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始まりの章
始まりの始まり②
しおりを挟む翌朝、緊急の速報が流れた。
空は祖父と朝食を食べていた。何事かと画面を見ると、まず出て来たのは神官長だ。
『神の国』神殿都市には天帝と配偶神、その従神が祀られる神殿が幾つも存在する。その中で最も格式が高いのは旧天居を元に造られた大神殿だ。この世界に降り立った天帝が、大陸を完成させるまで暮らした屋敷をそのまま神殿に作り替えたのが由来らしい。故に最も古く最も格式が高い。そして大神殿の神官長は世界各地に駐在する神官の長も担っていた。
神官長は任命制で、任期は死する時までと定められている。祈りは毎日欠かさず、日々のお勤めも熟さなければならない。故に過労死する神官長も多いとか。
今の神官長は有鱗目族出身で、垂れ目で優しげな顔立ちをしたニシキヘビのお爺さんだ。神官長はまず一礼した。
「皆様、おはようございます。まだ起きていない方もいらっしゃいますでしょうが、特に重要な事案故に速報・緊急特番として放送しております。昨夜、大神殿に天界からの使者が降り立ちました。彼らは天帝様の命で派遣された文官です」
神官長に促され、画面に映ったのは小さな獣人だ。ヌイグルミのように可愛らしい姿をしたトイプードルとダックスフンド。彼らは黒い朝服に身を包み、朝服と同じ黒い冠を被っていた。
「大罪を犯し罰せられた六種族よ、天帝様からのお告げである」
「しかと聞くが良い」
空は画面から目を逸らせなかった。登校時間は迫っているというのに、動けなかった。
「「本日より、呪いは解除する」」
その意味を理解するのに、どれだけの時間が掛かっただろう。一歩遅れて町中が湧いた。どの国もきっと同じだろう。祖父を見たら、彼は静かに涙を流していた。
「まさか・・・まさか、わしが生きている内にこの日が来ようとは・・・」
「爺ちゃん・・・」
空が祖父にハンカチを渡す。何度拭いても、祖父の涙は止まらなかった。その間も、文官達の言葉は淡々と続いていた。
「これは天帝様の温情である。本来なら、呪いの解除はもう少し先の話だった」
「だが、それを待っていては先に六種族が滅んでしまう。此方としてはそれでも構わなかったが、一つの種が滅ぶと世界に与える影響が大きい。天帝様に感謝せよ。それに其方達も『最後の八人』にはなりたくないだろう?」
最後の八人。その言葉は途轍もなく重く響いた。
千年前、六種族が犯した大罪は七つある。
『偽りを広めた罪』
『虐殺した罪』
『暴食した罪』
『欺いた罪』
『真実を隠蔽した罪』
『略奪した罪』
『姫巫女を殺害した罪』
内二つの罪は人族が犯した。
人々はとある恐怖から身を守るために、一つの種族を絶滅一歩手前まで追い込んだ。
千年前はその種族を加え、七種族と呼ばれていた。
「其方達が滅ぼしかけた一族、『黒狐族』の数もこのまま順調に進めば完全復活する。北西の領土の結界も彼らの帰還と同時に解かれる」
「だが黒狐族は帰還を拒んでいる。理由は語るまでもない」
今まで天界で大切に保護されていた一族が、自分達を滅ぼしかけた化け物達の巣窟に戻されるのだ。自分だったら絶対に嫌だ。断固拒否する。それは黒狐族の反応が正しい。
「だが、いつかは帰らなければならない。黒狐族と深い関わりを持つ女神は一族の王と話し合った」
「王は、帰還するにしても六種族が絶対に危害を加えない確約が欲しいそうだ」
それは当然の要求だろう。まぁ、今は天帝の呪いが怖くて誰も手は出さないと思うが、未来は分からない。
「・・・そこで、我々が目を付けたのは其方達の状況である」
「其方達に掛けられた呪いは『緩絶の呪い』といって、緩やかに種を絶やす呪いである。勘付いている者もいるだろうが、呪いは末期となっていた」
龍族は人口を100人未満まで減らし、その次に数の減少が著しい有鱗目族。人族は女性の減少が最も顕著で猫族は流産と死産の確立が飛び抜けて高い。鹿族・鳥族は乳幼児の死亡率が突出して高かった。閉塞した空気感は嫌でも伝わっていた。
「今呪いを解いても番える女性が少ない上、呪いに侵され続けた母体も回復に時間が掛かる」
「ならば『友好の証』として、黒狐族の女性を先ずは有力者に嫁がせてはどうかと話が出た」
「呪いを受けていない黒狐族は多産で、現在の男女比率は女性が圧倒的に多い」
友人が聞いたら『何それ羨ましい!!』と大声で叫んでいるだろう。空の予想は当たっており、彼は叫んで両親に叱られていた。
「黒狐族との『婚姻』は双方にとっても悪い話ではあるまい。しかし黒狐族の女性達に強い拒絶反応が出ている。嫁いでも昔のような酷い扱いを受けては堪ったものではないと。黒狐族の女性達に六種族との婚姻を持ちかけたが、誰一人手を挙げなかった」
・・・分かってはいたが、六種族は黒狐族から深く恨まれている。罵倒され、物を投げ付けられても仕方のないことをした。空自身は何もしていないが、黒狐族を絶滅一歩手前まで追い込んだ人族に違いはない。その上、人族は黒狐族にとって最も神聖な存在を手に掛けた。嫌悪感は凄まじいものがあるだろう。
そんな一族の女性達に、友好のためとはいえ結婚を強いるなんて・・・。余りにも酷い話だと思った。このまま誰も手を挙げなければ嫁入り話は消えるだろう。彼女達を思えばそれが一番だ。他の方法はないか考える空だが、それは一瞬で無駄となった。
「・・・しかし、何処からか話を聞きつけたある姫君が手を挙げた」
「姫の招集により、七名の女性が参加を表明した」
「いずれも天界で評判の美姫」
「其方達には勿体ない」
トイプードルとダックスフンドの文官は残念そうにため息をついた。
「ただ、姫君達は嫁ぎ先を自分で決めたいと希望している。此方としても嫁ぎ先で苦労は掛けたくない。ならばどうすればよいか?答えは一つだ」
「お見合い、である」
独身で、結婚適齢期であれば結婚歴は問わない。しかし見合いを目的とした離婚は却下する。
お見合いを希望する者は神殿に戸籍と健康診断書、社会人は職種と年収を記載し、顔と全身が良く分かるお見合い写真を同封すること。だがこれはあくまで一次審査。八人の美女と直接離せる機会は三次審査から設けられるそうだ。
「二次審査に通過出来た者のみ、神殿から招待状を送付する」
「書類選考で落とされた者達は落ち込まないように。この見合いが成功すれば次の機会がある」
先にお見合いをした八人を通し、六種族の良いところを伝えて貰えば新たなお見合い希望者も出てくるだろう。女性の割合が圧倒的に多い黒狐族の女性達も、結婚の選択肢に六種族を含めてくれたら万々歳だ。
よってこのお見合いは重要な意味合いを持つ。失敗すれば次は無い。暫くは現状のまま、地道に子孫繁栄に励むしかなくなるのだ。
「書類受付期限は三週間後。当日消印は有効とする」
「我々からは以上である」
文官達が画面から消えると、神官長と副神官長、女官長が映される。三人は大きなパネルを笑顔で持っていて、送付先住所が大きく書かれていた。
緊急特番は終了となり、空は慌てて家を出た。画面に釘付けになって動かない祖父に気付かずに。
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