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花散里の章
花散里の章⑳
しおりを挟む花散里は立ち上がると、ゆっくり歩いて土下座するユアンの前に立った。
ユアンは恐怖で顔を上げられなかった。
「・・・貴女が、トウノ様なのですね・・・」
花散里は返事をしなかった。
ただ冷酷な声で告げた。
「話なさい。何故真実を握りつぶしたかを。ハリー・アスティズはあの後どうなったんです?トウノの死を忘れて幸せな人生を謳歌したかしら?そんなの絶対許さない!」
花散里の口調はこれまでと違い感情的だ。
彼女がトウノの記憶を持つ生まれ変わりなら、アスティズ家を恨んで当然だ。
花散里は真実を知る権利がある。
ユアンも真実を話す義務があった。
「我々アスティズはこの時をずっと待っていました・・・。逃げも隠れもしません。トウノ様、全てお話し致します」
千年前。
アスティズ家当主にしてノロジカ一族の族長。偉大なる医学者、ハリー・アスティズは黒天痘に唯一効能があると噂の妙薬に疑問を持ち、研究に着手した。
アスティズ家の本業は医者だが、ハリーは病に苦しむ人を一人でも救おうと研究所を立ち上げていた。
当時としては最先端の技術と機器を揃えた素晴らしい研究所にはハリーの他に二人の医学者が在籍していた。
一人はハリーの妻、モニカ・アスティズ。
そしてもう一人は黒狐族出身の冬埜だ。
冬埜は二十六歳。爽やかなイケメンで駆け出しの医学者だ。ハリー自ら研究所にスカウトした逸材だ。
鹿の国に単身留学し、大学を首席で卒業した冬埜の論文を読んだハリーは大変感動した。
是非うちの研究員になって欲しい。
大学卒業と同時に冬埜が帰国すると知ったハリーは慌てて彼を引き留めた。
医学者として輝かしい実績を持つハリー・アスティズ博士。
そんな彼が自分を認めてくれた。
感動した冬埜は帰国を中止し、ハリーの研究所で働き始めた。
十ほど年の差があったが二人だが不思議と馬があった。
種族を越えた友情を結び、互いを親友と呼び合った。
ハリー・アスティズが妙薬の研究に着手した動機。それは薬の材料を知ってしまったからだ。
妙薬には黒狐族の血肉が使われている。
なんたる非道!!
黒点痘は最強の伝染病だ。果たして本当に彼らの血肉に効果はあるのだろうか?
女性だろうが子どもだろうが赤子だろうが、寝たきりの老人だろうが容赦なく殺され薬にされる。
例え本当に薬効があったとしても、こんな暴挙を許すわけにはいかない。
人族からも黒狐狩りが出てきて黒狐族の人口は減る一方だ。
ハリー・アスティズは急いで研究を始めた。
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