Marriage Interview~異種お見合い婚~

土筆祐依

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三次審査編

三次審査④

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「久是空様、お時間です」

「ミハエル様、お時間です」

 空とミハエルが呼ばれ、同時に席を立つ。空は天帝廟、ミハエルは神兵訓練場に案内された。

「空、頑張れよ」

「ミハエルさんもです。お互い頑張りましょう」

 空が案内されたのは大神殿の奥にある祭壇前だ。ここは天帝を祀る神殿の総本山。荘厳な祭壇の中には天帝が残した三つの神器、聖剣・経典・霊鏡が納められている。この三つの神器は神官長ですら触れることは許されない。余りにも強大な力を秘めている故に、祭事の際は天界から降り立った神官達が厳重に封印を施しながら行事を進めていた。

 世界で最も神聖な場で、黒狐族のプリンセスは笑顔で空を出迎えた。

「久是グループ後継、久是空様ですね。わたくしは若紫様の側仕え兼護衛の瑠璃と申します」

 ジャーマンシェパードの武官は恭しく頭を下げた。

「これより黒狐族のプリンセス、若紫様とのお見合いを開始致します」

「はい」

 空は促されるままに若紫の向かいに座った。若紫は藤色の絹地に白い芍薬の刺繍を施した美しい着物を着ている。見るからに高価で華やかな着物を彼女は見事に着こなしていた。若紫は空を見つめ、柔らかく微笑む。瑠璃は武官が運んできた紅茶と茶菓子を配膳すると、若紫の直ぐ後ろに控えた。

「私、貴方にとても興味がありますの。空様、と呼んでも?」

「え?その、様付けは緊張するので、どうか空と呼んで下さい」

「では、私も若紫と呼んで下さいませ」

 自分で提案しておいて何だが、いきなり呼び捨ては緊張する。

 思えば空は母以外の女性と初めて二人きりで話をしている。今更だがどうして良いのか分からず、紅茶に手を伸ばす。一口飲むが落ち着くわけではない。チラッと若紫を見ると、彼女はじっと自分を見ていた。


「・・・・・」

「ふふ、イケメンですね」

「・・・貴女も、とても綺麗です」

「若紫ですよ、空」

 何か恥ずかしい。
 
 頬が熱くなるのが分かる。自分と違い、若紫は余裕の笑みを浮かべていた。

 それもそうか。彼女は黒狐族自慢のプリンセス。肝も据わっているだろう。場慣れしていない十七の学生と、二十三の完璧なプリンセス。完全に不釣り合いだ。

「空はお祖父様の推薦で応募されたのですよね。お見合い写真がとても印象に残っていましたから」

「・・・そんなにですか?」

「ええ。空への愛を此れでもかと叫ばれていました」

「・・・何か複雑ですが、嬉しいです」

「お祖父様に感謝ですね」

 祖父の宵が気合いを入れて貼りまくった付箋の数々。どれも孫への愛が込められており、若紫は好感を抱いていた。

「二次審査での面接も、正直に受け答えされているのが分かりました。共有のお誘いを断った時、空はなんと言ったか覚えていますか?『女性は大切にしましょう』。私、とても感動しましたわ」

 空は首を傾げた。

 確かに言った。あの思い出すだけで腹が立つ共有のお誘い。
 だが、あの場に若紫はいなかったはず。何故知っているのだろうか?

「・・・見ていたんですか?」

「ええ。天帝様の神器を拝借しました。霊鏡は望むものを何でも映し出す鏡。二次審査の後、神殿内での待機は一切認めませんでした。監視のいない外に出れば気が緩むでしょうから。神殿内では出来ないお話を沢山して下さる筈でしょう?候補者の方々がどのような本性を剥き出しにするのか、私達はずっと見ていました」

 あの喫茶店での会話も、若紫達はしっかり聞いていた。あんまりな内容に八人は呆れて物が言えなかった。

 ただでさえ好感度の低い人族の本性はこれかとガッカリしたほどだ。しかし、十七の少年は即座に断り逃げた。大人四人に面と向かって反抗するのは怖かっただろうに、全速力で駅に向かって走る姿は誰よりも格好良く、眩しく見えた。

「流石は首都一の美男子さんです。さぞモテるのでは?」

「どうでしょう?余り女性と関わってこなかったので・・・」

 同級生の母親達からは沢山褒められたが、あれはモテた内に入るのだろうか??

「年上の女性受けは良いみたいです・・・」

「あら、私も年上ですね」

 ニコッと微笑む若紫はとても綺麗で、空は直視できず俯いた。

「空は絡繰り制作が趣味と聞きましたが」

「絡繰り・・・あ、はい。独学なのでプロに比べると下手で時間も掛かるんですが、楽しいです」

「私も下に下って初めて絡繰りを見ましたが、凄かったです。工場見学の動画が楽しすぎますわ」

 完璧なプリンセスが工場見学の動画に釘付けになる。

 想像したら何か可愛くて一気に親近感が湧いた。きっと、彼女の艶々フワフワの尻尾も優雅に揺れているのだろう。

「俺も、若紫の好きな物を知りたい・・・です」

 女性を呼捨てにするのはまだ抵抗があるが、若紫と距離を縮めたかった。小声になってしまったが若紫の黒い耳はピコピコ動いた。フワッと尻尾も揺れる。

「私に興味を持って下さいました?空」

 嬉しい。そう微笑む若紫を見ると顔が熱くなっていくのが分かる。きっと今、自分は林檎のように真っ赤な顔をしているだろう。

「趣味はお茶や琴、と言いたいところですが」

 若紫はスマホを取り出すとある写真を空に見せた。

 そこに映っていたのは黒い編みぐるみ。多分黒狐だ。何故多分黒狐かというと、デフォルメされすぎて何の動物か分からない程原形を留めていなかったからだ。太い尻尾と尖った耳で空は黒狐と判断した。個性的だが、慣れてくると可愛らしく見えるから不思議だ。

「趣味は編みぐるみ作成です」

 美しいネイルが施された指が画面をスライドすると、若紫渾身の編みぐるみが登場する。
 嘴が大きすぎる鳥(頭が赤いので多分鶴)や、頭が大きすぎて横に倒れる河馬など、独創性溢れる作品の数々に空は釘付けになった。

「侍女達には好評なのですが、弟からは酷評されていますわ。生まれてきた時に美的感覚を母のお腹に置いて行ったのだと」

 因みに、と若紫が次に見せた編みぐるみは可愛らしい出来栄えの熊だ。正直、今まで見せて貰った作品の中でダントツに上手い。売り物だろうか?

「これは弟が作りました」

「・・・お上手ですね・・・」

 きっと弟君は手先が器用なのだろう。神の手だ。うん、そう思うことにしよう。
 空は一人納得してうんうんと頷いた。

「俺は(多分)鶴が好きです」

「本当!?空は凄いのね。鶴って分かったのは空が初めてだわ」

「・・・他の皆さんは、何て?」

「ペンギンか鶏ですね」

 ペンギンは明らかに色合いが違うだろうに。でも、若紫が喜んでくれたなら嬉しい。空は鶴の編みぐるみが見たくなった。

「実物が見たいです」

「残念ながら、全て天界のお城に置いてあります。いつか、必ずお見せしますね」

「はい」

 愛嬌たっぷりの編みぐるみ。弟君からは酷評されているそうだが自分は好きだ。不思議な若紫ワールドにもっと触れていたい。

 その後も若紫のリードによって会話は弾み、あっという間に一時間が過ぎていた。

「若紫様、お時間です」

「あら、もう?」

 正直、空ももっと時間が欲しかった。もう少しだけで良い、若紫と話をしたかった。

 だがお見合い相手は自分だけではない。もっと魅力的な男性達が、彼女とのお見合いを控えている。
 指名を望むのは贅沢だろうか?・・・いや、掴み取らなければならないのだろう。自分から動かなければ何も得られない。ここはそういう場所だから。

「・・・また、会えますか?」

 勇気を出して告げた言葉に答えは無かった。若紫は優しく微笑むだけ。少しでも彼女の感情が読めれば良いのに出来なかった。
 言わなければ良かったと、一瞬浮かんだ考えは直ぐに打ち消した。

「ありがとうございます」

 空は若紫に一礼し、人生初のお見合いは終了した。
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