風味の記憶

ユウ6109

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第4話 味噌汁の境界線

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🥣 第4話「味噌汁の境界線」
「赤味噌って、塩辛すぎるのよ。朝からそんなの飲めないってば」
「いやいや、白味噌なんて甘すぎる。味噌汁は塩気があってこそだろ」
料理教室「風味の記憶」に、朝から言い争う夫婦がいた。関西出身の妻・真理子と、関東育ちの夫・健一。結婚して十年、ふたりは広島に転勤してきたばかりだった。
佐伯遥は、ふたりのやり取りを聞きながら、笑みをこぼした。
「味噌汁の好みって、地域性が強いですからね。でも、喧嘩になるほどとは」
「先生、うちの夫が味噌汁に赤味噌しか認めないんです。私の白味噌を『お菓子みたい』って言うんですよ」
「いや、真理子の味噌汁は、なんか…甘ったるいんだよ。朝から飲むと、頭がぼんやりする」
遥はふたりを見て、提案した。
「じゃあ今日は、合わせ味噌で作ってみましょう。赤味噌と白味噌を半々にして、具材は豆腐とわかめ。シンプルだけど、味噌の違いがよくわかります」
ふたりは渋々うなずき、エプロンをつけた。
「健一、味噌を溶くのは最後よ。煮立たせちゃダメだからね」
「知ってるよ。俺だって一人暮らし長かったんだから」
「でも、あなたの味噌汁、いつも煮立ってるじゃない」
「それは…火加減の問題だろ」
遥は笑いながら、だしの準備を始めた。昆布と鰹節を使った一番だし。ふたりはその香りに、少しだけ表情を和らげた。
「この匂い、懐かしいな。母さんがよく朝に作ってた」
「私の実家は、いりこだしだったわ。ちょっとクセがあるけど、慣れると美味しいの」
「へえ、いりこって使ったことないな」
「じゃあ、次回はいりこで作ってみましょうか」と遥。
だしが取れたら、豆腐とわかめを加えて火を通す。味噌は、赤と白をそれぞれ大さじ1ずつ。遥が味噌を溶かすと、鍋の中に優しい色合いの味噌汁が広がった。
「さあ、味見してみてください」
ふたりはお椀を手に取り、そっと口をつけた。
「…あれ、意外と美味しい」
「うん、赤味噌のコクもあるけど、白味噌の甘みがちょうどいい」
「これなら、朝でも飲めるかも」
「でしょ? 私の味噌、悪くないでしょ?」
健一は照れくさそうに笑った。
「認めるよ。真理子の味噌も、悪くない」
遥はふたりの様子を見て、静かに言った。
「味噌汁って、家庭の味そのものですから。違いを否定するより、混ぜてみると新しい味が生まれるんです」
真理子はうなずいた。
「結婚って、味噌汁みたいなものかもね。違う味を混ぜて、ちょうどいいところを探す」
健一は笑った。
「じゃあ、俺たちも合わせ味噌夫婦ってことで」
その日、ふたりは味噌汁を持ち帰り、翌朝の食卓に並べたという。
「先生、あれから毎朝、合わせ味噌です。喧嘩も減りました」
遥は微笑んだ。
「それはよかった。次は、具材を変えてみましょうか。じゃがいもなんて、意外と合いますよ」
ふたりは顔を見合わせ、同時に言った。
「それは…ちょっと勇気いるかも」

📝 レシピ:合わせ味噌の豆腐とわかめの味噌汁
材料(2人分)
•  水:400ml
•  昆布:5cm角1枚
•  鰹節:10g
•  絹ごし豆腐:1/2丁(さいの目切り)
•  乾燥わかめ:小さじ1(戻しておく)
•  赤味噌:大さじ1
•  白味噌:大さじ1
作り方
1.  鍋に水と昆布を入れ、弱火で10分加熱。沸騰直前で昆布を取り出す。
2.  鰹節を加えて火を止め、1分ほど置いてからこす(だし完成)。
3.  再び鍋にだしを戻し、豆腐とわかめを加えて中火で温める。
4.  沸騰しないよう注意しながら、赤味噌と白味噌を溶き入れる。
5.  味を見て、必要なら塩少々で調整。火を止めて完成。
ポイント
•  味噌は火を止める直前に溶かすことで、風味を損なわない。
•  赤味噌と白味噌の割合は好みに応じて調整可能。
•  具材は季節に応じてアレンジ可能(じゃがいも、なめこ、大根などもおすすめ)。
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