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番外編
◆聖王家の聖なる王子は…
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レオンは苛立っていた。
毎日政務で忙しい。
父王が病で臥せっているから、全て王太子レオンの肩にのしかかっている。
でもレオンの能力は高いため、政務に滞りはない。言い換えるならば、滞らせる程度の能力しかないのならば、立太子出来なかった。彼の下には弟が二人いるからだ。
しかし政治家として優秀でも、レオンには大きな欠点があった。
それは女にだらしがないことだ。なまじ見目が良いから、寵愛を求める女性が雲霞のごとく群がってきた。そんな環境だったせいで、余計にそれが常態化していた。
しかもただ闇雲に享楽にふけるあまり、貴族や官僚などの力関係を考えなかった。考えることを思いつきもしなかった。
そういう下手な遊びをするが故に、父王に厳しく咎められて遊び相手を全て失った。婚約者も失ったが、レオンにとってそれはどうでもいいことだった。
マリーという婚約者に対する冷淡な態度はつまり、レオンが全く変わっていないことを示していると言える。
実力はある傲慢な色欲王子のままのレオンは、眉間に縦皺を刻みながら多忙な日々を送っていた。
出会いは唐突だった。
表敬訪問先の大聖堂にいたコレットという子爵令嬢。
淡い金髪をきつく結い上げ、片耳にだけ小さなピアスを光らせただけの地味な恰好。肌は透けるほど白く緑灰色の目の下には薄っすらと隈がある。そんな儚げな容姿の彼女は、大聖堂の運営を担う参事会員の娘でもあった。だから毎日のように父親に寄り添い大聖堂に来ているのだという。
今まで寝てきた女とは正反対の素朴さがある娘。それはきっと父親が大聖堂と関りが深いからかもしれない。
レオンはそんなことを思った。それが興味の始まりだった。
父王からは愛人を全て切れと命じられた。
だが、新しい愛人をつくるなとは言われていない。
レオンはコレットを王太子宮の侍女として召し上げた。
コレットは目元を薄紅色に染めながら了承し、そこそこ優秀な侍女になった。閨の相手としてもなかなか良かった。ただ肉体が交わるだけではない。コレットは魔力操作に長けていて、互いに魔力を循環させて快楽を増幅させた。
父親は問題のある派閥ではない。本人もおとなしく従順。おまけに正妃の座を狙うような欲も出さない。
実に都合のいい存在だ。だからレオンは寵愛した。昼は侍女として夜は愛人として。視察先にも連れて行った。寝室はもちろん一つだ。
そして半年も経った頃。
レオンは魔力を暴走させて昏倒した。
外に向けての暴走でなく、体内で魔力が荒れ狂うものだったせいで、レオンは寝室の床でのたうち回った。
「ようやく効いたのね……」
口から血を吐いて苦しみ悶えるレオンを、コレットは温度のない瞳で見下ろしていた。
――こいつが! こいつが何かしたのか!!
うめき声と血しか吐けないレオンは、それでも気力を集めてコレットを血走る目で睨んだ。
「安心して? 命を奪うほどではないわ。ただしばらく、物凄く苦しむだけ」
コレットはきつく結っていた髪をほどく。淡い金髪が、サラリと彼女の上半身を覆った。
「その肉体の苦しみもそのうち消える。……でも、もう元には戻れない。貴方は大聖堂の地下に封じられていた古の魔力の片鱗に穢されたの。聖別された綺麗な王子様はもういないの」
歌うようにコレットは話し続ける。
「ねえ王子様、聞いてくださる? やっとあの人の元に行けるの……誠実なあの人は、馬鹿で傲慢な子供の勘気に触れて職を失い、子供の親に目をつけられて死んだ。十年……長かったわ、十年……」
コレットは髪に差していた簪の、やけに鋭い切っ先を己の喉に突き立てる。噴き出す彼女の血潮を全身に浴びながら、レオンは己の迂闊さを呪った。
王太子レオンの名は、聖王家の系図から消された。
高い魔力を誇ったが、その聖性を穢され失ってしまったために歴史から抹消された。
王家の色である紺碧の瞳を潰され、城壁にある独房へ入れられた。
そこは天空牢と呼ばれている。
そこでレオンは短い生涯を終えることになった。
毎日政務で忙しい。
父王が病で臥せっているから、全て王太子レオンの肩にのしかかっている。
でもレオンの能力は高いため、政務に滞りはない。言い換えるならば、滞らせる程度の能力しかないのならば、立太子出来なかった。彼の下には弟が二人いるからだ。
しかし政治家として優秀でも、レオンには大きな欠点があった。
それは女にだらしがないことだ。なまじ見目が良いから、寵愛を求める女性が雲霞のごとく群がってきた。そんな環境だったせいで、余計にそれが常態化していた。
しかもただ闇雲に享楽にふけるあまり、貴族や官僚などの力関係を考えなかった。考えることを思いつきもしなかった。
そういう下手な遊びをするが故に、父王に厳しく咎められて遊び相手を全て失った。婚約者も失ったが、レオンにとってそれはどうでもいいことだった。
マリーという婚約者に対する冷淡な態度はつまり、レオンが全く変わっていないことを示していると言える。
実力はある傲慢な色欲王子のままのレオンは、眉間に縦皺を刻みながら多忙な日々を送っていた。
出会いは唐突だった。
表敬訪問先の大聖堂にいたコレットという子爵令嬢。
淡い金髪をきつく結い上げ、片耳にだけ小さなピアスを光らせただけの地味な恰好。肌は透けるほど白く緑灰色の目の下には薄っすらと隈がある。そんな儚げな容姿の彼女は、大聖堂の運営を担う参事会員の娘でもあった。だから毎日のように父親に寄り添い大聖堂に来ているのだという。
今まで寝てきた女とは正反対の素朴さがある娘。それはきっと父親が大聖堂と関りが深いからかもしれない。
レオンはそんなことを思った。それが興味の始まりだった。
父王からは愛人を全て切れと命じられた。
だが、新しい愛人をつくるなとは言われていない。
レオンはコレットを王太子宮の侍女として召し上げた。
コレットは目元を薄紅色に染めながら了承し、そこそこ優秀な侍女になった。閨の相手としてもなかなか良かった。ただ肉体が交わるだけではない。コレットは魔力操作に長けていて、互いに魔力を循環させて快楽を増幅させた。
父親は問題のある派閥ではない。本人もおとなしく従順。おまけに正妃の座を狙うような欲も出さない。
実に都合のいい存在だ。だからレオンは寵愛した。昼は侍女として夜は愛人として。視察先にも連れて行った。寝室はもちろん一つだ。
そして半年も経った頃。
レオンは魔力を暴走させて昏倒した。
外に向けての暴走でなく、体内で魔力が荒れ狂うものだったせいで、レオンは寝室の床でのたうち回った。
「ようやく効いたのね……」
口から血を吐いて苦しみ悶えるレオンを、コレットは温度のない瞳で見下ろしていた。
――こいつが! こいつが何かしたのか!!
うめき声と血しか吐けないレオンは、それでも気力を集めてコレットを血走る目で睨んだ。
「安心して? 命を奪うほどではないわ。ただしばらく、物凄く苦しむだけ」
コレットはきつく結っていた髪をほどく。淡い金髪が、サラリと彼女の上半身を覆った。
「その肉体の苦しみもそのうち消える。……でも、もう元には戻れない。貴方は大聖堂の地下に封じられていた古の魔力の片鱗に穢されたの。聖別された綺麗な王子様はもういないの」
歌うようにコレットは話し続ける。
「ねえ王子様、聞いてくださる? やっとあの人の元に行けるの……誠実なあの人は、馬鹿で傲慢な子供の勘気に触れて職を失い、子供の親に目をつけられて死んだ。十年……長かったわ、十年……」
コレットは髪に差していた簪の、やけに鋭い切っ先を己の喉に突き立てる。噴き出す彼女の血潮を全身に浴びながら、レオンは己の迂闊さを呪った。
王太子レオンの名は、聖王家の系図から消された。
高い魔力を誇ったが、その聖性を穢され失ってしまったために歴史から抹消された。
王家の色である紺碧の瞳を潰され、城壁にある独房へ入れられた。
そこは天空牢と呼ばれている。
そこでレオンは短い生涯を終えることになった。
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番外編、嬉しいです。
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