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2.二人の少女
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「おやおや……二人だったから余計に魔力が喰われたのですね」
魔法陣を見て絶句するアルトゥロの傍らで、ディマスが呑気なことを言う。
アルトゥロは、素早くディマスに囁いた。
「おい、聖女が複数人という前例はあるのか?」
「五百年前の記録にありますね。聖女たちは手分けして浄化の旅に出たとか」
「そうか、ならば良い」
そこでアルトゥロは、綺麗な笑顔を浮かべる。聖女懐柔用の表情だ。物腰も柔らかく、威圧感のないように注意する。
強引に世界を渡らせられた聖女たちは、すっかり目を回しているようだ。二人ともぐったりと床に倒れている。
不思議なことに、二人はそっくりな服を着ている。スカート丈などは違うが、色も材質も同じようだ。もしかしたら何らかの組織の制服かもしれない。
二人とも髪が長かった。一人は栗色の髪を結わずに流し、もう一人は黒い髪を三つ編みにしている。
アルトゥロが近づくと、もぞもぞと彼女らが動き出した。意識がしっかりしてきたのだろう。
「ようこそ、ストルト王国へ。私たちは貴女方を歓迎いたします。お体の具合はいかがですか?」
「え? なんか派手なイケメン? どうなってんの?」
アルトゥロが話しかけると、栗色の髪の少女の方が顔を上げた。そしてアルトゥロの顔を見て目を見開いている。そしてみるみるうちに頬が赤くなっていく。計画通りで、アルトゥロは内心ほくそ笑む。
こうして改めて顔を見てみれば、彼女は愛らしい顔立ちをしていることに気づいた。小さな顔に大きな瞳。鼻は低めだが、小ぶりで整っている。薄く化粧をしているようで、それがまたよく似合っている。
これなら、誘惑するのもやぶさかではない。
「……どこですか、ここは?」
もう一人の少女が体を起こした。こちらも美少女だろうかと期待しかけたアルトゥロは、自分の期待が裏切られたことを知った。
分厚い前髪は長く、しかも大きめの眼鏡をかけているから目元はほとんど窺えない。そばかすが散った頬に、分厚い唇は口角が下がっていて陰気な表情だ。
――こっちは誘惑する気になれないな。
アルトゥロは内心で舌打ちする。
黒髪の少女の方も、栗色の髪の少女と違ってアルトゥロに見惚れることはなく、不機嫌かつ警戒感をあらわにして睨んでくる。
「貴方、誰です? なんで私たちがこんなところにいるんです?」
少女にしては低い声で、アルトゥロを責めるように言う。
眉をひそめたアルトゥロだったが、彼の不快感は栗色の髪の少女の言葉で解消された。
「そんな言い方しちゃダメよ、エリカちゃん。この人、私たちの味方よ。私には分かるわ」
「マリア、貴女はまた……」
どうやら栗色の髪の少女はマリア、黒髪の少女はエリカというようだ。
アルトゥロはマリアの方に笑顔を向けた。
「有難うございます、異世界から来られた美しい聖女様。ここは冷えますので、どうか部屋へおいで下さい」
「え、聖女様って!?」
「マリア、落ち着いて」
「落ち着いてるってば。歓迎してくれるって言ってるんだから信じてあげようよ」
「その歓迎ってのが怪しいんじゃない。無理矢理拉致られた可能性が高い。何よりいきなり聖女様呼ばわりっていうのが……」
彼女たちは二人でコソコソ言い合っている。残念ながら丸聞こえだ。
アルトゥロは苦笑し、少し身を引いた。あまり距離を詰め過ぎるとエリカという名の方にますます警戒されそうだ。不細工な癖に用心深いなんて生意気な奴だと、腹の中で罵る。
そうしているうちに、少女たちの間も険悪になってきた。
お互い早口で相手を批判しているようで、言葉が早すぎてアルトゥロの理解を超えてしまった。これはマズイと焦りかけたところで、エリカがマリアに強く言った。
「マリア、私は貴女に従わないよ」
「ええ、いいわエリカちゃん。私たちはわかり合えないね」
マリアも眼差しを強くして、エリカに言い返す。いい加減、時間が掛かり過ぎだ。アルトゥロはやんわりと二人の間に入った。
「申し遅れました。私はアルトゥロ・マルフィクス・ストルトと申します。ここストルト王国の第二王子です。……ですが、私たちの事をいきなり信じられないのは当然です。でも、どうか話だけでも聞いて下さい」
「……私たちは帰して貰えるのでしょうか?」
見えないはずのエリカの目が、鋭くアルトゥロを突き刺す。
アルトゥロは思わず舌打ちしそうになったが、なんとか堪える。
「それも含めてお話させて頂きますね。お茶でも飲みながら」
「お茶? 嬉しい!」
マリアが手を叩いて喜んだ。ではさっそく……というところで、ディマスが割り込んできた。
「お待ち下さい。ここで魔力検査だけはやってしまいましょう」
浄化するには魔力がなければ話にならない。異世界から召喚した女に魔力がないとは聞いたことがないが、念の為にやっておくのはいいことだろう。
「ああ、そうだな。やってしまおう。お二人には、少しの間ご協力いただきたい。何も怖いことはありません。ただ、女神様に招かれた聖女様の証である魔力を確認させて欲しいので」
アルトゥロは優しくマリアの手を取った。優しいけれど有無を言わさずに、ディマスと対面させる。
その様子をエリカは見つめ、ボソリと呟いた。
「私たちは正反対ね」
マリアがクスっと笑う。
「うん。真逆ぅ」
ディマスがマリアの前に立った。
魔法陣を見て絶句するアルトゥロの傍らで、ディマスが呑気なことを言う。
アルトゥロは、素早くディマスに囁いた。
「おい、聖女が複数人という前例はあるのか?」
「五百年前の記録にありますね。聖女たちは手分けして浄化の旅に出たとか」
「そうか、ならば良い」
そこでアルトゥロは、綺麗な笑顔を浮かべる。聖女懐柔用の表情だ。物腰も柔らかく、威圧感のないように注意する。
強引に世界を渡らせられた聖女たちは、すっかり目を回しているようだ。二人ともぐったりと床に倒れている。
不思議なことに、二人はそっくりな服を着ている。スカート丈などは違うが、色も材質も同じようだ。もしかしたら何らかの組織の制服かもしれない。
二人とも髪が長かった。一人は栗色の髪を結わずに流し、もう一人は黒い髪を三つ編みにしている。
アルトゥロが近づくと、もぞもぞと彼女らが動き出した。意識がしっかりしてきたのだろう。
「ようこそ、ストルト王国へ。私たちは貴女方を歓迎いたします。お体の具合はいかがですか?」
「え? なんか派手なイケメン? どうなってんの?」
アルトゥロが話しかけると、栗色の髪の少女の方が顔を上げた。そしてアルトゥロの顔を見て目を見開いている。そしてみるみるうちに頬が赤くなっていく。計画通りで、アルトゥロは内心ほくそ笑む。
こうして改めて顔を見てみれば、彼女は愛らしい顔立ちをしていることに気づいた。小さな顔に大きな瞳。鼻は低めだが、小ぶりで整っている。薄く化粧をしているようで、それがまたよく似合っている。
これなら、誘惑するのもやぶさかではない。
「……どこですか、ここは?」
もう一人の少女が体を起こした。こちらも美少女だろうかと期待しかけたアルトゥロは、自分の期待が裏切られたことを知った。
分厚い前髪は長く、しかも大きめの眼鏡をかけているから目元はほとんど窺えない。そばかすが散った頬に、分厚い唇は口角が下がっていて陰気な表情だ。
――こっちは誘惑する気になれないな。
アルトゥロは内心で舌打ちする。
黒髪の少女の方も、栗色の髪の少女と違ってアルトゥロに見惚れることはなく、不機嫌かつ警戒感をあらわにして睨んでくる。
「貴方、誰です? なんで私たちがこんなところにいるんです?」
少女にしては低い声で、アルトゥロを責めるように言う。
眉をひそめたアルトゥロだったが、彼の不快感は栗色の髪の少女の言葉で解消された。
「そんな言い方しちゃダメよ、エリカちゃん。この人、私たちの味方よ。私には分かるわ」
「マリア、貴女はまた……」
どうやら栗色の髪の少女はマリア、黒髪の少女はエリカというようだ。
アルトゥロはマリアの方に笑顔を向けた。
「有難うございます、異世界から来られた美しい聖女様。ここは冷えますので、どうか部屋へおいで下さい」
「え、聖女様って!?」
「マリア、落ち着いて」
「落ち着いてるってば。歓迎してくれるって言ってるんだから信じてあげようよ」
「その歓迎ってのが怪しいんじゃない。無理矢理拉致られた可能性が高い。何よりいきなり聖女様呼ばわりっていうのが……」
彼女たちは二人でコソコソ言い合っている。残念ながら丸聞こえだ。
アルトゥロは苦笑し、少し身を引いた。あまり距離を詰め過ぎるとエリカという名の方にますます警戒されそうだ。不細工な癖に用心深いなんて生意気な奴だと、腹の中で罵る。
そうしているうちに、少女たちの間も険悪になってきた。
お互い早口で相手を批判しているようで、言葉が早すぎてアルトゥロの理解を超えてしまった。これはマズイと焦りかけたところで、エリカがマリアに強く言った。
「マリア、私は貴女に従わないよ」
「ええ、いいわエリカちゃん。私たちはわかり合えないね」
マリアも眼差しを強くして、エリカに言い返す。いい加減、時間が掛かり過ぎだ。アルトゥロはやんわりと二人の間に入った。
「申し遅れました。私はアルトゥロ・マルフィクス・ストルトと申します。ここストルト王国の第二王子です。……ですが、私たちの事をいきなり信じられないのは当然です。でも、どうか話だけでも聞いて下さい」
「……私たちは帰して貰えるのでしょうか?」
見えないはずのエリカの目が、鋭くアルトゥロを突き刺す。
アルトゥロは思わず舌打ちしそうになったが、なんとか堪える。
「それも含めてお話させて頂きますね。お茶でも飲みながら」
「お茶? 嬉しい!」
マリアが手を叩いて喜んだ。ではさっそく……というところで、ディマスが割り込んできた。
「お待ち下さい。ここで魔力検査だけはやってしまいましょう」
浄化するには魔力がなければ話にならない。異世界から召喚した女に魔力がないとは聞いたことがないが、念の為にやっておくのはいいことだろう。
「ああ、そうだな。やってしまおう。お二人には、少しの間ご協力いただきたい。何も怖いことはありません。ただ、女神様に招かれた聖女様の証である魔力を確認させて欲しいので」
アルトゥロは優しくマリアの手を取った。優しいけれど有無を言わさずに、ディマスと対面させる。
その様子をエリカは見つめ、ボソリと呟いた。
「私たちは正反対ね」
マリアがクスっと笑う。
「うん。真逆ぅ」
ディマスがマリアの前に立った。
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