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第1話 卵焼きの記憶
しおりを挟む🍳 第1話「卵焼きの約束」
佐伯遥の料理教室「風味の記憶」に、ある日ひとりの男性が訪れた。灰色のジャケットに身を包んだその人は、70代半ばほどの年齢で、背筋はまっすぐだったが、どこか寂しげな目をしていた。
「卵焼きを、作りたいんです」
そう言った彼の名は、田島誠一。定年退職して半年、妻を亡くして三年。彼は、妻が生前よく作ってくれた卵焼きの味を再現したいという。
「甘すぎず、でもほんのり甘くて。だしの香りがして、冷めても美味しい。あれが、朝の味だったんです」
遥は彼の記憶を頼りに、卵焼きの試作を始める。だしの種類、卵の温度、焼き加減。何度も繰り返すうちに、誠一の表情が少しずつ柔らかくなっていく。
「これです。これに近い。いや、もしかしたら、もっと美味しいかもしれない」
その日、誠一は卵焼きを持ち帰り、仏壇に供えたという。
「妻がね、料理は記憶だって言ってたんです。食べるたびに、思い出すって」
遥は微笑んだ。
「それなら、料理教室は記憶をつくる場所ですね」
誠一は頷いた。
「また来ます。今度は、味噌汁を教えてください」
📝 レシピ:ふんわり甘い卵焼き(だし入り)
材料(2人分)
• 卵:3個
• だし(かつおと昆布の合わせだし):大さじ2
• 砂糖:小さじ2
• 薄口醤油:小さじ1
• 塩:ひとつまみ
• 油:適量(焼き用)
作り方
1. ボウルに卵を割り入れ、白身を切るように混ぜる(泡立てない)。
2. だし、砂糖、醤油、塩を加えてよく混ぜる。
3. 卵焼き器を中火で熱し、油を薄く引く。
4. 卵液の1/3を流し入れ、表面が半熟になったら奥から手前に巻く。
5. 巻いた卵を奥に移動させ、再度油を引き、残りの卵液を2回に分けて同様に焼く。
6. 焼き上がったら巻きすで形を整え、粗熱が取れたら切り分ける。
ポイント
• 卵液はこし器で濾すと、より滑らかに。
• 焼きすぎないことで、ふんわりとした食感に。
• 冷めても美味しいので、お弁当にも最適。
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