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三次審査編
三次審査⑤
しおりを挟むカフェスペースに戻ろうと歩いた空は、ソファーでぐったり横になるミハエルを見つけた。慌てて駆け寄り、顔を覗き込むとミハエルも空に気付いたようだ。
「ああ・・・空か」
顔色が悪い。おまけに目も虚ろで声に覇気がない。一時間前に別れたキラキラのイケメンはゲッソリと窶れて老け込んでいた。
「み、ミハエルさん!!??」
「いや~~、大変だったわ・・・」
ミハエルは起き上がり、ハハっと笑うが何処か自嘲気味だ。
一体彼に何があったのか!?
「空って何か運動をしているか?護身術とか」
「極真空手なら、段を持っています・・・」
「なら大丈夫だな。いや~~、予想通りだったわ。俺、ゴミ認定だから」
「え、ええ・・・!!?」
若紫の従姉妹にして護衛、文武両道と名高い女騎士・朝顔。彼女とのお見合いは一筋縄ではいかないのだろう。
何があったのかミハエルは多くは語らなかったが、朧月夜との見合いを終えたユアンはミハエルを見てビビリ散らしていた。
彼は朧月夜の次に朝顔とお見合いをするからだ。浮舟以外は辞退を決めているイフラースはユアンに気の毒そうな視線を送った。
老け込んだミハエルのために、イフラースは食事の日程を早めて今晩にしてくれた。
ミハエルは遠慮なく神の国屈指の高級店を予約し、お高い酒をバンバン開けてストレス発散をしていた。空は未成年なのでジンジャーエールだ。イフラースとユアンも酒は飲まないが、ミハエルの飲みっぷりに感心していた。
ただ、イフラースとユアンは飲まない代わりに量を食べる。二人に共通しているのはお肉が大好き。鉄板焼きのステーキをペロリと食べておかわりしていた。
「空くんも遠慮なくおかわりして下さいね」
「え、じゃあ、海老を食べたいです」
「アワビもつけます?」
「・・・ちょっとそれは・・・」
アワビの値段は時価。時価ほど怖い物はない。空は大金持ちだが金銭感覚は一般寄りだった。
「お礼ですから、遠慮しないで下さいね」
「ミハエル殿が今開けているシャンパンは幾らするんでしょうね・・・」
同じくイフラースに枠を譲渡したユアンはミハエルが手にしているボトルを見て引いていた。某有名シャンパン、一本数十万はする代物だ。
「お礼ですから。ミハエルさんには沢山お世話になっていますし、私もとても楽しいです」
イフラースの声も弾んでいた。尻尾もユラユラ揺れている。
友人と食事をした経験が無く、イフラースはいつも一人で食事をしていた。商談も殆どがリモートで、外食も敢えて避けていた。初めての高級店で、親しい友人達と食事をする。それがこんなに楽しいとは思わなかった。
あの日、イフラースは何かに導かれるように早起きして緊急特番を見た。急いで写真屋に行って初のお見合い写真を撮影し、祈るように必要書類を提出した。無事に書類選考を通過し、二次審査で初めて友達が出来た。三次審査で初めて恋をした女性に出会えた。
長い付き合いになる、ミハエルが言った言葉が真実になればこれ程嬉しい事はない。勇気を出して応募して本当に良かった。
「本当に、楽しいです」
「俺も楽しいです。アワビは値段が怖いのでホタテにします」
「私もです。ミハエル殿が潰れるまで見守るのも有りですね」
「「確かに」」
声が重なって、三人は笑った。
今の様子を若紫は見ているだろうか?それとも大好きな動画を見ているだろうか?空の心には美しいプリンセスの笑顔が何時までも残っていた。
翌日、空は一人でカフェスペースにいた。
あと三十分で朧月夜との見合いが開始される。少し早く到着した空はまったりとカフェスペースでカフェオレを飲んでいた。同じように待機している種族が多く、人族は空だけだった。
一人ポツンと待つ空を、先程からジロジロ見て笑う猫族がいた。
「あんな僕ちゃんもお見合いに参加しているのか?」
「お姉様方にあしらわれて終わりだろ。まぁ、良い人生経験にはなるんじゃないか?」
「子どもっぽくて『男』として見るのは無理があるだろ」
俺らに比べると。そりゃそうだと賛同して笑う猫族に空はうんざりしていた。
三次審査に進んだ種族で、最も多いのは猫族だ。
猫族は六種族で一番人口が多い。その為か、見合い会場でも猫族が幅を利かせていた。龍族はそれを苦々しい表情で見て、鳥、鹿、有鱗目、人族は余り関わりたくないと引いている状況だ。
「僕ちゃ~~ん。今から誰とお見合いかな?」
無視して場所を移そうとしたが、それが気に入らなかったようだ。空は前を塞がれ、取り囲まれた。
「先輩を無視したら駄目だろ?」
「ほらほら、座れよ」
猫族は重種・中種・軽種の三つに分類される。
王のレオンハルトは獅子。重種の頂点に君臨する。空の行く手を阻む三人は豹、ジャガー、チーターの重種だ。明らかに分が悪い。さてどう切り抜けるか考える空の背に、誰かが手を添えた。
「遅くなって済まなかった」
「・・・え?」
振り返ると、そこに居たのは背の高い壮年の虎だ。肩下まで伸びたやや癖のある黒い髪に、小麦色の肌。形の良い眼は鋭く、すっと綺麗に伸びた鼻筋。体付きも屈強で、男性的な魅力に溢れた男前だ。三人は戸惑いながら男前の虎を見上げた。
「ディアゴ殿の知り合いだったのか?」
「ああ。これから二人で会う約束をしていた。・・・道を空けて貰えるか?」
三人はバツが悪そうに体を引いた。ディアゴと呼ばれた虎は空をカフェスペースから少し離れたベンチに案内し、座らせた。
「申し訳なかった。王に事情を説明し、彼らに二度とあのような振る舞いをしないように注意して貰う」
謝罪しながら頭を下げるディアゴを空は慌てて止めた。
「止めて下さい。貴方は何も悪く無いじゃないですか」
「彼らの行動は恥ずべきものだ。同胞として謝罪するのは当然のことだ」
真面目なのだろう。空は謝罪を受け入れ、ディアゴに頭を上げるように促した。
「本当にもう気にしていません。俺の方こそ、ありがとうございました」
「本当に、申し訳なかった」
朧月夜との見合いまで時間があったので、空は自己紹介も兼ねてディアゴと話をした。
「俺は久是空です。人族の学生です」
「猫族のディアゴだ。領主をやっているが、農家も兼業している」
「農家、ですか?」
「幸い領地が豊かで作物が沢山採れる。領民に安定した収入を得て貰うためにも六次産業を進めているんだ」
六次産業は一次産業である農業・漁業において加工の二次産業、サービスや販売の三次産業を融合したものだ。卸会社を通さないので、生産者は自分で価格を決めて販売し、直接利益を得られる。
「俺は麦と有機野菜を作っている」
「え、興味があります。サイトを教えて貰って良いですか?」
「ああ。収穫体験やフルーツ狩りもやっているから、一度遊びに来ると良い」
「本当ですか?嬉しいです」
ディアゴは快く空と連絡先を交換してくれた。
三十一の、大人の魅力溢れる男前は空の目から見ても格好良かった。
「性懲りもなく彼等が絡んできたら俺の名前を出すと良い。大抵は引き下がる」
「ありがとうございます」
「情けない話だが猫族は好戦的な者が多い。今回の見合いもそうだが、通過者が最も多い為か他種族に横柄な態度を取っている者もいる。七種族一の嫌われ者になる日も近いな」
はぁ、とディアゴは眉間に皺を寄せてため息をついた。
昔から猫族と龍族は仲が悪いが、隣国の鹿族との関係も良好とは言えない。猫族=イケイケな好戦民族というのが他種族の共通認識だ。
空の同級生にも猫族はいるが、彼は人族と中種のハーフ。やんちゃで愛嬌のあるクラスの人気者なので悪いイメージはない。イケイケの代表格のような三人には絡まれたが、そのお陰で出会ったディアゴは優しくて格好いい大人の猫族だ。
「そんな事はありません。ディアゴさんのような優しくて格好いい猫族もいるじゃないですか。俺は猫族を嫌いになんてなりません」
少年の真っ直ぐな讃辞にディアゴは無表情でそっぽを向いてしまった。太くて立派な尾がユラユラ揺れていて、照れ隠しだと気付いた空は何だか嬉しかった。
「・・・彼らは君を子どもだと笑っていたが」
「はい」
「年齢は関係ない。若さも武器だ」
真っ直ぐで素直な少年はディアゴの目に眩しく映った。彼らは『お姉様方にあしらわれて終わり』と空を笑ったが、果たしてそうだろうか?年を重ね人生経験を嫌でも積み責任を負う立場になった自分達は『失う』事を恐れるようになった。
だが空は違う。若くて自由だ。だから何処へでも進める。己が望むままに。
「彼らの言葉は気にするな。俺の目から見ても、空は良い男だ。そのままで良い」
空はイフラースと出会った日を思い出していた。あの時、イフラースは『イケメンに褒められて嬉しい』と喜んでいた。あの時はピンと来なかったが、今なら分かる。
「ディアゴさんに褒められて、とても嬉しいです!」
「そうか」
満面の笑みを浮かべる空に釣られてディアゴも自然と笑っていた。
「久是空様、お時間です」
文官が空を呼びに来た。話しに夢中で気付かなかったが、お見合いの時間まであと五分と迫っていた。
「ディアゴさん、また会いましょう」
「ああ。俺からも連絡する」
「はい!」
ディアゴに手を振って別れ、空は朧月夜との見合い会場となる『虹の池』に向かった。
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