春告竜と二度目の私

こもろう

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番外編

◆妹の見ていた世界

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 私はマリー・ブットヴィル。侯爵令嬢よ。
 そして、聖なる王太子レオン様の婚約者。

 そう。正式に王家と侯爵家で結ばれた婚約。
 しかも私を選んだのはレオン様ご自身よ。初めてお会いした時、すぐに私を指名してくれたの。
 やっぱり私は愛される存在なのね!

 お兄様は「さすが僕の妹だ」って可愛いリボンたくさんくれたし、お母様は「やっぱり私は間違ってなかったわ!」って仕立屋を呼んでドレスを作ってくれたし、普段はほとんどしゃべらないお父様だって「よくやった」って褒めてくれたのよ。
 私の家族はみんな素敵。
 そういえば魔力のない異物が『姉』だと言って交じっていたけど、あんな私に嫉妬して嫌味ばっかり言ってくる陰気な奴なんて家族じゃないわ。
 自分から出ていったって聞いて、ホッとしたわ。あいつがいるとお母様は泣き叫ぶしお兄様はイライラするし、ろくなことがないんだもの。

 異物がいなくなってからずっと、侯爵家では笑いが絶えないわ。私が自在に魔法を操って、お母様たちを笑わせてあげているのよ。
 レオン様との婚約が決まってお祝いパーティーをした時も、たくさん魔法を見せてあげたのよ。お客様たちはみんな感心してたわ。
 「天才だ」「聖女なのかも」なんてみんな口々に賞賛してきたわ。うふふ。本当に聖女だったら、聖なる王子であるレオン様とますますつり合いがとれそうね。

 妃教育は大変だわ。最初は侯爵家に王家から派遣された教師たちが来ていたんだけど、そいつらはプライドばかり高い能無しだったから、私の教育が進まなかった。
 仕方がないからクビにして欲しいって陛下に言ったら、今度は私が王宮に行くことになっちゃった。ちょっとメンドクサイけど、レオン様の近くに行けるわね。そうよ、毎日お茶会出来るわ!

 ……そう期待してたのに。
 どうしてなの!?
 毎日朝から晩まで勉強勉強! レオン様とお茶どころか顔を一目見ることすら出来ない。
 探そうとしたら、手を鞭で叩かれた。
 一回、二回はガマンしてあげたわ。でも三回目は許せない!
 魔法で教師を吹き飛ばしたら、反省しなさいって部屋に閉じ込められた。なんなの!?
 ようやくレオン様にお会いできたと思ったら、「私のために素晴らしい妃になると言ったのは嘘だったのかい?」って言われて。
 レオン様……笑顔なのに、ちょっと怖かった……

 それから、たびたびレオン様を見かけるようになったわ。
 会うんじゃないの。見かけるの。
 王宮のあちこちで、レオン様は……私以外の女を連れていちゃついていたわ……
 特にお気に入りらしい女の名を知ったわ。フランシーヌとかいうアバズレ。私より年上のババアの癖に、「レオンさまぁ」なんて鼻にかかった声なんかだしてベタベタして。
 私は見たわ。アバズレがレオン様以外の男を裏庭の茂みに引きずり込んでいるのをね。
 なんであんな女がレオン様の傍にいるのよ!

 お父様に言いつけたら、私の方が注意されて侯爵家に帰されてしまった。
 レオン様は「姉の方がマシだったか」なんて訳の分からないことを言っていた。姉って誰の事?
 まあ、今までさんざん頑張ったんだから、ここらへんで一度ゆっくりするのもいいかもしれない。
 と思ったら、今度はお母様が大騒ぎしはじめてうんざりだ。
 出ていって欲しいのに、ずっと私の部屋にいて泣きわめく。「どうかしてしまったの」「貴女だけは大丈夫だと思ったのに」「私が悪いっていうの」なんて延々と叫び続ける。
 うるさいな。
 うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい……!
 怒鳴り返したら、殴られた。お母様の整えられた爪が鋭すぎる。痛い……!
 あんたなんてお母様じゃないわ!

 ……………あら?
 どうしてこんな薄暗い部屋に移されたのかしら? やだ、離れじゃないの。
 こんな場所、あの陰気な女がお似合いなのよ。私じゃないわ。
 ちょっと、お母様まで来ないでよ!
 うるさいうるさいうるさいうるさい…………

 嫌になって離れを抜け出してやった。
 とっても綺麗な使用人がいたから私付きにしてあげようと思ったのに、態度がデカイ変な女に邪魔された。カサンドル? 姉?
 もしかして、レオン様が言っていたのは、こいつのこと……?
 こいつがレオン様を盗ったのね! この泥棒猫が!!
 せっかく退治してやろうとしたのに、物凄い衝撃がきて失神してしまった。

 気が付けば、レオン様との婚約はなかったことにされていた。
 お父様は「母親の実家で静養するといい」なんて暗い顔で訳分からないことを言う。
 お兄様は「こんな妹を持って恥ずかしい。二度と顔を見せるな」なんて酷いことを言う。
 何よ! 誇らしいって一番喜んでいたのはお兄様じゃない!
 私がレオン様の婚約者だから側近候補としておそばにいられたんでしょ!

 私が叫ぶと、乱れて荒れた魔力が暴走する。カーテンは千切れ、家具が飛んで砕ける。そういえば初めに壊れた美術品の類は、ずっと前から飾られなくなっていたわね。
 お兄様は無様に床にはいつくばって、ひいひい叫んでいる。
 あははっ、私を大事にしてくれない家なんて、壊れちゃえばいいのよ。家も家族もみーんな!
 でも、お父様がくれた綺麗な首飾りを身に着けたら何も出来なくなった。魔力封じの道具だったらしい。酷いわ、お父様。私ってなんて可哀想な子なんだろう。
 お母様と一緒になって、私は泣いた。ずっとしくしく泣いて、お母様の実家へと連れていかれたの。
 もういいわ。こっちで私のことを大事にしてくれる人を探すんだから。この首飾りさえなければ。これって魔力だけでなく私の気力やら何やらも奪うみたいで、ずっと頭に靄がかかっているみたいになるから取って欲しいわ。私の手では取れないの……

「お母様、何て顔なの。その白髪も、まるでお婆さんだわ」

「何を言ってるのマリー? 貴女だってそうじゃない。ほら、私たちはそっくりよ」

 いやああああっ!!





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