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二度目の世界
そして、竜は春を告げる
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「そういや、ゲオルグのオッサンはどこ行ったんだ? 王宮から出た時にはいなかったけど」
「隣国の王子だってバレたから速攻で逃げるってどこかへ行ってしまったわ」
思い出したように聞いてきたキーリに、今更? と呆れつつも答える私。
「自分でバラしたくせに。すげえ偉そうだったよな」
「そのおかげで助かったようなものなんだよ?」
「まあな」
そんなことを話しながら、私たちは聖地に向かった。
前よりも登る足取りも軽い。二度目だからというのもあるだろう。だけど、何かが私の動きを助けてくれているという感覚がある。
だから、荷物がいつもより多いのに重たいとは感じない。
手前で休憩をとる。気持ちは逸るけれど、少し腹ごしらえも必要だ。
ドラゴンたちの身動ぎであろう地響きを感じながら、私たちは素早く食べ物を出す。
「キーリ、これ食べて」
私が出したのはクッキーだ。端がちょっと焦げ気味の。
気軽に受け取るキーリに、私の鼓動が跳ねる。そして彼をジッと見つめる。
緊張で喉が干上がってしまいそう。でも、言わなくては。言うと決めていたのだから。
「そのクッキーね、私が作ったの」
「え?」
「初めて作ったの。叔父様に手伝ってもらったけれど、試食したのは私だけ」
キーリに初めて会った日のことを思い出して、今度会った時には絶対にやろうと決めていたのだ。
「キーリにだけ食べてもらいたかったから」
給餌行動は求愛行動。
顔を真っ赤にしていたあの頃のキーリは、まるで美少女みたいだった。でも今は綺麗な顔立ちの立派な青年だ。背丈だって私よりうんと高い。
そんな高い位置にあるキーリの顔を見つめて、私は言う。
「私、キーリのこと好きなの」
きっと初めて会った時から好きだった。
前回の時に殿下にされた仕打ちのせいで、私は人間不信、特に男性不信なところがあった。
でもそんな私の歪んだ心に、キーリの存在はスルリと入ってきた。
大事な友だち。森での相棒。
でもそれだけだと嫌なのだ。
ミーアと話すキーリを見て、自覚した。彼の隣に他の女性が並ぶのなんて見たくない。
私が並びたい。
ずっと一緒にいたい。
「あ、いや、どうしてこんな時に言うんだよ?」
キーリは眉を吊り上げて文句を言う。告白をしたのにその態度は酷い。私はかなりムッとした。
「私のドラゴンにちゃんと紹介したいのよ。断るのなら、一人で行くわ」
荷物を纏めようと屈んだら、「ちょっと待てって!」とキーリが叫ぶ。
「お前って、結論を急ぐ癖があるよな? 待ってくれよ」
キーリはバリバリとクッキーを食べる。随分と雑な食べ方だ。
むせかける彼に水筒を渡す。キーリはゴクゴクと水を飲み、プハーと品のない声を出す。
「一人でなんて行かせないぞ」
「平気よ。ドラゴンが守ってくれる……」
「守るのは俺の役目だって決まってるんだ」
声のトーンが変わった。思わずキーリの顔を見る。
まるで怒っているみたい。
顔を真っ赤にして、眉を吊り上げている。口はへの字を描いていて、頬も強張っている。
でも、その目が。
新緑の色をした目が、こっちの胸が苦しくなるほどの熱をはらんで私を映し込んでいる。
「フライングだぞ」
「はい?」
「俺はな、ドラゴンの前でお前に言うつもりだったんだ! カサンドルが好きだ。特別なドラゴン相手でも負けないくらい、お前に夢中だし、お前を守るのはドラゴンじゃなくて俺なんだぞって!」
それなのにこんな所で先に言われるなんて!
キーリの叫びが岩場にこだまする。
「え……なんかごめんなさい」
「いいって。どうせ俺はいつも格好がつかない奴だ。でも」
キーリの手が伸びてくる。少しカサついた指先が、私の頬に触れる。
微かに震えた、熱い掌が頬を包むように触れてくる。
思わずその手に自分から擦りついてしまった。
「カサンドルのことは最初から特別だった。動物たちを率いる変な人間の女の子がいるなって、誰よりも早くカサンドルを見つけたことがやけに誇らしくてさ。見守る……見張るつもりが失敗して接触しちゃったけど、そうして良かったって思って。アンリさんのお菓子目当てっていう名目を盾にして、カサンドルに会いに行くのが楽しみだった」
「あんまり変だって言わないで欲しいわ」
溜息をつくと、キーリはクスクスと笑う。
「ごめん、言い換えよう。特別。そしていつもキラキラ輝いてる、眩しい子だ」
キラキラしいのはキーリの方だと謂うけど。
「カサンドルは昔から何かに焦がれている目をしているよね。そのくせ、何かに酷く怯えている。それが何なのか分からないけど、でもカサンドル自身がそれに負けないぞって色々足掻いていて、そんな姿がキラキラ眩しいんだよね」
「そ、そうですか……」
「なんで敬語?」
キーリの手が項に回った。もう片方の手は腰に。彼の手に力が入るのを感じて、私は自分からキーリの胸に飛び込んだ。
トクトクと少し速いキーリの鼓動が私の体を軽く揺さぶる。きっと私のそれも同じくらい速い。
私の勢いが強すぎたせいか、二人してよろめいた。
考えてみたら、ここはそこそこ険しい岩山の途中だ。転がり落ちたら洒落にならない。
さっきとは違った意味で心臓を跳ねさせて、私たちはお互いの顔を覗き込む。そして同時に笑った。
その時、物凄い強風が吹き上がった。そして私たちの足元に大きな影が出来る。一つ、二つ。
空を見上げれば、番らしきドラゴンが二頭、輪舞曲を思わせる動きで宙を舞っていた。
あの子の両親だ。
そして。
『ギャギャー!』
空中の彼らから、小さな影が落ちてくる。
あの子だ。
やっと、また会えた!!
青い鱗を陽光で銀色に輝かせ、あの日のドラゴンは一直線に私の胸に飛び込んだ。
『オカエリ!』
ドラゴンの声が私の頭の中で聞こえる。
涙で視界を滲ませながらも、私も叫ぶ。ずっと心に決めていた、この子の名前を。
「ただいま、エル! あなたは私の翼よ!!」
そして私の二度目の人生は、新しい未来を紡いでいく。
「隣国の王子だってバレたから速攻で逃げるってどこかへ行ってしまったわ」
思い出したように聞いてきたキーリに、今更? と呆れつつも答える私。
「自分でバラしたくせに。すげえ偉そうだったよな」
「そのおかげで助かったようなものなんだよ?」
「まあな」
そんなことを話しながら、私たちは聖地に向かった。
前よりも登る足取りも軽い。二度目だからというのもあるだろう。だけど、何かが私の動きを助けてくれているという感覚がある。
だから、荷物がいつもより多いのに重たいとは感じない。
手前で休憩をとる。気持ちは逸るけれど、少し腹ごしらえも必要だ。
ドラゴンたちの身動ぎであろう地響きを感じながら、私たちは素早く食べ物を出す。
「キーリ、これ食べて」
私が出したのはクッキーだ。端がちょっと焦げ気味の。
気軽に受け取るキーリに、私の鼓動が跳ねる。そして彼をジッと見つめる。
緊張で喉が干上がってしまいそう。でも、言わなくては。言うと決めていたのだから。
「そのクッキーね、私が作ったの」
「え?」
「初めて作ったの。叔父様に手伝ってもらったけれど、試食したのは私だけ」
キーリに初めて会った日のことを思い出して、今度会った時には絶対にやろうと決めていたのだ。
「キーリにだけ食べてもらいたかったから」
給餌行動は求愛行動。
顔を真っ赤にしていたあの頃のキーリは、まるで美少女みたいだった。でも今は綺麗な顔立ちの立派な青年だ。背丈だって私よりうんと高い。
そんな高い位置にあるキーリの顔を見つめて、私は言う。
「私、キーリのこと好きなの」
きっと初めて会った時から好きだった。
前回の時に殿下にされた仕打ちのせいで、私は人間不信、特に男性不信なところがあった。
でもそんな私の歪んだ心に、キーリの存在はスルリと入ってきた。
大事な友だち。森での相棒。
でもそれだけだと嫌なのだ。
ミーアと話すキーリを見て、自覚した。彼の隣に他の女性が並ぶのなんて見たくない。
私が並びたい。
ずっと一緒にいたい。
「あ、いや、どうしてこんな時に言うんだよ?」
キーリは眉を吊り上げて文句を言う。告白をしたのにその態度は酷い。私はかなりムッとした。
「私のドラゴンにちゃんと紹介したいのよ。断るのなら、一人で行くわ」
荷物を纏めようと屈んだら、「ちょっと待てって!」とキーリが叫ぶ。
「お前って、結論を急ぐ癖があるよな? 待ってくれよ」
キーリはバリバリとクッキーを食べる。随分と雑な食べ方だ。
むせかける彼に水筒を渡す。キーリはゴクゴクと水を飲み、プハーと品のない声を出す。
「一人でなんて行かせないぞ」
「平気よ。ドラゴンが守ってくれる……」
「守るのは俺の役目だって決まってるんだ」
声のトーンが変わった。思わずキーリの顔を見る。
まるで怒っているみたい。
顔を真っ赤にして、眉を吊り上げている。口はへの字を描いていて、頬も強張っている。
でも、その目が。
新緑の色をした目が、こっちの胸が苦しくなるほどの熱をはらんで私を映し込んでいる。
「フライングだぞ」
「はい?」
「俺はな、ドラゴンの前でお前に言うつもりだったんだ! カサンドルが好きだ。特別なドラゴン相手でも負けないくらい、お前に夢中だし、お前を守るのはドラゴンじゃなくて俺なんだぞって!」
それなのにこんな所で先に言われるなんて!
キーリの叫びが岩場にこだまする。
「え……なんかごめんなさい」
「いいって。どうせ俺はいつも格好がつかない奴だ。でも」
キーリの手が伸びてくる。少しカサついた指先が、私の頬に触れる。
微かに震えた、熱い掌が頬を包むように触れてくる。
思わずその手に自分から擦りついてしまった。
「カサンドルのことは最初から特別だった。動物たちを率いる変な人間の女の子がいるなって、誰よりも早くカサンドルを見つけたことがやけに誇らしくてさ。見守る……見張るつもりが失敗して接触しちゃったけど、そうして良かったって思って。アンリさんのお菓子目当てっていう名目を盾にして、カサンドルに会いに行くのが楽しみだった」
「あんまり変だって言わないで欲しいわ」
溜息をつくと、キーリはクスクスと笑う。
「ごめん、言い換えよう。特別。そしていつもキラキラ輝いてる、眩しい子だ」
キラキラしいのはキーリの方だと謂うけど。
「カサンドルは昔から何かに焦がれている目をしているよね。そのくせ、何かに酷く怯えている。それが何なのか分からないけど、でもカサンドル自身がそれに負けないぞって色々足掻いていて、そんな姿がキラキラ眩しいんだよね」
「そ、そうですか……」
「なんで敬語?」
キーリの手が項に回った。もう片方の手は腰に。彼の手に力が入るのを感じて、私は自分からキーリの胸に飛び込んだ。
トクトクと少し速いキーリの鼓動が私の体を軽く揺さぶる。きっと私のそれも同じくらい速い。
私の勢いが強すぎたせいか、二人してよろめいた。
考えてみたら、ここはそこそこ険しい岩山の途中だ。転がり落ちたら洒落にならない。
さっきとは違った意味で心臓を跳ねさせて、私たちはお互いの顔を覗き込む。そして同時に笑った。
その時、物凄い強風が吹き上がった。そして私たちの足元に大きな影が出来る。一つ、二つ。
空を見上げれば、番らしきドラゴンが二頭、輪舞曲を思わせる動きで宙を舞っていた。
あの子の両親だ。
そして。
『ギャギャー!』
空中の彼らから、小さな影が落ちてくる。
あの子だ。
やっと、また会えた!!
青い鱗を陽光で銀色に輝かせ、あの日のドラゴンは一直線に私の胸に飛び込んだ。
『オカエリ!』
ドラゴンの声が私の頭の中で聞こえる。
涙で視界を滲ませながらも、私も叫ぶ。ずっと心に決めていた、この子の名前を。
「ただいま、エル! あなたは私の翼よ!!」
そして私の二度目の人生は、新しい未来を紡いでいく。
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