春告竜と二度目の私

こもろう

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二度目の世界

望まない出会い(再会)

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 ドラゴンな大きさやその強さはよく聞くけれど、その生態はほとんど分かっていない。
 あの子は青かったけれど、他の個体も同じなのだろうか?
 そういった色々をキーリを通じて村の長老に聞きたいのだけど、断られてしまっている。

 シルワの人が言うところの竜の聖地は、まるで眠っているかのように静かだ。





 そんな時だった。
 アンリ叔父様が手紙を持ってきた。
 その封蝋には、ブットヴィルの家紋。それに気づいて、私は密かに緊張した。
 あり得ないとは思うけれど、今年は聖別儀式を受ける年齢なのだ。万が一侯爵家に戻って儀式を受けろと命令されたらどうしよう? それが一番の恐怖だ。

「安心して、カサンドル。この手紙は、ボクがお願いしていたことへの返事なだけだから」

 叔父様には怯えが伝わっていたようで、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられてしまった。
 乱れた髪を整えながら、ホッと息をつく。
 割り切ってはいるけれど、やはり魔力がないと大勢の人の前で確定させられるのは楽しい経験ではないのだ。

「何をお願いしたの?」

 叔父様は兄であるお父様のことが苦手だ。嫌いというより性格が合わないのだと言って、できるだけ接触する機会を作らない。だからお願いなんてとても珍しいことだ。

 手紙を読んで頷いていた叔父様は、私に微笑んだ。

「カサンドル。明日は久しぶりに州都に行こうか」





 州都オードはブットヴィル家の領地の首都だ。その郊外に侯爵家の本邸がある。
 叔父様が私を連れていったのは、当然ながら本邸ではない。
 本邸から町を挟んで反対側。丘陵地帯にへばりつくように建てられた学校がある。地元の人材を育成するために、先々代の侯爵が設立した大学だ。今や高名な学者も多く呼び、なかなかの勢いがあるという。

「昨年ここに騎士科が設立されたんだ。そこに面白い経歴の教師が雇われている」

 叔父様はどんどん大学の敷地内に入っていく。入口で門番に手紙を見せていた。叔父様の言っていたお願いとは、ここに入るための口利きだったようだ。
 それにしても広い敷地だ。道も広いから、馬車も走っているに違いない。
 フィールドワークで鍛えられた足腰がこんなところで役立つとは……

「ああ? なんだお前ら?」

 訓練場らしき広場の脇に、番小屋みたいな掘っ立て小屋があり、叔父様は迷わずその扉を叩いた。
 そして間もなく出てきたのが、不機嫌そうな筋肉男だった。
 真っ黒なボサボサの髪。濃い顎髭。太い眉の下からのぞく目は、硬質な灰色。鋭く、そして猜疑心も露わな光を宿している。豪放磊落そうに見えて狡猾そうな人のようだ。

「貴方がジョルジュさんですか?」

「……ゲオルグだ。ったくどいつもこいつも」

 ゲオルグと名乗った彼は、盛大に舌打ちした。叔父様は慌てて謝っている。ゲオルグさんは外国の人なのね。

「失礼しましたゲオルグさん。ボク……私はシルジュ子爵のアンリ・ブットヴィルです。こちらはカサンドル。ちょっとした研究をしている者ですが、少しお話をお聞きしたいのです」

「子爵様の興味を惹ける話なんてねえよ」

「竜の巣のことです」

 語尾に被せ気味に言った叔父様の言葉に、ゲオルグさんは眉をピクリと動かした。

「……入れ」

 ゲオルグさんの招きで入った小屋の中は、お酒臭かった。床に何本も酒瓶が転がっている。
 それとは対象的に、机の上には大量の書物や古い羊皮紙の束が積み上げられている。そこだけ見たら、学者さんのようだ。

「適当に座れや」

 ゲオルグさんはそう言って顎で仮眠用らしいベッドを指したが、私は断固として拒否だ。
 苦笑した叔父様がベッドに腰掛け、私は入口脇の壁を背にして立つ。
 そんな私を、ゲオルグさんは馬鹿にしたように見た。

「お嬢ちゃんには興味ない話だと思うが?」

「カサンドルはそこらのお嬢様ではないですよ。ドラゴンを愛しているようです」

「ははっ! こりゃ傑作だぁ!」

 叔父様が言うと、ゲオルグさんは弾かれたように笑い出した。

「ありぁ、馬鹿デカイトカゲなんかじゃねえ。正真正銘のバケモンさ。実際に見た俺が言うんだから間違いねえ」

 実際に見たということは……

「では、十年前にドラゴンの財宝を狙ったというこそ泥は貴方ですか!?」

「こそ泥じゃねえ!」

 思わず叫んだら叱られた。

「財宝も欲しかったが、俺が最も得たかったのは、竜殺しの称号さ。ここノービリスはお上品な国柄だからないだろうが、俺の国じゃ竜殺しは英雄と同じ意味を持つ。だからドラゴンを倒して一旗あげたかったのさ……」

 結果は半死半生だけど。
 どうやら財宝も盗めなかったらしい。

「奴らは金銀財宝を巣の材料にしてるんだ。そこに卵を産む。そんな場所に近づけるはずがねえよな……」

 ゲオルグさんは両手の中に顔を埋めた。丸めた背中が哀愁を誘う。
 そんな彼の肩をそっと叩くのは叔父様だ。

「聖地に入っただけでも凄いことですよ。それに、ゲオルグさんはずっとドラゴンの研究をされているんですよね?」

「まあな。俺を虚仮にしたバケモンを許すワケにはいかねえからな」

 なるほど。だから叔父様は私をここに連れてきてくれたのね。
 ドラゴンを狩るのは同意出来ないけれど、彼の知識は欲しい。

「ゲオルグさん! ここにしばらく通わせていただきたいのです。よろしいでしょうか!?」

 私は身を乗り出して頼んだ。前のめり過ぎて、頼むというより圧力をかける感じになってしまったけれど。
 ゲオルグさんはギョッとして目を剥き、叔父様は苦笑しながら溜息をついている。

「もちろんカサンドルだけを通わせる訳にはいかないので、ボクも一緒ですけどね」

「……報酬にもよるな……」

 そして大人二人は交渉に入り、私は手持無沙汰になってしまった。
 黙って二人を眺めていたけれど、ふと外の喧騒が耳について気になってきた。

「叔父様。少し外を見ててもいいかしら?」

「少しだけだぞ」

 叔父様の声を背に、小屋から出る。
 訓練場に騎士の卵たちが集まっていた。授業が始まるのだろう。ゲオルグさんは行かなくていいのだろうか?
 それにしても、集まった生徒たちは全く集中していない。ざわめきながら、チラチラと観客席になっている方を気にしている。
 誰か見学者がいるのだろうか?
 私もそっちに目を向けて……硬直してしまった。

 そこにいたのは大勢の護衛に囲まれた貴人らしき一団。
 その中心にいたのは、妹のマリーと……

「殿下……?」

 レオン殿下だった。





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