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第3話 春巻きの秘密
しおりを挟む🥢 第3話「春巻きの秘密」
料理教室「風味の記憶」に、ひとりの若者が戸惑いながら足を踏み入れた。黒縁の眼鏡に、少し大きめのリュック。彼の名はリュウ・ウェイ。中国・上海出身の大学院生で、日本に来て2年になる。
「春巻きを、作りたいです」
佐伯遥は微笑んだ。
「春巻きですか。日本のものと中国のもの、少し違いますよね。どちらの春巻きですか?」
リュウは少し言葉を探しながら答えた。
「祖母が作っていた春巻きです。旧正月のたびに、家族で包んで…でも、もう祖母は…」
言葉が途切れた。遥は静かにうなずいた。
「記憶の味ですね。よければ、どんな具材だったか、思い出してみましょう」
リュウはノートを取り出した。そこには、祖母が書き残したレシピの断片があった。豚肉、椎茸、春雨、にら、そして干しエビ。遥はそれを見て、材料を揃え始めた。
「皮は手作りしますか? それとも市販のもので?」
「祖母は手作りでした。でも…僕には無理かも」
「じゃあ、今日は市販の皮で練習して、次回は一緒に作りましょう」
ふたりは具材を刻み、炒め、冷まし、包み始めた。リュウの手はぎこちなく、皮が破れたり、具がはみ出したりした。
「祖母は、包み方に厳しかったです。『春巻きは心を包むもの』って」
遥は笑った。
「いい言葉ですね。じゃあ、心を込めて包みましょう」
揚げ油が温まり、春巻きが黄金色に変わっていく。パリッという音とともに、香ばしい香りが広がった。
「これです。この香り。祖母の家の台所の匂い」
リュウはひと口かじり、目を閉じた。
「…懐かしい。少し違うけど、でも、近いです」
遥はそっと言った。
「料理は、完全な再現じゃなくてもいいんです。記憶に寄り添うことが大切」
リュウはうなずいた。
「祖母に、会いたくなりました」
「料理は、会えない人と会う方法でもありますよ」
その日、リュウは春巻きを包んだままの状態で数本持ち帰った。
「冷凍して、旧正月に母と一緒に揚げます。オンラインで」
遥は微笑んだ。
「その春巻きが、きっと家族をつなぎますよ」
リュウは深く頭を下げた。
「ありがとうございました。次は、皮から作りたいです」
📝 レシピ:中国風春巻き(豚肉・椎茸・春雨入り)
材料(10本分)
• 春巻きの皮:10枚(市販品)
• 豚ひき肉:150g
• 干し椎茸:3枚(戻してみじん切り)
• 春雨:30g(戻して3cmに切る)
• にら:1/2束(みじん切り)
• 干しエビ:大さじ1(戻してみじん切り)
• にんにく・しょうが:各1片(みじん切り)
• 醤油:大さじ1
• オイスターソース:大さじ1
• ごま油:小さじ1
• 片栗粉:小さじ2(水大さじ2で溶く)
• 揚げ油:適量
作り方
1. フライパンにごま油を熱し、にんにく・しょうがを炒める。
2. 豚ひき肉を加えて炒め、色が変わったら椎茸・干しエビ・春雨・にらを加える。
3. 醤油・オイスターソースで味付けし、水溶き片栗粉でとろみをつける。
4. 具材を冷ましてから、春巻きの皮で包む。
5. 揚げ油を170℃に熱し、春巻きをきつね色になるまで揚げる。
6. 油を切って、熱いうちにいただく。
ポイント
• 具材はしっかり冷ましてから包むと皮が破れにくい。
• 揚げる温度は高すぎず、じっくりと。
• 干し椎茸と干しエビの戻し汁は、具材に加えると旨味アップ。
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