは何でしょう?」
スクリーンに映し出されたのは黒い丸薬。後には青い壺が置かれている。
一番に押したのはユアンだ。
「龍族のみが作れる延命の丸薬です」
「正解です」
ユアンはようやく一歩前に出た。
龍族のみが作れる延命の丸薬は医師なら知っていて当然だ。
長命種の龍族だが、この丸薬はある目的のために作られた。
しかしもう材料は枯渇しており、今ある丸薬がなくなれば二度と作られないと聞く。
アスティズ家はどうにか研究しようと伏雅に何度も手紙を送ったが無視されていた。
どんな失礼な王か顔を見てみたかったが、実物を見てユアンは震えた。
龍族の頂点黄龍。オマケに恐ろしいまでの美貌。
ビビったユアンはこの瞬間に丸薬研究を諦めた。
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