とんでもないモノを招いてしまった~聖女は召喚した世界で遊ぶ~

こもろう

文字の大きさ
2 / 21

2.二人の少女

しおりを挟む
「おやおや……二人だったから余計に魔力が喰われたのですね」

 魔法陣を見て絶句するアルトゥロの傍らで、ディマスが呑気なことを言う。
 アルトゥロは、素早くディマスに囁いた。

「おい、聖女が複数人という前例はあるのか?」

「五百年前の記録にありますね。聖女たちは手分けして浄化の旅に出たとか」

「そうか、ならば良い」

 そこでアルトゥロは、綺麗な笑顔を浮かべる。聖女懐柔用の表情だ。物腰も柔らかく、威圧感のないように注意する。

 強引に世界を渡らせられた聖女たちは、すっかり目を回しているようだ。二人ともぐったりと床に倒れている。
 不思議なことに、二人はそっくりな服を着ている。スカート丈などは違うが、色も材質も同じようだ。もしかしたら何らかの組織の制服かもしれない。
 二人とも髪が長かった。一人は栗色の髪を結わずに流し、もう一人は黒い髪を三つ編みにしている。
 アルトゥロが近づくと、もぞもぞと彼女らが動き出した。意識がしっかりしてきたのだろう。

「ようこそ、ストルト王国へ。私たちは貴女方を歓迎いたします。お体の具合はいかがですか?」

「え? なんか派手なイケメン? どうなってんの?」

 アルトゥロが話しかけると、栗色の髪の少女の方が顔を上げた。そしてアルトゥロの顔を見て目を見開いている。そしてみるみるうちに頬が赤くなっていく。計画通りで、アルトゥロは内心ほくそ笑む。
 こうして改めて顔を見てみれば、彼女は愛らしい顔立ちをしていることに気づいた。小さな顔に大きな瞳。鼻は低めだが、小ぶりで整っている。薄く化粧をしているようで、それがまたよく似合っている。
 これなら、誘惑するのもやぶさかではない。

「……どこですか、ここは?」

 もう一人の少女が体を起こした。こちらも美少女だろうかと期待しかけたアルトゥロは、自分の期待が裏切られたことを知った。
 分厚い前髪は長く、しかも大きめの眼鏡をかけているから目元はほとんど窺えない。そばかすが散った頬に、分厚い唇は口角が下がっていて陰気な表情だ。

――こっちは誘惑する気になれないな。

 アルトゥロは内心で舌打ちする。
 黒髪の少女の方も、栗色の髪の少女と違ってアルトゥロに見惚れることはなく、不機嫌かつ警戒感をあらわにして睨んでくる。

「貴方、誰です? なんで私たちがこんなところにいるんです?」

 少女にしては低い声で、アルトゥロを責めるように言う。
 眉をひそめたアルトゥロだったが、彼の不快感は栗色の髪の少女の言葉で解消された。

「そんな言い方しちゃダメよ、エリカちゃん。この人、私たちの味方よ。私には分かるわ」

「マリア、貴女はまた……」

 どうやら栗色の髪の少女はマリア、黒髪の少女はエリカというようだ。
 アルトゥロはマリアの方に笑顔を向けた。

「有難うございます、異世界から来られた美しい聖女様。ここは冷えますので、どうか部屋へおいで下さい」

「え、聖女様って!?」

「マリア、落ち着いて」

「落ち着いてるってば。歓迎してくれるって言ってるんだから信じてあげようよ」

「その歓迎ってのが怪しいんじゃない。無理矢理拉致られた可能性が高い。何よりいきなり聖女様呼ばわりっていうのが……」

 彼女たちは二人でコソコソ言い合っている。残念ながら丸聞こえだ。
 アルトゥロは苦笑し、少し身を引いた。あまり距離を詰め過ぎるとエリカという名の方にますます警戒されそうだ。不細工な癖に用心深いなんて生意気な奴だと、腹の中で罵る。
 そうしているうちに、少女たちの間も険悪になってきた。
 お互い早口で相手を批判しているようで、言葉が早すぎてアルトゥロの理解を超えてしまった。これはマズイと焦りかけたところで、エリカがマリアに強く言った。

「マリア、私は貴女に従わないよ」

「ええ、いいわエリカちゃん。私たちはわかり合えないね」

 マリアも眼差しを強くして、エリカに言い返す。いい加減、時間が掛かり過ぎだ。アルトゥロはやんわりと二人の間に入った。

「申し遅れました。私はアルトゥロ・マルフィクス・ストルトと申します。ここストルト王国の第二王子です。……ですが、私たちの事をいきなり信じられないのは当然です。でも、どうか話だけでも聞いて下さい」

「……私たちは帰して貰えるのでしょうか?」

 見えないはずのエリカの目が、鋭くアルトゥロを突き刺す。
 アルトゥロは思わず舌打ちしそうになったが、なんとか堪える。

「それも含めてお話させて頂きますね。お茶でも飲みながら」

「お茶? 嬉しい!」

 マリアが手を叩いて喜んだ。ではさっそく……というところで、ディマスが割り込んできた。

「お待ち下さい。ここで魔力検査だけはやってしまいましょう」

 浄化するには魔力がなければ話にならない。異世界から召喚した女に魔力がないとは聞いたことがないが、念の為にやっておくのはいいことだろう。

「ああ、そうだな。やってしまおう。お二人には、少しの間ご協力いただきたい。何も怖いことはありません。ただ、女神様に招かれた聖女様の証である魔力を確認させて欲しいので」

 アルトゥロは優しくマリアの手を取った。優しいけれど有無を言わさずに、ディマスと対面させる。
 その様子をエリカは見つめ、ボソリと呟いた。

「私たちは正反対ね」

 マリアがクスっと笑う。

「うん。真逆ぅ」

 ディマスがマリアの前に立った。





しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【読切短編】処刑前夜、地下牢に現れた王女は言った。「お前でなければ駄目なんだ」滅びの未来を覆す、騎士との契約

Lihito
ファンタジー
王国騎士団の副長ヴェルドは、無実の罪で投獄され、明日処刑される運命にあった。 腐敗した国に絶望し、静かに死を待つ夜。 地下牢に現れたのは、実権を持たない「傀儡」と噂されるイゾルデ王女。 彼女はヴェルドに仮死毒を渡し、こう告げた。 「死んで、私の影になれ」 彼女は知っていた。 この国が三年後に滅ぶこと。誰が裏切り者か。 そして——ヴェルドこそが、国を救うための唯一の「切り札」であることを。 これは、滅びの未来を知る孤独な王女と、一度死んで生まれ変わった騎士が、裏から国を救う「共犯」の物語。

リンダの入念な逃走計画

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
愛人の子であるリンダは、先妻が亡くなったことで母親が後妻に入り侯爵令嬢となった。  特に家族との確執もないが、幼い時に受けた心の傷はリンダの歩みを決めさせる。 「貴族なんて自分には無理!」  そんな彼女の周囲の様子は、護衛に聞いた噂とは違うことが次々に分かっていく。  真実を知った彼女は、やっぱり逃げだすのだろうか? (小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています)

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

【完結】勇者と国王は最悪。なので私が彼らを後悔させます。

凛 伊緒
ファンタジー
「お前はこのパーティーに相応しくない。今この場をもって、追放とする!それと、お前が持っている物は全て置いていってもらうぞ。」 「それは良いですわね、勇者様!」 勇者でありパーティーリーダーのゼイスに追放を宣言された。 隣にいる聖女メーシアも、大きく頷く。 毎日の暴行。 さらに報酬は平等に分けるはずが、いつも私だけかなり少なくされている。 最後の嫌味と言わんばかりに、今持っている物全てを奪われた。 今までの行いを、後悔させてあげる--

解雇されたけど実は優秀だったという、よくあるお話。

シグマ
ファンタジー
 突如、所属している冒険者パーティー[ゴバスト]を解雇されたサポーターのマルコ。しかし普通のサポート職以上の働きをしていたマルコが離脱した後のパーティーは凋落の一途を辿る。そしてその影響はギルドにまでおよび……  いわゆる追放物の短編作品です。  起承転結にまとめることを意識しましたが、上手く『ざまぁ』出来たか分かりません。どちらかと言えば、『覆水盆に返らず』の方がしっくりくるかも……  サクッと読んで頂ければ幸いです。 ※思っていた以上の方に読んで頂けたので、感謝を込めて当初の予定を越える文量で後日談を追記しました。ただ大団円で終わってますので、『ざまぁ』を求めている人は見ない方が良いかもしれません。

私ですか?

庭にハニワ
ファンタジー
うわ。 本当にやらかしたよ、あのボンクラ公子。 長年積み上げた婚約者の絆、なんてモノはひとっかけらもなかったようだ。 良く知らんけど。 この婚約、破棄するってコトは……貴族階級は騒ぎになるな。 それによって迷惑被るのは私なんだが。 あ、申し遅れました。 私、今婚約破棄された令嬢の影武者です。

誰もが我儘な私ではないお方が良かったようなので、悪役の私は残忍な猛将達に手酷く扱われに行きます。戻れ? 絶対に離れるなと脅されているのですが

迷路を跳ぶ狐
ファンタジー
 魔法もろくに使えない役立たずと言われ、婚約者にも彼の周りの人達にも馬鹿にされてきた私。ずっと耐えてきたつもりだったけど、誰もがこんな私よりも、もっと優秀な魔法使いがいたはずなのに、とため息をつく。  魔法によって栄え、王都にまでその名を知らしめた貴族の婚約者は、「なんでこんな役立たずが……」と私を蔑み、城の中で魔法使いたちを統率する偉大な魔法使いは、「こんな女がこの領地を任されるだなんて! なんて恐ろしく愚かなことだ!!」と嘆く。  貴族たちに囲まれ詰られて、婚約者には見放され、両親には罵声を浴びせられ、見せ物のように惨たらしく罰せられた。「なんでこんな役立たずがこの城に来たんだ……」そう落胆されながら。  魔法が苦手でここを出る手段はないけど……もうこんなところにいられるか!  そう決意した私に、私を虐げていた誰もが腹を立てる。激しくぶたれた私は、機嫌を損ねた残忍な竜たちに、枷をされて隣の領地まで連れて行かれることになった。  重労働を言いつけられ、魔物や魔獣、竜たちがうろつく森の城についてからは、暗く小さな部屋に放り込まれた。  たった一人で食事をして、何もない部屋から見窄らしい格好で窓の外を見上げる。  なんだこれ………… 「最高…………」  もう、私を踏み躙る奴らに好きに扱われることはないんだ! それだけで、何もかもが最高!!  金もなければ能力もまるでない! 魔法すらまともに使えない! だけど今は思いのままに身につけに行ける!! 何もないのでこれから欲しいもの全部、手に入れに行きます!  そんな風にして竜族の城に住むことになった私。気づいたらやけに皆さんとの距離が近い? 元婚約者も「戻って来い」なんてうるさいけど、知りません!! 私は忙しいので!

妹に命じられて辺境伯へ嫁いだら王都で魔王が復活しました(完)

みかん畑
恋愛
家族から才能がないと思われ、蔑まれていた姉が辺境で溺愛されたりするお話です。 2/21完結

処理中です...