学園は悪役令嬢に乗っ取られた!

こもろう

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5:アレクシスは道化師に乗っ取られている!

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「ユーフェミアめ。ここ数か月姿を見せないと思ったら、ちまちまとこんな悪趣味なアスレチックを作っていたのか」

 王子アレクシスは軽やかに仕掛けを避けながら舌打ちする。
 破棄した元婚約者のユーフェミアは土魔術、それも石を使う魔術に長けていた。幼い頃はユーフェミアを怒らせると、よく小石が飛んできたものだ。

 思えば、その頃から気に喰わなかった。
 他の者にアレクシス王子は出来がいいと褒めそやされれば、王位継承権一位なのだから当たり前だと鼻で笑われる。伸び悩んでいれば、優秀なブレーンをつければいいとあしらわれる。大した美貌ではないのだから、せめて笑っていればいいのにいつも怒って説教ばかりしてくる。特にここ最近は目の下に隈をつくって、ずっとブツブツ呟いているという奇行が見られたから、気味が悪くてますます近寄らなくなった。

 フローラは違う。アレクシス様はいつも頑張ってらっしゃると、温かく微笑んでくれる。誰よりも努力してらっしゃると認めてくれる。
 たまには休んだ方がいい。楽しみも必要だと手を引いてくれる。だってアレクシス様は優秀なのだから、少しくらい休んだって罰は当たらない、と。
 今までは高慢な貴族の女たちに囲まれてうんざりしていたが、女性も悪くないのだと教えてくれた。

 気づけば、隣にフローラがいることが当たり前になっていた。むしろフローラでなくてはならないと。
 ユーフェミアに虐められたと泣いていても、自分がいたらないからだと庇うフローラを、アレクシスは絶対に守るのだと心に誓う。

「きっとフローラも一人だ。早く行ってあげないと」

 自分は大丈夫だと涙をこらえるフローラを思うと、気がせく。アレクシスは一気にアスレチックを攻略していった。

『アハハハ、お見事オミゴトぉぉ!』

 プールを越えた先は石の壁。それに腹を立てて火の爆裂魔術で、その壁を破壊してやる。
 その先は、小さな教室だった。
 そして、アレクシスの魔術を見て手を叩いていたのが、教卓の上にちょこんと座っていた猫のぬいぐるみだった。
 なんの統一感もない布でつぎはぎされたぬいぐるみは、はっきり言って醜悪な姿をしていた。それがケタケタと笑っているものだから、アレクシスの眉根が寄ってしまうのも無理はない。

「ユーフェミアか? いや、あいつは石のゴーレムしか操れないはずだ……」

 いぶかしむアレクシスを後目に、ぬいぐるみは教卓の上でくるくる回って踊りだす。

『ハーイ! ここから第二ラウンドだよ! 今度はクイズ形式だ!』

 ジャジャン! と口で言いながら、ぬいぐるみはスケッチブックを取り出してめくる。書いてあるものを読み上げるようだ。

『第一問! これは簡単だ! 今の生徒会の顧問教師はだぁれだ?』

「ワーナー先生だ」

 つまらん問題だ。アレクシスはフンと鼻を鳴らして答える。
 しかし、ぬいぐるみはブッブー! と耳障りな声を上げる。

『残念っ! ワーナー先生ハ、前任者だよ。現在はスローン先生ダ!』

「馬鹿な!? 今年度はワーナー先生だぞ!」

『ワーナー先生は先月、腰を悪くされて休職サレタんだよっ。そんでモッテ、スローン先生に交代したのサ!』

 ククク……とぬいぐるみは肩を震わせる。

『おっかシーいなぁ? 生徒会の仕事をちゃーんとしてイレバ、こんな問題ナンテ間違えないヨ、ね?』

 アレクシスは瞠目した。

「フン……、少し前のことだったから、間違えただけだ。スローン先生だってこと、私だって知っている」

『あ、ごっめーン。スローン先生じゃナクて、ソローン先生ダッタ!』

「…………発音の間違えだろう。誤差の範囲内だ」

『ソレ、ご本人の前で言っちゃダメだよー? さすがに失礼ダヨ?』

「うるさいっ」

 アレクシスが腕を一振りした。火球魔術が発動し、ぬいぐるみを一瞬で燃やし尽くす。

『キャハハハ! アレクシスは乱暴だナ!!』

 しかしすぐに猫のぬいぐるみは復活する。つぎはぎの色が先ほどの物とは違うので、新しい物に替えただけのようだ。

『こんナ乱暴者ダケド優秀で、先日のテストでハ元婚約者さんと同点一位だっタ君に、次の問題ダよ!』

 ぬいぐるみはフワリと飛び、黒板に近づいた。そしてチョークで数学の問題を十問、一気に書き上げる。

『今度ハ! ペーパーテストだヨ!』

「随分と馬鹿にしてくれるな。定期テストの形式ではないか」

 アレクシスはフンと鼻を鳴らし、次々と解いていく。最後の問題は未学習のものだったが、応用で乗り切る。

『おおー、やルねぇー。さすが学年同点一位ィ』

「……いちいち同点と言うな」

『さア、どんどん行っくよォー』

 数学はまだ続くようだ。難易度はどんどん上がっていき、アレクシスはギリギリと歯噛みしながら解いていく。
 とうとうひねくれた応用問題ばかりになった。
 そこでアレクシスの手が止まる。

『あっレー? どうしタのかナー?』

 ぬいぐるみがフヨフヨとアレクシスのそばに寄ってきた。その頭をアレクシスは鷲掴んだ。

「貴様、何が狙いだ? このような難易度のおかしい問題をわざと突き付けて、私に恥をかかせようとしたいのか?」

 頭をほとんどアレクシスに潰されながらも、ぬいぐるみはキシシシと笑い声を上げる。

『恥? まア、あル意味そうかナ? この問題自体ハ、出来ても出来なくテモ良かったンダけど』

「ならば、茶番はそろそろ終わりだ。さもないとこの教室ごと吹き飛ばすことになる」

『えエー? こワーい! 乱暴ハだめヨー?』

 王子様失格だよ? と憎たらしいことを言いながら、ぬいぐるみは己の腹の中にズボっと手を突っ込む。綿の中から、一枚の紙が出てきた。

『じゃじゃーン! 見てみテー?』

「こ、これは……」

 次第にアレクシスの顔が青ざめていく。紙から黒板へと視線を移せば、顔色はさらに悪くなっていく。

『さスガに見覚えだけハあるみたいダネ? そうデース! 先々月に行わレタ定期テストだヨー!』

 力が緩んだ隙に、ぬいぐるみはアレクシスの手から逃れ、彼の顔に己の顔を近づけていく。

『……コレ、完全に黒板の問題と同じだよネ? 全く同じ問題を出しテみたんだヨ?』

 クククと低く笑うぬいぐるみ。アレクシスは大量の汗をかきはじめた。

「あ、ああ、そうだったな……。い、忙しかったから、内容も忘れていた……」

『そうナのー? 確か、王子様の数学の点数ハ――満点だっタよネ? どうシテ初めてこの問題を見ましたーなんて顔ができルの?』

 少なくとも、見覚えくらいはあるよね? 普通にテストを解いていれば。
 ぬいぐるみは笑い続ける。

『そうそう! そういえバ、数学の先生って……ワーナー先生だっタね? 生徒会顧問デ、役員たちともトテモ親交が厚い』

 そうだった! と、ポンと手を叩くぬいぐるみは、さらに身をアレクシスに寄せていく。

『忘れテタよ。ワーナー先生の休職理由ハ、何かの不正に関わっテいる疑惑がアルので、自宅で待機するようにっていう学園からの命令だっタよ。腰がイタイのは表向きの理由ダネ!』

「も、もしかして……」

『何かガすり替わっテいるのハ、もうばれているヨー! それって何ダろうネー?』

 アレクシスは膝から崩れ落ちた。



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