とんでもないモノを招いてしまった~聖女は召喚した世界で遊ぶ~

こもろう

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12.天使な神官様と麗しの騎士様

「ここにいれば安心ですよ、聖女様」

 ルカ神官は金髪の巻毛も眩しい、天使を絵に描いたような美しい青年だ。線が細くておっとりとした垂れ目の中性的な顔立ちだから、青年というより少年に見える。
 菫色の瞳をキラキラさせてマリアを見つめる姿はとても無邪気そうだが、こう見えて神殿内でもかなりの権力者なのだ。無邪気なはずはない。
 けれどマリアには、彼の腹の中がどうなっていようと関係ない。自分に優しい人かどうかだけが重要だ。

 王宮の侍女たちによって毒を盛られたマリアは、次の日にはこの神殿に保護されていた。
 ルカ神官が乗り込んできて、聖女の身の安全が確保出来ていないと猛抗議したからだ。

「女神を奉る神殿を飛び越えて聖女様を手に入れて離さない王家には、元々不信感しかありませんでした。それでも聖女様が望むのならばと涙を呑んで控えていたというのに、この体たらく……! 王家に抗議する資格などありません!」

「ルカ様ぁ……有難う! 私、とっても怖かった……!」

 それまでべったりとクルスに張り付いていたマリアは、すかさずルカの手を取った。
 聖女に逃げられた形になったクルスは真っ青な顔になっていたから、彼にはそっと「クルス様もお守りしてくださいますよね?」と囁いておいた。とたんに胸を張るクルスはとてもチョロいとマリアは思った。

 ちなみにアルトゥロは、毒を盛ったという侍女たちの処分やその後片付けに奔走している。侍女とは言っても、使用人ではなく行儀見習いにきた貴族の令嬢たちだ。当然その背後には家がいるし、関わった侍女の数も多い。気軽に全員の首をはねることもできずにアルトゥロのストレスは溜まりっぱなしである。

 そんなこんなで、マリアは神殿の一室で悠々自適の毎日を送ることになった。
 神殿とはいっても王宮にあるそれではない。ルカはその日のうちにマリアを王宮の外の大神殿に移してしまったのだ。

「我々は女神様とそのみ使いであられる聖女様を決してないがしろにしませんし、害する者など絶対におりませんのでご安心ください」

 目にも鮮やかな瑞々しい果実やお菓子が山盛りになったお盆を自ら運んできて、ルカはマリアに微笑みかけた。
 大神殿は王宮ほど広くはないが、豪奢なところは負けていない。
 座り心地のいいソファに腰を下ろし、マリアは葡萄に似た果物を味わう。そんなマリアを、ルカは天使の微笑みで眺めている。

「うふふ、美味しいっ。ようやく人心地ついたわ。有難う!」

「聖女様にそう言っていただけるのが、何よりの喜びです」

「でも……ルカ様もぉ、私が聖女として浄化? をするのを望んでいるんでしょう?」

 おずおずと上目遣いで窺うと、ルカはきっぱりと首を横に振った。

「浄化を急いでいるのは、王家の都合ですよ。国王が悪政を布くと、邪神が活性化するのです。それが《瘴気》の正体。ですから、国王たちが善政を布けばいいのです。聖女様に自分たちの徳のなさの尻拭いをさせてはならないのです」

「うわ~良かった……!」

 思わずマリアはガッツポーズしてしまった。ルカがキョトンとしているのに気づいて、慌てて手を下ろす。

「だ、だって、魔力がなくなってしまったから、役立たずだと思われるのかなって、怖くなって……」

 ルカがマリアの手を握ってきた。

「そんなお辛い目に合ってきたのですね、聖女様……。ここには聖女様に何かを強いる者はいません。聖女様はここで心ゆくまでおくつろぎ下さい」

「うん、有難う!」




 その頃、クルスがマリアを探し回っていた。王宮の神殿にマリアがいるのかと思ったら、別な場所に移ったという。

「くっ……聖女様は一体どこに……!?」

 クルスの端整な顔には苦悩の色が濃い。
 こんなことなら神官が王宮に来た時、有無を言わさずに追い返すべきだった。彼らにとって聖女は女神の代理人。手放すことはしないだろう。

「私を頼ってくださった聖女様……。貴女の信頼を裏切って申し訳ございません。どうかもう一度、お側に控えさせてください。貴女の幸せを邪魔する奴は、全て私が排除しましょう……!」

 出会った時から、聖女はクルスを全面的に信頼してくれていた。何かあればすぐにクルスを呼び、クルスが護衛に入れば、嬉しそうに笑ってくれた。
 右も左も分からない世界に放り出されてもなお、健気に振る舞っていた聖女様。毒を盛られてすらも、怯えても恨むことはなかった彼女。その体に触れた時、その小ささと華奢さに驚いた。なんてか弱い乙女か。
 そんな彼女を守れるのは自分のみなのだと、ルカの手を取ったはずの聖女がクルスに声を掛けてきた時に確信した。
 アルトゥロ王子ではない。このクルスだ、と。

「もう、失わない……この剣にかけて……」

 次第に狂おしい眼差しになりながら、クルスは腰の愛剣に触れた。


 しかしマリアの方は、そんなクルスのことなどすっかり忘れてルカと仲を深めるのだった。







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