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始まりの章
始まりの始まり
しおりを挟む俺達は呪われている。
千年前、俺達の祖先は大罪を犯した。
罪を犯した六つの種族は七日間の大天災の後に呪いを掛けられ、重い罰を受けた。
現在、恐らく呪いは末期となっている。
嘆き、許しを請うても神には届かない。解除の条件はたった一つしか無いからだ。
増えるのが先か、滅ぶのが先か。
閑散とした町並みを、学校の屋上から久是空は見下ろしていた。
チャイムが鳴ると同時に、クラスメイト達はスマホを取り出して画面を食い入るように見詰める。この春高校2年生になった久是空はその様子を何処か冷めた目で眺めていた。
後ろの席に座る友人も同様だ。スマホを見るまでは期待に満ちていた顔も、徐々に落胆の色を濃くしていく。空はタイミングを見計らって友人に声を掛けた。
「どうだった?今日こそ結果が出たのか?」
「出てる訳ねぇだろ!!今日も全滅だよ!」
頭を抱えて落ち込む友人の肩を、空は慰めるようにポンッと叩く。
「あぁ~~!!何が駄目なんだよ・・・俺、かなりの優良物件だと思うんだけどなぁ・・・」
「優良物件はマッチングアプリで手当たり次第声を掛けないだろ」
「数打ちゃ当たるだろ!!俺は早く嫁さんが欲しいの!!」
友人は涙目だ。その必死さは伝わるが肝心の女性達に届かなければ意味がない。
この世界には空の様な人間の他に、龍・鳥・猫・鹿・有鱗目の六つの種族が存在する。
六つの種族が暮らす大陸は七枚の花弁をもつ花のような形をしていて、その周りを囲むように大小様々な島が存在する。最北の土地はこの世界で唯一の神・天帝を祀る『神の国』があり、各種族から集められた神官達が毎日祈りを捧げている。
神殿都市から時計回りに龍・鹿・猫・鳥・人・有鱗目と天帝により領土が振り分けられたが、北西の領土は手つかずだ。
何故なら、その地は天帝により強固な結界が敷かれ、多種族の侵入を徹底的に拒んでいた。それ故に北西の領土が今どうなっているか、誰にも分からない。
種族ごとに文化・風習が違い、龍・猫は王様が国を統治している。鹿・鳥・人・有鱗目は議会制だ。王制が敷かれる龍・猫は身分に五月蠅いが鹿・鳥・人・有鱗目はそうでもない。仲の良い種族もいれば悪い種族も当然ある。かつては龍と猫、鳥と有鱗目は戦争になるほど仲が悪かった。
しかし、今はどの種族も戦争が出来るほどの余裕も人員も無い。そのお陰で世界は平和そのものだ。
「昨日のニュースを見てねぇのか・・・?アレを見たら誰だってゾッとする」
「ニュース?」
「龍族の人口が遂に100人をきったってよ」
「あらら」
「あららって、お前さぁ・・・」
空の表情は変わらない。何時もと同じ、穏やかな笑みを浮かべているだけだ。
友人から見て、久是空という人物は何処か達観した少年だ。
見た目は悔しいが長身のイケメンだ。二重の瞳は切れ長でやや鋭く、綺麗に通った鼻筋。厚めの唇がセクシーだと評判だ。オマケに名家出身の金持ち。必死に花嫁候補を探す自分たちと違い、のんびりしている。一度気になって婚約者がいるのか聞いたことがあるが、答えはNOだった。
「俺達人類もそう遠くない未来、同じ状況になるんだ。今から心構えしておかないとな」
「そうならないためにも子孫繁栄に励もうぜ!!お前なら直ぐに相手が見つかるだろ!!」
「ん~~・・別に興味ないからな。呪いのお陰で夫婦になったとしても、子に恵まれる確率は限りなく低いし」
「空よ~~!頼むから夢くらい見させてくれよぉ・・・」
「これが現実だからな」
千年前にかけられた呪いで、六種族全てが危機的な少子化に陥っていた。
ニュースで取り上げられた龍族は元々繁殖能力が低い上、プライドの高さから長年異種婚を認めてこなかった。子が生まれなければ人口は減るばかりなのに、多種族のように柔軟になれなかった。百年前に漸く異種婚を認め、混血児が生まれるようになったが余りに遅すぎた。結果はご覧の通り、悲惨な状況にニュースを見た他種族は震え上がっただろう。
「折角相手が見つかっても子どもが出来なければ即離婚だろ?結婚に夢はないな」
空自身、父が二番目に迎えた妻から産まれた。最初に迎えた妻を父は心から愛していたが、子宝に恵まれなかった。孫を熱望する祖父母の圧力から父は妻を守りきれず、強制的に離縁させられた。
以来父は何もかもがどうでも良くなったそうで、言われるがままに宛がわれた相手と再婚した。しかし恨みの根は深く、子が産まれたらお役御免とばかりに妻子を捨てて出て行った。何度催促しても戻らず、仕事も辞めた父に祖父は呆れ果てて絶縁を言い渡した。
そんな経緯からか、空は父に会ったことがない。当然だが母は父を恨んでいた。重病を患った母は毎日父への恨み言を呟いていた。自分は黙って聞くしかなかった。闘病の果てに母が亡くなった時も、父は葬儀に参加すらしなかった。当然だが花も香典もお悔やみの言葉もない。
ここまで来ると清々しい。父に憎しみは湧かないが、あんな人間にだけはなりたくないと思った。
空自身、『子ども』に振り回される人生なんて御免だった。
「女の子の出生率もどんどん下がっているらしいしな。子どもが産まれても男の子が殆どで女の子は稀らしいぞ」
「悲惨じゃねぇか!!」
空も感じていた。町でも、女の子の姿を殆ど見かけなくなった。
子どもが産まれにくく、女の子の出生率も下がっている。神様の呪いは確実に六種族を蝕んでいた。
よって六種族の最優先課題は子孫繁栄、如何にして自らの血を繋げるかだ。数少なく、貴重な女性は圧倒的に『選べる』立場で、若く美しい女性となると競争率も激しくなる。男達は彼女達に選ばれようとあの手この手で必死にアプローチする。友人もそうだ。学業そっちのけで婚活に励むのはどうかと思うが、友人のように必死になれない自分は『雄』として欠陥品なのだろう。
それでも此処に在る以上は生きていかねばならない。
呪いという制約がある中でどう自分らしく生きていくか。空はそればかり考えていた。
「空や、お帰り」
真っ直ぐ帰宅した空を祖父は笑顔で迎えてくれた。
「爺ちゃん、ただいま」
祖父の久是宵は空と違い角張った顔で目も小さい。ただ、体格は良く年齢を感じさせない体付きをしていた。祖父は世界でも有数の大企業・久是グループの会長兼社長を勤めている。経営の鬼と呼ばれる祖父も、孫の空にはめっぽう甘い。母を亡くした空を呼び寄せ、広い屋敷で何不自由ない生活を送らせていた。
「学校はどうだったか?」
「うん。楽しかったよ」
敢えて婚活の話はしない。興味があると勘違いされてお見合い攻めになるのは避けたかった。もうそろそろ十七になる空は、婚約者がいたら入籍してもおかしくない年齢になっている。
どの種族もそうだが、子に恵まれにくくなった為か初婚が年々早まっていた。十五で結婚した同級生もいるが、子が産まれたとの報告は受けていない。ゆっくり構える空に祖父は内心焦っているだろうが、息子の二の舞は避けたいのだろう。愛した妻と無理矢理離縁させた結果、息子の心は壊れたのだから。
「歴史の授業が楽しかったな。龍族の先生は実際に悲劇を見た証人らしいから、凄く勉強になった」
「ほぉ、龍族の先生とは珍しい」
「当時の惨状を伝えるために、色んな所で授業をしているらしいよ」
「立派な方だ。空や、しっかり学びなさい」
「はい」
空が通う高校には龍族以外の種族、そのハーフが通う都内トップレベルの進学校だ。
人類は技術力に長け、工業で国を発展させていた。人の国は六つの国の中で一番近代化が進んでいる国だ。人員不足もロボットでまかなっている。二人が暮らす久是本邸も、掃除などはロボットが担っていた。空も小さな床拭きロボットに話し掛けては和んでいたりする。
自分はいずれ家業を継がなければならないが、もし違う道があるのなら・・・ロボットに携われる仕事をしたかった。
そんな夢は叶わないと分かっている。でも、夢を見るのは自由だ。空は勉強の後、独学で学んだロボットの設計図をパソコンで書いていた。終わりは見えないが、完成したらいつか形にしてみたい。
そんな小さな夢を抱きながら、空は夜更かしして設計図を書き進めていた。
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