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第2話 カレーの距離
しおりを挟む🍛 第2話「カレーの距離」
「お姉ちゃん、今日さ、カレー作ろうよ」
日曜の午後、広島の下町にある料理教室「風味の記憶」に、ふたりの姉妹が現れた。姉の美月(みづき)は高校三年生、妹の陽菜(ひな)は中学二年生。ふたりは並んで立つと、まるで鏡のように似ていたが、性格は正反対だった。
「なんで急にカレー? 家でも作れるじゃん」
美月はスマホをいじりながら答える。陽菜は少し口を尖らせた。
「だって、もうすぐ引っ越しでしょ。お姉ちゃん、東京の大学行くんだし。最後に一緒に料理したいの」
その言葉に、美月は手を止めた。春からの進学で、ふたりは離れ離れになる。両親は離婚し、母と陽菜は広島に残り、父と美月は東京へ。家族がバラバラになることに、ふたりとも言葉にできない不安を抱えていた。
料理教室の店主・佐伯遥は、ふたりの様子を見て微笑んだ。
「カレーはいい選択ですね。家族の味って、案外カレーに出るんですよ」
遥はスパイスの瓶を並べながら、ふたりに尋ねた。
「甘口派? 辛口派?」
「甘口!」と陽菜が即答する。
「中辛かな」と美月。
「じゃあ、両方作りましょう。スパイスから調合して、ルウは使いません」
ふたりはエプロンをつけ、玉ねぎを刻み始めた。涙をこらえながら炒めるうちに、少しずつ会話が増えていく。
「お姉ちゃん、東京行ったら、毎日コンビニ飯?」
「うーん、たぶん。自炊する余裕ないかも」
「じゃあさ、このカレーのレシピ、持ってってよ。たまには作って思い出して」
美月は笑った。
「思い出すって何を?」
「うちの味。お姉ちゃんと作った味」
カレーが煮込まれる間、ふたりは静かに鍋を見つめた。スパイスの香りが部屋に広がり、どこか懐かしい空気が漂う。
完成したカレーは、甘口と中辛の二種類。皿に盛りつけると、ふたりは向かい合って座った。
「うまっ。お姉ちゃん、料理できるじゃん」
「陽菜が手伝ったからでしょ」
ふたりは笑い合った。その笑顔は、少しだけ距離を縮めたようだった。
帰り際、美月はレシピノートを受け取った。遥が手書きでまとめたものだ。
「これ、東京でも使ってください。味は、記憶になりますから」
美月は頷いた。
「ありがとう。また、帰ってきたら作ります」
陽菜は小さく手を振った。
「その時は、辛口でね」
📝 レシピ:家庭風チキンカレー(スパイス調合・ルウ不使用)
材料(4人分)
• 鶏もも肉:300g(ひと口大に切る)
• 玉ねぎ:2個(薄切り)
• にんじん:1本(乱切り)
• じゃがいも:2個(ひと口大)
• トマト缶:1/2缶
• にんにく・しょうが:各1片(みじん切り)
• サラダ油:大さじ2
• 水:500ml
• 塩:小さじ1
• はちみつ:小さじ1(甘口用)
スパイス(基本)
• クミン:小さじ1
• コリアンダー:小さじ1
• ターメリック:小さじ1/2
• ガラムマサラ:小さじ1
• チリパウダー:小さじ1(辛口用)
作り方
1. 鍋に油を熱し、クミンを入れて香りを出す。
2. 玉ねぎを加えて飴色になるまで炒める(約15分)。
3. にんにく・しょうがを加えてさらに炒め、トマト缶を加える。
4. スパイス(ターメリック・コリアンダー・ガラムマサラ)を加えて混ぜる。
5. 鶏肉を加えて表面が白くなるまで炒める。
6. にんじん・じゃがいも・水を加えて煮込む(約20分)。
7. 塩で味を調え、甘口にははちみつを、辛口にはチリパウダーを加える。
8. とろみが出たら完成。
ポイント
• 玉ねぎはしっかり炒めることで甘みが出る。
• スパイスは焦がさないよう注意。
• 辛さはチリパウダーで調整可能。
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