あるクズ人間の奇譚

ひいらぎ

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フリーター編 其の弐

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 相変わらず例年と同じような朝を迎えた。違うところと言えば、これからバイトだということ。それ以外は何一つ変わらない朝だった。

 年末とは違った会場での福袋の販売に、決まってついてくる緊張感が足を引っ張る。友達がいることは、安心できる材料の一つではあったものの、その程度では覆しようのない心拍数であった。

 何事も全力でやらないと気が済まない性格の自分が、声を張り上げてお客さんを呼び込んでいると、もはや懐かしいあいつの存在がそこにはあった。悟だった。

 いつからか分からないが、相変わらず冷たい僕への態度に、寂しさと疑念ばかりを抱いていた。それが解明されることはなく、仕事上の形式的な関わり合いだけでその日は終わった。仕事終わりに送ったLINEも、学生時代の彼を思い出させてくれることはなかった。

 一方で差し迫る成人式に対して、僕は学生時代を思い出してばかりだった。思い出しては、あの時より成長した自分でいるだろうか。と心配になり、初めてコンタクトを作ったり、美容室に行ったりと、流石の僕でも準備をしていた。

 成人式前日に高校時代の友達と久々に遊びに行き、ボウリングなどを楽しんだ。今思い返すと、胸を張って友達と呼べる人と遊びに行ったのは、これが最後のように思える。

 学生時代から恋焦がれていた、自分にとって待望の日がやってきた。準備は完璧とは言えなかった。高校も辞めて大学も辞めた。誇れるようなものは何も手にしていなかった。磨いてきたのは、自分ができる人間だと思わせるテクニックだけだった。中身のないうわべだけの、悲しい武器だった。

 スポ少のメンバーで集まって、成人式の直前にサッカーをしていたらしいが、話が回ってきた瞬間に断っていた。顔も見たくないような奴ばかりだったからだ。

 友達と待ち合わせることもせず、一人で車で会場に乗り込んだ。駐車場につき、すぐに知り合いを見つけて一緒に会場に入った。

 気づけば式は終わっていた。大きな期待とは裏腹に何も起きることなく終わってしまった。

 高校の友達になぜ辞めたのか聞かれたり、仲の良かった人と話したりもたくさんした。しかし思い描いていたようなことは何一つ起きなかった。期待は大きく裏切られることになった。まるであの大学生活のように。

 なぜかうちだけ撮らなかったクラス写真。集まることのない小学校の同級生。何かがあるわけでもない式の帰り際。何の誘いもなかった。楽しみのひとつもなかった。

 バカらしい。小学生の頃から期待に胸を膨らませていたその日は本当に何もなかった。いや何も起こるはずがなかったのかもしれない。

 何の努力もせず、将来に期待するだけ。何か起こるだろうと信じて願っているだけ。種も蒔かずに祈るだけでは、育つはずのない作物だったのだ。自分自身のせいだ。そうだ。何もしてこなかった自分自身のせいだ。

 自分が期待していた事が終わり、力の入らない日々が続いた。月に一度はおばあちゃんの家に行き、麻雀三昧。それを自分の為ではなく、おじいちゃんおばあちゃん二人の為にやっていると少しでも思ってしまう自分が情けなかった。

 希望はまだあった。タイムカプセルだった。成人式当日の午後に集まる予定だったのだが、それが延期になり3月にズレていた。

 あの小学校の時のみんながどうなっているのか。あれから8年も経って、彼ら彼女らはどう変わっているのか。どんな人生を歩んで来たのか。

 知りたいことはたくさんあった。しかし、それを聞ける機会はとうとう訪れることはなかった。

 聞きたいことや話したいことがたくさんあったのは僕だけだったのだろうか。8年ぶりの再会に期待していたのは僕だけだったのだろうか。一緒に過ごした6年間が彼ら彼女らにとっては、そんなに短いものだったのだろうか。

 実際みんな別々の道を歩んで距離的にも精神的にも、大きく離れてしまっていたことは間違いなかった。そんなことは分かっていたが、自分と他のみんなの温度感の違いに悲しみは増すばかりであった。

 あまりに平凡で中身のない日々に自分で終止符を打つことにした。アルバイトを掛け持つことにしたのだった。

 実家の近くにオープンするスーパー兼ドラッグストア。そのオープニングスタッフに応募することにした。

 僕は、既に出来上がっているコミュニティに、途中参加するのが極めて苦手だった。だからこそオープニングスタッフは気がだいぶ楽だった。スタート地点が同じなら、劣等感を感じなくても済むと思ったからだ。

 近くの他店舗に面接に行った。アルバイトの面接だからと、そこまでフォーマルな服装ではなかった。もう一人一緒に受ける女性がいたのだが、その女性はスーツに身を包み、受け答えも正社員を目指しているかのようだった。面接官に何度も、本当にアルバイトでいいの?と聞かれていた。

 そんな人が隣にいたことで落ちるかもしれないと思っていたのだが、問題なく合格であった。

 面接を行ったその他店舗での研修がもうすぐ行われようとしているとき。確かそんな時だった。唯と出会ったのは。

 当然、例の通話アプリだった。寝落ち通話をしたその夜。LINEを交換して、そこからたくさん会話をするようになった。

 でもこんなのは日常茶飯事だった。この1、2年で、LINEを交換して、会話や通話をするようになった女の子は両手で収まらないほどだった。そんな風に変わってしまった自分が、時に寂しく、時に誇らしく感じた。

 そんな日常にかまけていたせいで、母の日を忘れ、母を泣かせてしまったことがあった。せめて親孝行の一つもできないのならば、泣かせたり悲しませることだけはするな。とそう思う。

 ついに研修がスタートした。店長さん含む、男性の社員さんが3名、それ以外のスタッフは全員ほぼ未経験だった。10人近くいたが、自分以外は全て女性で年齢はバラバラだった。

 研修は日に日に難易度が上がっていった。最初は座学が多かったものの、だんだん店頭に出ての実践が多くなり、在庫の補充やレジ打ちなどを教わった。特にレジ打ちは憂鬱な時間だった。慣れれば問題ないのだが、慣れるまでがあまりに辛かった。

 しかし、他のパートのおばさんなどと比較すると圧倒的に覚えが速かったため、自己肯定感が下がることはなかった。

 仕事の知識がどんどん増えていくなか、一方で唯に関しての知識も増えるばかりだった。

 篠崎唯。同い年で隣の県で旅館の仲居さんとして働いていた。実家を出て寮生活をしており、毎日のように寝落ち通話をするようになった。可愛らしい彼女のことがいつも通り好きになってしまった。彼女も彼女で顔写真を見た上で、僕を褒めてくれたりかっこいいと言ってくれた。

 隣の県に住んでいて会うなという方が無理があった。家族に何と言い訳をして出かけたか忘れたが、最初から一泊するつもりでホテルもとって、電車で向かった。彼女と出会って1ヶ月経った頃だった。

 この時の彼は、もう過ちを繰り返すような彼では無さそうだった。平穏な空気感だけに包まれているようだった。


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