春告竜と二度目の私

こもろう

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二度目の世界

これでも王子なんだよ

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 王太子レオンは、国王の私室に呼ばれていた。

 ここ数年、父である国王は病によって寝たり起きたりの生活を送っている。
 げっそりとやせ細り、目ばかりを炯炯と光らせた国王は、手にした書類をレオンに投げた。

「ブットヴィル侯爵家からの書状だ。マリー嬢との婚約を解消させて欲しいそうだ」

「そうですか」

 足元に落ちたそれを拾いもせず、レオンは淡々と応じた。
 予想の範囲内だったから、驚きもしない。
 妃教育は進まない、愛人には嫉妬する。魔力量は多いが、それだけ。思ったよりつまらない、ただの貴族の娘だった。

 そんな息子の様子をじっと見つめていた国王は、重く嘆息した。

「お前の全ての愛人を切れ」

 レオンの眉がピクリと跳ねた。
 国王は、今までレオンの女関係には一切口出しをしてこなかった。ノービリス王家の血を守るため、国王は側妃も愛妾も、愛人もいるのが当たり前だからだ。
 もちろん、父王も多くの愛人を持つ。

「どうしてですか?」

 レオンの問いに、国王はフンと鼻を鳴らす。

「お前は女遊びが下手糞だ。余計な火種を作るのは許さん」

 掠れ気味なはずの父王の声は、ドシリとレオンの腹に響く。
 項垂れたレオンの耳に、足音が近づいてきた。





* * * *





「カサンドル! キーリくん! 遅くなってすまない!」

 叔父様がやってきたのは、次の日の夕方だった。

「侯爵家の馬車に乗せてもらったんで、そこは速かったんだけどね。あの人の仕度に時間が架かっちゃったんでね」

「あの人?」

 叔父様の後ろを見ると、見知らぬ男性がいた。
 立派な正装姿なのに、どこか崩れた雰囲気がする中年男性だ。

「よお、お嬢ちゃんとボウズ。案外元気そうじゃねえか」

「ゲオルグさん!?」

「やっぱ堅苦しい格好は好かねえな。息苦しくていけねえや」

 いつもはボサボサの髪もカッチリ撫でつけ、しかも顎髭を剃ったゲオルグさんなんて初めて見た。まるで別人だわ。

「来てくれたのは嬉しいけれど、どうしてゲオルグさんが?」

「まあ、話は後だ。さっさと行ってさっさと終わらせようぜ」

 何だかゲオルグさんに仕切られている。




 え、ここって王族のプライベートスペースではないのかしら?

 気がつけば、音もなく案内人がつき、近衛らしき護衛に囲まれている。
 そして通されたのは、前回の私ですら見たことのない、国王陛下の私室。

 そこには、ソファーに身を沈めた陛下とその横に立つ殿下。そして向かい合うようにしてお父様がいらっしゃった。
 臣下の礼をとる叔父様と私。キーリは軽く頭を下げ、ゲオルグさんは略式礼をとった。

「良い。楽にせよ」

 陛下は掠れているけれど力強い声でおっしゃる。

「事の経緯の報告はうけておる。愚息が手間をかけた」

 殿下は顔を伏せていて、その表情はうかがえない。でもその両手の拳がきつく握りしめられている。

「ブットヴィル侯爵とも話がついた。マリー嬢との婚約は解消。もちろん、カサンドル嬢との婚約などあり得ん」

「いいえ、陛下」

 殿下が口を挟んだ。

「控えよ、レオン」

「控えません。あの女は危険です。ドラゴンを操ると私を脅してきました」

 そんなこと言ってない!
 叫びたかったけれど、この場所の雰囲気に圧されて声が出ない。悔しい。
 唇を噛みしめると、キーリがそっと肩に手を置いてくれた。

 口を開いて調子を取り戻したのか、殿下は饒舌になっていく。

「だからこれは、監視の意味もある婚約です。私があの女を手元に置いて制御してやります。野放しにしていたブットヴィル侯爵では頼りになりませんから」

「そこまでにしておけ、坊ちゃんよ」

 ゲオルグさんが殿下を鼻先で笑い飛ばす。

「何だ、貴様は? 得体の知れない輩が何でここにいる!?」

「俺は隣国で王子という肩書きを持っているんだよ。もっとも、ずっと帰国してねえから忘れられてるかも知れないけどな」

 ゲオルグさん、王子様だったの!?
 開いた口が塞がらない。

「ゲオルグ王子は、いにしえの試練を受けると言って公式の場から姿を消したと聞いている」

 陛下が確認するように言った。
 ゲオルグさんは肩を竦める。

「ずっと竜殺しを狙っていた。だから魔の森や聖地には詳しい。特に魔の森。あそこの反対側はうちの国に接しているからな」

 そんな訳で、とゲオルグさん……いえゲオルグ王子は、レオン殿下に慇懃な礼をする。

「短気を起こさんで聞いてくださいよ。あそこは人間の手に余る場所だ。魔の森もシルワの民にも、手を出さん方が身のためだ。もし出すとしたら……森の向こうも敵に回す可能性が高いと覚えておいてくれ」

 ゲオルグさんは私をちらりと見る。なんでニヤニヤしているのかしら?

「それと、このブットヴィル家のカサンドルお嬢様は、ドラゴンだけじゃなくシルワの民にも認められたお方だ。なんでも『姫様』って呼ばれているくらいだからな、迂闊に手を出したらドラゴンどころかシルワも敵に回さなくちゃならなくなる。悪いことは言わん。やめておけ。俺も手を引いたよ」

「ブットヴィル侯爵家もゲオルグ王子の意見を支持します」

 最後にお父様が言い切ってくれたからか、ようやく殿下は口を閉ざした。

 良かった。これでもう、レオン殿下に悩まされることはないだろう。
 ……なんだか私の存在がものすごく取扱い注意な感じになったのだけは、気になるけれど。




「有難うございます、お父様」

 私はお父様に深々と頭を下げた。隣で叔父様も同じようにする。

「僕からもお礼を。兄さんがいなかったら、手も足も出なかったよ」

「気にするな。何もしてやれなかった娘への、せめてもの償いだ」

 今回の私はすぐに家を出てしまって、お父様と向き合うのも本当に久しぶりだ。そんな私のことも気にかけてくれていたなんて。

「本当に有難うございます。……あれからマリーはどうしていますか? お母様は……」

「お前の母親は、マリーと共に静養しに実家に戻っている。二人共……ブットヴィルから離れた方が穏やかに過ごせるだろう」

 そんなことを話ながら、私たちは領地に戻る。
 魔の森、聖地があるあの地に。




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