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巻き戻ったから切れてみた
「アイリにこんな酷いことをするなんて、君には失望したよブリジッタ! 君は傷害罪だ。牢屋で反省するんだな!」
「そんな!? 嫌よ、私はアルバート様の婚約者でしょ!」
「婚約は当然破棄だ。衛兵、連れて行け!」
「いやああああ殿下あああ!」
…………………
「って、サイテーでしょ!?」
「な、なんだいきなり?」
力の限りティーテーブルを叩いて、私は我に返った。ん? テーブル?
私はずっと冷たい牢屋に入れられて……あのアルバートの命令で……
あれ? クソ王子が幼くなって目の前にいる?
「…………クソ王子とは、私のことか?」
「あらやだ口に出てました?」
慌てて自分の口を押さえたその私の手も小さい。
あらら? これではまるで初めてアルバート王子と顔合わせした年齢くらい……
「初めて会った者に対して、随分な態度だな」
本当に初めて会った時だったー!
ということは、ここは婚約者として初顔合わせのお茶会。今の私は六歳で王子は九歳ね。
この時点で既に王子は子爵令嬢アイリと恋仲だったと断罪時に本人から聞いている。九歳にして幼馴染を生涯の恋人と決めて囲い込んで、その上しれっと婚約者をつくったんだから、とんだエロ餓鬼ね。
まあ、六歳で王子に惚れ込んで好き好きアピールしまくった私もとんだ恋愛脳だわ。
だが私の脳内お花畑は、巻き戻る前の牢屋暮らしで完全に枯れ果てている!
ついでに言えば、看守たちの下世話な会話をこれでもかと聞いたから、男に対しての幻想も全て消え去っている!
ということで。
「あんたなんかとの婚約なんか、こっちから願い下げだわ!!」
ズビシッとテーブル向かいにある王子のお綺麗な顔に指をつけつける。
不敬ですって?
どうせ十年後には断罪されて牢屋に叩き込まれるのよ。だったらこれからの十年、好きにさせてもらおうじゃないの。そんな私に怖いものはないわ!
我が家の没落? どうせ十年以下略!
……しかも投獄された私に、家族は誰一人として面会にも来てくれなかったのよ。酷いと思わない?
ちょっと王子の恋人とかいう娘を海軍の戦艦に連れて行って大砲に詰め込んで人間大砲しようとしただけじゃない。乙女の小粋なジョークよジョーク。
やーねえ、冗談も通じないなんて頭が固すぎな家族だわ。今更会いに来ても、『公爵令嬢ブリジッタの獄中告白記~高位貴族の秘密全部教えちゃいます~』の印税分けてあげないんだからねっ。
「ブリジッタ嬢……つまり君はクソ王子である私との婚約をしたくない、と言いたいのかな?」
ク……じゃなかったアルバート王子がにこやかに笑いながら問い質してくる。余裕ぶっているけれど、ティーカップを持つ手が震えているわよ。
「イエス! 殿下!」
対する私は、晴れやかに言い切って紅茶を啜る。プハーッ久々にいいお茶を飲んだ気分。
あら、王子の顔が真っ赤だわ? この程度の侮辱で動揺するなんて、まだまだ甘いわねエロ餓鬼ちゃんめ。
カップをソーサーに戻すと、私は一転して真顔になった。
「わたくし、知っておりますのよ? 殿下が離宮にこっそり愛しの子爵令嬢アイリ様を囲ってらっしゃるのを」
なんてったって、クソ王子がそう言ったんだからね!
「王族ならば、次の世代のことを考えて側室を設けたり愛妾を囲ったりするのも、ある程度は仕方のないことでしょう。……でも!」
私はもう一度、『あ、その』とか『囲ってとかそんな……』なんてあわあわしている王子をバシッと指差す。
「そうするならば、それなりの仁義を通すのがスジってもんでしょう!?」
「はひっ!?」
今度は顔を真っ青にして硬直しているわ。キンタ……いえ、肝っ玉の小さい男ですこと。
「こそこそ隠さないで、情報は開示すること! その上で、全てを了解した相手がいたら、しっかりと契約事項を確認すること! もちろん、アイリ様自身も側室なら側室、愛妾なら愛妾という己の立場を理解して、己の分をわきまえること!」
「そんな、アイリを愛妾とかになんて……」
「シャーラップ! 正式な婚約者でもない、身分も足りないわの今のアイリ様が正妃になれる訳がありませんし、正妃扱いしてはいけません! して欲しければ、彼女をどこぞの高位貴族の養女にブチ込んで徹底的に正妃教育を行い、他派閥の貴族たちにツッコまれないような環境づくりをすること! アイリ様自身も他の令嬢たちに足元をすくわれないように死にものぐるいで努力すること!」
「でも、そんな詰め込み教育をしたら素朴なアイリの長所がなくなってしまう……」
「笑止!! 王子の隣に立ちたいのならば、努力は必須! 義務でしてよ、義務!! その義務を全うさせたくないのならば、森に帰しておあげなさいませ」
「アイリはアライグマか」
「スター○ング少年は素直に帰してあげましたわ。さて、殿下はどうしますか? 手放したくない、義務は全うさせたくないとごちゃごちゃおっしゃるならば、殿下が共に森へお行きなさいませ!」
「……そこは野に下るだろ……」
額に手を当てて、王子はハァと深い溜息を落としている。九歳のショタというよりオッサンのような仕草だ。
「…………女性を大砲に詰めるようなぶっ飛んだ人間に王族としての道を正されるなんてな……」
おや?
私は目をパシパシと瞬かせて、改めて王子の顔を見つめた。
やけに大人びたアルバート王子の表情。何かを悟ったかのような眼差し。
「もしかして、殿下も……?」
「ああ、やはり君も戻ってきたんだな」
おっふ。
巻き戻ったのは私だけではなかったのね!?
「よっしゃ、殿下! ではさっそく破棄を! はきはきっと破棄を!!」
「あ~、まあ、落ち着いてくれ……。君を投獄してから私も色々考えたんだ」
「私という婚約者がいなくなったんだから、おおっぴらにラブラブいちゃいちゃしてたんじゃなかったのですか?」
「ラブラブもいちゃいちゃもない。あれからすぐ、アイリはサーカス団に入団してしまったからな」
「…………………はい?」
「君がそんな顔になるのも分かる。私もそうなった」
そんな顔ってどんなだ。まあ、それはいい。
「君に無体を強いられた時に、人間の限界を知りたくなったそうだ……なんてことをしてくれたんだ、君は!?」
じゃあ、十年以上に渡る世紀の恋もそこで終わり? ウケるんですけど!!
「……全部声に出ているぞ」
「ソーリー」
「なんでそんなムカつく言い方なんだ……。まあいい。そんな訳で、君には責任を取ってもらわないとね」
「え? 責任?」
「アイリも巻き戻っている」
「ってことは、記憶もある?」
「そうだ。このお茶会直前に離宮から出奔した。『この年齢からならスターも狙える! という訳でサーカス団に行きます』という置手紙を残してな」
「…………………」
なんてこった。
恐る恐る王子の顔を窺うと、物凄いジト目に迎えられた。
「……という訳で、君は婚約者のままだ。責任を取って義務を果たしてくれ」
「な……、」
なんだそりぁあああああ!?
アルバート王子「巻き戻ってからずっと切れている」
「そんな!? 嫌よ、私はアルバート様の婚約者でしょ!」
「婚約は当然破棄だ。衛兵、連れて行け!」
「いやああああ殿下あああ!」
…………………
「って、サイテーでしょ!?」
「な、なんだいきなり?」
力の限りティーテーブルを叩いて、私は我に返った。ん? テーブル?
私はずっと冷たい牢屋に入れられて……あのアルバートの命令で……
あれ? クソ王子が幼くなって目の前にいる?
「…………クソ王子とは、私のことか?」
「あらやだ口に出てました?」
慌てて自分の口を押さえたその私の手も小さい。
あらら? これではまるで初めてアルバート王子と顔合わせした年齢くらい……
「初めて会った者に対して、随分な態度だな」
本当に初めて会った時だったー!
ということは、ここは婚約者として初顔合わせのお茶会。今の私は六歳で王子は九歳ね。
この時点で既に王子は子爵令嬢アイリと恋仲だったと断罪時に本人から聞いている。九歳にして幼馴染を生涯の恋人と決めて囲い込んで、その上しれっと婚約者をつくったんだから、とんだエロ餓鬼ね。
まあ、六歳で王子に惚れ込んで好き好きアピールしまくった私もとんだ恋愛脳だわ。
だが私の脳内お花畑は、巻き戻る前の牢屋暮らしで完全に枯れ果てている!
ついでに言えば、看守たちの下世話な会話をこれでもかと聞いたから、男に対しての幻想も全て消え去っている!
ということで。
「あんたなんかとの婚約なんか、こっちから願い下げだわ!!」
ズビシッとテーブル向かいにある王子のお綺麗な顔に指をつけつける。
不敬ですって?
どうせ十年後には断罪されて牢屋に叩き込まれるのよ。だったらこれからの十年、好きにさせてもらおうじゃないの。そんな私に怖いものはないわ!
我が家の没落? どうせ十年以下略!
……しかも投獄された私に、家族は誰一人として面会にも来てくれなかったのよ。酷いと思わない?
ちょっと王子の恋人とかいう娘を海軍の戦艦に連れて行って大砲に詰め込んで人間大砲しようとしただけじゃない。乙女の小粋なジョークよジョーク。
やーねえ、冗談も通じないなんて頭が固すぎな家族だわ。今更会いに来ても、『公爵令嬢ブリジッタの獄中告白記~高位貴族の秘密全部教えちゃいます~』の印税分けてあげないんだからねっ。
「ブリジッタ嬢……つまり君はクソ王子である私との婚約をしたくない、と言いたいのかな?」
ク……じゃなかったアルバート王子がにこやかに笑いながら問い質してくる。余裕ぶっているけれど、ティーカップを持つ手が震えているわよ。
「イエス! 殿下!」
対する私は、晴れやかに言い切って紅茶を啜る。プハーッ久々にいいお茶を飲んだ気分。
あら、王子の顔が真っ赤だわ? この程度の侮辱で動揺するなんて、まだまだ甘いわねエロ餓鬼ちゃんめ。
カップをソーサーに戻すと、私は一転して真顔になった。
「わたくし、知っておりますのよ? 殿下が離宮にこっそり愛しの子爵令嬢アイリ様を囲ってらっしゃるのを」
なんてったって、クソ王子がそう言ったんだからね!
「王族ならば、次の世代のことを考えて側室を設けたり愛妾を囲ったりするのも、ある程度は仕方のないことでしょう。……でも!」
私はもう一度、『あ、その』とか『囲ってとかそんな……』なんてあわあわしている王子をバシッと指差す。
「そうするならば、それなりの仁義を通すのがスジってもんでしょう!?」
「はひっ!?」
今度は顔を真っ青にして硬直しているわ。キンタ……いえ、肝っ玉の小さい男ですこと。
「こそこそ隠さないで、情報は開示すること! その上で、全てを了解した相手がいたら、しっかりと契約事項を確認すること! もちろん、アイリ様自身も側室なら側室、愛妾なら愛妾という己の立場を理解して、己の分をわきまえること!」
「そんな、アイリを愛妾とかになんて……」
「シャーラップ! 正式な婚約者でもない、身分も足りないわの今のアイリ様が正妃になれる訳がありませんし、正妃扱いしてはいけません! して欲しければ、彼女をどこぞの高位貴族の養女にブチ込んで徹底的に正妃教育を行い、他派閥の貴族たちにツッコまれないような環境づくりをすること! アイリ様自身も他の令嬢たちに足元をすくわれないように死にものぐるいで努力すること!」
「でも、そんな詰め込み教育をしたら素朴なアイリの長所がなくなってしまう……」
「笑止!! 王子の隣に立ちたいのならば、努力は必須! 義務でしてよ、義務!! その義務を全うさせたくないのならば、森に帰しておあげなさいませ」
「アイリはアライグマか」
「スター○ング少年は素直に帰してあげましたわ。さて、殿下はどうしますか? 手放したくない、義務は全うさせたくないとごちゃごちゃおっしゃるならば、殿下が共に森へお行きなさいませ!」
「……そこは野に下るだろ……」
額に手を当てて、王子はハァと深い溜息を落としている。九歳のショタというよりオッサンのような仕草だ。
「…………女性を大砲に詰めるようなぶっ飛んだ人間に王族としての道を正されるなんてな……」
おや?
私は目をパシパシと瞬かせて、改めて王子の顔を見つめた。
やけに大人びたアルバート王子の表情。何かを悟ったかのような眼差し。
「もしかして、殿下も……?」
「ああ、やはり君も戻ってきたんだな」
おっふ。
巻き戻ったのは私だけではなかったのね!?
「よっしゃ、殿下! ではさっそく破棄を! はきはきっと破棄を!!」
「あ~、まあ、落ち着いてくれ……。君を投獄してから私も色々考えたんだ」
「私という婚約者がいなくなったんだから、おおっぴらにラブラブいちゃいちゃしてたんじゃなかったのですか?」
「ラブラブもいちゃいちゃもない。あれからすぐ、アイリはサーカス団に入団してしまったからな」
「…………………はい?」
「君がそんな顔になるのも分かる。私もそうなった」
そんな顔ってどんなだ。まあ、それはいい。
「君に無体を強いられた時に、人間の限界を知りたくなったそうだ……なんてことをしてくれたんだ、君は!?」
じゃあ、十年以上に渡る世紀の恋もそこで終わり? ウケるんですけど!!
「……全部声に出ているぞ」
「ソーリー」
「なんでそんなムカつく言い方なんだ……。まあいい。そんな訳で、君には責任を取ってもらわないとね」
「え? 責任?」
「アイリも巻き戻っている」
「ってことは、記憶もある?」
「そうだ。このお茶会直前に離宮から出奔した。『この年齢からならスターも狙える! という訳でサーカス団に行きます』という置手紙を残してな」
「…………………」
なんてこった。
恐る恐る王子の顔を窺うと、物凄いジト目に迎えられた。
「……という訳で、君は婚約者のままだ。責任を取って義務を果たしてくれ」
「な……、」
なんだそりぁあああああ!?
アルバート王子「巻き戻ってからずっと切れている」
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