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始まりの章
始まりの始まり③
しおりを挟む教室に入ると、クラスメイトの話題はお見合いで持ちきりだった。八人の美姫、天界の文官すら勿体ないと言い切る美女に少年達の妄想は膨らむ一方だ。
「巨乳はいるかな?」
「俺は背の高いモデルみたいな女の子が良い」
「年上一択。お姉様に叱られたい」
「そこは癒やし系だろ!?」
「俺は年下かな~~」
好みのタイプはそれぞれだ。友人は下校と同時に写真館へ向かうそうだ。
「空はどうするんだ?」
「しない」
「まあ、だよな・・・」
我が道を行く空はお見合いに興味はない。
空が応募しなくても、人族の有力者はこぞって参加するだろう。それにこれは人族に限った話ではない。六種族全てを対象としているのだから。当然だが龍・猫の王族は参加するだろうし、鳥、鹿、有鱗目族にも桁違いの金持ちは存在する。
久是グループの跡取り息子とはいえ、学生の空の勝率は低いだろう。八人の美女に興味がないと言えば嘘になるが、勝率の少ない争いに自ら飛び込む自信も勇気もなかった。
結婚に夢がない自分は参加する資格がない。きっと父のように相手を不幸にしてしまうだろうから。
「爺ちゃん、ただいま」
あれから三月経った。
クラスの話題はお見合いの二次審査で持ちきりだ。空もニュースで知ったのだが、招待状の送付が始まったらしい。
ただ、空のクラスで招待された者は未だ0。友人はまだ諦めていないそうだ。だがニュースを見る限り、書類選考を通過した者は王族や金持ちが殆どだ。猫族なんかは八人中四人、つまり半分を娶る目標を立てて対策を練っているらしい。それに対抗しているのが少子化対策待ったなしの龍族だ。王を始めとした龍族自慢の美男子を揃えたとか。
・・・正直、人族と有鱗目族はこの辺り非常に不利だ。
恐らく人族は黒狐族に最も嫌われ、有鱗目族は蛇・蜥蜴等の爬虫類。苦手な人は何があっても苦手だろう。
まあ、自分には関係のない話だ。
思考を切り替えた空は今日の晩ご飯は何かと考えた。出来れば魚が良い。煮魚だと更に嬉しい。
「空や、ちょっと良いか?」
祖父が嬉しそうに手招きする。何か良いことがあったのだろうか?空が祖父の書斎に入ると、漆塗りのテーブルの上にA4サイズの茶封筒が置かれていた。
「?」
「空や、招待状が送られてきた。流石は儂の孫。空は儂と違っていけめんだからの」
「・・・ん??」
祖父が何を言っているのか分からなかった。
招待状とは、あの招待状なのだろうか・・・??
「爺ちゃん、俺、何も送っていないんだけど?」
「済まん・・・儂が代理で送った」
「はぁ!!??」
「済まん・・・空が結婚に興味が無いのは分かっておる。勝手だと分かっているがどうしても諦めきれなかった・・・」
緊急特番の後、宵は代理での提出は可能か神殿に問い合わせた。「未婚なら可能」と回答を得た宵は直ぐに推薦状を書き、別紙で自慢の孫をこれでもかとアピールした。
ただ、問題は写真だった。
空を愛する宵は上半身だけの写真なら数多く持っている。だが全身となると一枚もない。新たに写真を撮りに行くとなれば空に代理提出がバレてしまう。どうする!?どうするか。
・・・悩み抜いた末、宵は高校入学記念で撮影した家族写真を提出した。
『今はここから更に十㎝伸びています!』『いけめんに磨きもかかっています!』『間違いなく首都一の美男子!』と付箋を貼りまくった結果、誰よりも必死さの伝わる推薦状と見合い写真が完成した。
話を聞いた空は頭を抱えた。良くもまぁ、引かれなかったものだ。良いのか悪いのか分からないが、祖父の必死さが伝わり空は一次審査は通過となった。宵は茶封筒を手に取り、空に差し出した。
「空や、気が進まなくても二次審査に行ってくれないだろうか。どうか、この通りだ・・・」
頭を下げる祖父を慌てて止める。そのまま封筒を受け取り、中身を確認する。中には二次審査に関わる注意事項が書かれた書類に、秘密保持の誓約書。会場となる神殿までの地図に、白い封筒に入った招待状が入っていた。
「空や、頼む。儂からの最後の願いだ・・・」
ここで断れば、祖父は完全に諦めてくれるだろう。
だがそれは祖父の気持ちを踏みにじってしまうようで、空は「行かない」とはどうしても言えなかった。ここまで育ててくれた恩義もある。ただ、これだけは伝えておかなければ。
「爺ちゃん、行くけど俺が選ばれる可能性は低いと思う。人族で、まだ学生だし」
「空や、儂は必ずお前を選んでくれる女性がいると思って応募したんだ。儂の勘は鈍っておらんぞ。こう、ビビッと来たんだ」
「何だよ、それ」
空は思わず笑った。
こうして空は招待状を手に、会場がある神殿都市へ向かったのだった。
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