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第3章『初陣』

第4話 遡上《そじょう》

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 ユイに手を引かれ、歩みを進めると、強い光に包まれた。あまりの眩しさに、目を開けられない。

 これが、タイム・トンネル…か?


 …唐突に、ユイが繋いだ手を離した。

 「お、おい! どこだ??」

 手探りで探すが、俺の手は虚しく宙を掴むだけだ。

 え? …置いてけぼり?

 …前に何かで読んだ事がある。タイム・トンネルの中で経路ルートから外れると、目的の『時点』と全く異なる場所に取り残されてしまう。良く言う、『タイム時間スリップ滑落』と言うやつだ。

 時間ときの漂流者となった者は、その漂着した『時点』で、その一生を終える運命が待っている…。

 まばゆい光のロードの中で、俺は、只々ただただ孤独を感じていた…。

 さようなら、鷹音ようおんさん…。

 さようなら、令和…。

 SA・YO・NA・RA…。



 「…貴様、一人で何をしている?」

 薄目を開けると、ユイの、どデカい顔が目に入った!

 「ひえぇ~!!」

 驚いた拍子に尻餅をついた…が、痛みは感じない。床を探ると、草むらのような手触りだ。

 徐々に目が慣れてきたのか、視界がはっきりして来た。

 俺を至近距離で覗き込むユイと、それしに、整然と並んだ人影ひとかげえ始めた。


 …あとから判明した事だが、『タイム・トンネル』は俺が勝手に思い込んでいただけで、実はっくのうに、目的の『時点』に到着していたのだ。

 衛鬼兵団えいきへいだん技術参謀によると、次元転移も時間転移も原理は同じで、彼らの技術なら、お散歩気分でタイム・トラベル出来るそうな。 

 ヤケにまぶしかったのは、暗い『衛鬼兵団えいきへいだん前哨基地ぜんしょうきち』から、急激に明るい陽光ひのひかりもとに移動したためだった。

 更に、戦国時代は、大気たいきが澄み切っており、当然、現代と比べると強い日差しが降り注ぐため、余計にまぶしさを感じたのだ。



 …俺達は、八瀬やせの国、細河ほそがわ兵六ひょうろくの本陣に、無事、到着していた。

 …いつの間にか、俺は鎧兜よろいかぶとを身に着け、ユイは…

 …桃太郎さんのような身なりをしている。

 思わず吹き出してしまった俺が、ユイの手にする薙刀なぎなた石突いしづきで、よろいの隙間を素早く正確に射抜かれ、四~五日ズキズキ痛む羽目はめになったのは、言うまでもない。
 …流石は司令官に昇り詰めただけの事はある。良い突きだったぜぇ。



 「閣下~、総司令閣下ぁ~」…聞き慣れた声がした。

 「おい、呼んでるぞ」
 …って、あっ! 俺だった!

 「おお、情報参謀ぉ~」と振り向くと、鎧兜よろいかぶといびつに着こなした、ひょろ長い、あの姿が!

 おいおい、随分タイトロープつなわたりな事してるなあ! 下手したら、怪物呼ばわりされて、新兵のゆみ教練きょうれんまとにされ、一巻の終わりだよ!

 ユイが腕を組み、不敵な笑みを浮かべ「彼奴きゃつ見縊みくびるな…。ああ見えて、彼奴きゃつは名うての交渉人ネゴシエーターだ。 あたし達が到着する前に、細河ほそがわ氏との軍事協定は締結してある。」と、誇らしげに言った。

 へえ~、見かけによらないもんだ。

 …協定が結んであるのなら安心だ。俺たちは、細河ほそがわ様に、深々と頭を下げ、初対面の挨拶を交わした。

 細河ほそがわ様は、名前通りのほっそりとした、感じの良さそうな青年だった。周りの家臣の方々も、優しい笑顔をこちらに向けている。

 その時、背中に旗を立てた兵士が飛び込んで来た。

 「物見ものみよりの知らせです!  岩熊いわぐま軍およそ二千、川を越しました!」

 「来たか…。」細河ほそがわ様の横にいた、ご家老の顔から笑みが消え、細河ほそがわ様も、兜の緒を締めた。

 緊張感が伝播でんぱしてきた。いよいよ戦闘開始だ。

 あのぉ、こんな時に何なんですが…

 …俺…作戦を聞き逃してたんですが、大丈夫ですかね…?

 ↑こんな事を、ユイに聴いてみよう…と思った瞬間、ご家老が右手を上げた。

 それを合図に兵士達が

 俺たちに襲いかかった?!
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