水底の記憶

ユウ6109

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エピローグ 水の声を継ぐ者

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ルフ湖は、今も静かに世界の中心で揺れている。かつて記憶を封じる湖と恐れられていたその水面は、今では人々が集い、語り合う場所となっていた。湖畔には小さな石碑が建てられている。
「ここに、語り部たちの誓いを刻む。記憶は命の証。語れ、過去を。紡げ、未来を。」
その碑文は、アレン、セラ、リュカの三人が残した言葉だった。
語り部の旅から十年が経った。世界は変わった。記憶を語る者たちは各地に現れ、過去を伝えることで争いを防ぎ、痛みを癒し、希望を育てていた。語り部はもはや特別な存在ではなく、誰もがなれる「生きる者の姿勢」となっていた。
セラは今、涙の塔の管理者として人々を迎えている。塔はもはや悲しみを集める場所ではなく、感情を受け止める場所となった。彼女の言葉は、訪れる者の心を解きほぐし、涙を希望へと変えていく。
リュカは氷の図書館を再建し、記憶の書を編み続けている。彼のもとには、各地の語り部たちが記録を持ち寄り、世界の記憶がひとつの書架に集まりつつある。彼は静かに語る。
「記憶は、過去だけじゃない。今この瞬間も、未来も、すべてが記憶になる。だから、記すことは生きることなんだ」
そしてアレンは、今も旅を続けている。彼は語り部として、村を訪れ、都市を歩き、湖のほとりで語り続けている。だが、彼の語りはかつてのような「教え」ではなく、「問いかけ」になっていた。
「君は、何を覚えている? 何を忘れたい? そして、何を語りたい?」
ある日、アレンは一人の少年と出会った。少年は、自分の過去を語ることを恐れていた。家族の争い、失われた絆、そして自分の罪——それらを語ることが、世界に拒絶されることだと思っていた。
アレンは静かに言った。
「語ることは、赦しじゃない。でも、語ることで、君は自分を知ることができる。そして、誰かが君を理解するかもしれない」
少年は涙を流しながら、少しずつ言葉を紡ぎ始めた。
その夜、湖の水面に小さな光が灯った。それは、語られた記憶が水に溶け、世界へと広がっていく瞬間だった。
アレンは空を見上げた。星は静かに瞬いていた。かつて星を夢見た少年は、今、記憶を語る者となり、世界を照らしていた。
そして、彼は思った。
——記憶は、終わらない。語り続ける限り、命は繋がっていく。
湖のほとりに、風が吹いた。水面が揺れ、遠くから誰かの声が聞こえた。
「語ってくれて、ありがとう」
アレンは微笑み、歩き出した。
語り部の旅は、これからも続いていく。
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