9 / 9
二章
絶対王者
しおりを挟む
ユリたちは森の中を進んでいた。ゴブリンキングはなかなか見つけられなく、たまに洞窟を見つけても小さな動物たちが隠れ家にしていただけだった。それでも、森の奥の方に進むと自然は豊かになりそれに伴い、魔獣や魔物も強くなっていた。最近は鹿型の魔獣や猪型の魔獣、さらには人型の幽霊みたいな魔物とも戦った。流石に物理攻撃が効かないのはアステリも落ち込んでいた。
ユリ「アステリ、もう元気出して?」
アステリ「はい……僕、魔法が使えるようになりたいです」
ユリ「獣人は魔力持ってるよね?魔法使えないの?」
アステリ「はい、身体強化には使えるのですが、魔法を使う獣人は聞いたことがありません。キールも本来はそうだったのですが、ユリ様と従魔契約を結んだことで魔法が使えるようになったのかと思います」
ユリ「そうなんだ。でも私はアステリが魔法使わなくてもとても強いの知ってるし、私たちが魔法を剣に付与することだってできるじゃない?それとも、もう私とは連携技したくない?」
アステリ「いいえ!ユリ様と一緒に戦うのは心強いですし、何よりとても楽しいです。僕、やっぱり魔法使えなくてもいいかもしれません」
アステリが焦りながらそう言うので頭を撫でてキールの帰りを待った。キールは今とても成長していて、一人で小型の魔獣を狩ることにハマっている。しかも信じられない成長をしてくれた。それは……
??『ただいま帰りました!』
ユリ「キール、おかえり!今日はどんな魔獣を狩ってきたの?」
キール『ふふん、実は小鹿を見つけたのでがぶりと噛んで仕留めました!』
ユリ「え!親はいなかった?大丈夫なの?怪我は?」
キール『主、我はもう子どもじゃないのですよ?』
ユリ「ごめんね、いつまでもキールは私にとっては可愛いわんちゃんだから」
そう言ってキールを撫でる。キールの成長、それは念話で会話ができるようになったことだった。鹿型の魔獣を倒した翌日、キールが話しかけてきて私たち三人はとても大喜びした。もともとアステリは狼と犬のハーフだったからかキールの言いたいことは分かっていたようだったが、会話できた事により連携が取りやすくなり、とても喜んでいた。私はワンワン鳴いてるキールも好きだったのでたまに、念話を切ってキールの鳴き声を楽しんでいる。だけど、それをするとキールが悲しむのでアステリと会話している時にこっそりとすることしかできないけど。
アステリ「キール、今度は僕とも行ってくれよ」
キール『うむ、アステリがいてくれれば少し大きめの魔獣も倒せるやもしれん。だが筋トレはいいのか?』
アステリ「寝る前にするつもりだから大丈夫だよ」
キール『なら明日から頼んでもよいか?』
アステリ「ああ!今のうちに明日の行動を相談しておこうか!」
そう言って二人だけの世界に入ってしまった。キールとアステリはとても仲が良い。たまに羨ましくなるくらいに。2人の会議が終わるまでにキールの狩ってきてくれた小鹿を下処理をしてマジックバックの中に入れておく。この鞄の中にはたくさんの下処理済みの魔獣が入っている。いつか食べれる時を夢見て。そうこうしているうちに二人の会議が終わったので、今度は三人で明日の行動を話し合う。
ユリ「はい、では次に明日の行動を話し合おうね。ノースグリーンから旅出て半月程経ったからそろそろゴブリンキングに会いたいね。もう少し奥に進むか、諦めて次の街に向かうかどっちがいい?次の街に向かう途中にゴブリンキングがいる可能性もあるし、いつか討伐依頼が出てきた時に受ければいいけどどうしたい?」
アステリ「僕はもう少し奥に進みたいです。危険が伴うのは分かってるのですが、僕たちの力がどれだけ強いのか確かめてみたいんです」
キール『我も奥に進んでみたいです。この旅の間にたくさん成長できましたし、連携もスムーズにできるようになりました。主が我たちを心配しているのは分かりますが、強くなったところを見てほしいのもあります』
アステリ「あ!そういえば冒険者ギルドの月一の依頼は大丈夫なんですか?冒険者登録が剥奪されませんか?」
ユリ「あー!それなら大丈夫だよ。ギルドマスターがCランクにしてくれたから。こんなに強い冒険者をEランクに留めておけないって強制的にCにしてくれたよ。おかげで長旅ができるからマスターには感謝してるけどね」
アステリ「そうだったんですね、ならもう少し奥に進んでもよろしいですか?」
ユリ「うん、そうしようか。でもこれからはもっと魔物たちがもっと強くなると思う。だから約束をしておこう。一つ目は自分の身を一番に考えること。二つ目は絶対に危険な行動をしないこと。自己犠牲はあまり好きじゃないから……」
アステリ「はい、分かりました。ですが、僕たちにとってユリ様しかいないのは分かっていてほしいです」
ユリ「うん、そうだね。私も今までよりも警戒して動くことにするね。ありがとう」
キールが頭を撫でてほしそうに擦り寄ってくる。ご要望通りに頭を撫でる。こういう所が可愛いわんちゃんのままなんだよなぁ。微笑ましくなってすっかり大きくなったキールと一緒に寝転ぶ。アステリもそっと横に寝転ぶ。あっと思い出し起き上がる。
ユリ「そういえば、ノースグリーンの商人さんたちに貰った魔法石。これをアステリが持っててほしいの」
アステリ「絶対にだめです。これはユリ様が持つべきです」
ユリ「私とキールが怪我しそうになったらアステリが庇うでしょう?そのおかげで私たちに余裕ができて、魔法を放ったりできるけど、その逆でアステリは常に怪我が隣にいるの。今までは対処できる魔物だったから良かったけど、動きも力もアステリが勝てなかったらアステリは為す術なく倒されると思うの。だからこれを持っててほしい。私たちにもキールはかけがえのない仲間だって事を覚えていてね」
キール『我らは強くなったのだ。アステリが身代わりになる必要のないくらいに。だが、心配なのであろう?だから止めはせぬ。せめて我らの気持ちだけは受け取ってくれ』
アステリ「二人とも……ありがとうございます。僕はこんなにも二人に愛されてるなんて知りませんでした。僕も二人のことが大切で大好きです。なのでこれからも守っていきたいです。ユリ様、魔法石を有難くいただきます。この魔法石を使うことがないように精進しますね」
ユリ「ありがとう。二人とも大人っぽくなっちゃったね。初めて会った時の可愛い姿が嘘みたい」
そう言ってキールのお腹を撫でて寂しさをかき消した。気を取り直してご飯を食べる。毎日お肉ばかりで飽きてしまった。お米が食べたい。アステリたちはお米を知らないらしいのでいつか稲を見つけたいなあ。
そう考えて眠りにつく準備をした。二人とも不安だったのか一緒に寝たいと言い出したので快く了承した。キールの毛がもふもふで暖かくアステリが抱きしめてくれる安心感ですぐに眠ることができた。
次の日。目が覚めるとアステリたちが身体を動かしていた。最近はユリも体力を付けようと走りこみからしていた。だいぶ体力が付いてきて敵の攻撃を避けながら魔法の準備をするのも出来るようになってきてだいぶ強くなっていた。魔法も色んなものが使えるようになったが、最上級の魔法は強すぎてアステリたちにも被害が出そうで使ったことはなかった。一通り体を動かし終わり早速森の奥に進む。太陽の光が遮られて少し薄暗かった。光魔法でライトを唱えて進む。色んな魔獣の唸り声や遠吠えなどが聞こえる。アステリたちを見ると緊張しているようだった。
アステリ「ユリ様!すごい速さでこちらに向かってくる数匹の足音が聞こえます!恐らく狼型の魔獣かと!」
ユリ「分かった!二人とも戦闘態勢に入って。ボスは私が戦うからあとは頼んでも大丈夫?」
キール『うむ!』
アステリ「はい!」
狼型の魔獣の姿が見える。ウィンドカッターで先制攻撃を仕掛けるがなんなく避けられてしまう。一際大きい狼が飛びかかってくる。それを避け水の塊をぶつける。ただの水だと思ったのか避けもせずにぶつかってまたユリに突進してくる。狼がふらつく。実はこの水には毒を含ませていた。少しだけ体がピリつく程のものだったがそれだけで充分だった。狼がふらついた瞬間地魔法で拳を作り思いっきり上に殴る。空中に吹き飛ばされた狼のとどめを刺すためウィンドカッターの威力を強くして放った。狼はそのまま息絶えた。アステリたちの方向を見るとアステリたちも丁度終わったところだった。反省会をしようと呼ぼうとした時だった。
アステリ「ユリ様!後ろ!!」
ユリ「え?」
アステリがユリを押した。何が起こったのか分からなかった。アステリが地面に倒れている。頭から血を流して。
ユリ「ぎゃああああああああ」
ユリの父親と重なるアステリを見て殺意が湧く。ユリを殴った正体を見るとゴブリンキングだった。キールが何かを言っていたが今のユリには届かなかった。
ユリ「絶対に殺す!!キール!」
キール『はっ!』
ユリ「アステリを安全なところに連れて行って治療して!」
キール『主は?!』
ユリ「早くして、貴方たちがいる方が邪魔になるから」
キール『はっ!治療が終わり次第お知らせ致します!』
キールがアステリを抱えてこの場を離れる。ゴブリンキングはユリたちを観察しているようだった。ユリを見てニヤニヤしているのを見る限り最低なことを考えているのが透けていた。ユリはすぐに終わらせることにした。
ユリ「ウォータートルネード」
ゴブリンキングを水の竜巻の中に閉じ込める。ユリは魔力の半分程を注ぎ込み最後の魔法を使う。
ユリ「サンダー!!」
竜巻が消える。ゴブリンキングは為す術もなく消し炭になっていた。ゴブリンキングの最後を確認していた時、後ろの草むらからガサゴソと音が聞こえた。
ユリ「ゴブリンキングの仲間?王様と同じ目にあいたくなければ早く出てきなさい」
ゆっくりと姿を現す。それは真っ赤な子犬サイズの蜘蛛だった。キーキーと鳴いている蜘蛛は何を伝えたかったのか分からなかったが敵意が無いのは分かった。
ユリ「分かった。見逃してあげるからさっさと逃げなよ」
ゴブリンキングを倒したことにより、殺意は消えアステリの心配が出てきた。アステリの元に向かいたいため、今は蜘蛛の相手をしている暇はなかった。
キール『主!アステリの魔法石を使いアステリの治療を終えました。先程威力の高い雷を確認したのですが、主の魔法ということでよろしいでしょうか?』
ユリ「キール!うん、こっちはもう終わったよ。それよりもこっちに戻ってこれる?今私の方は動けなくて、出来れば戻ってきてほしいんだ」
キール『はっ!少々お待ちください!』
数分待つとキールが眠っているアステリを背負ってゆっくりとやってきた。
キール『お待たせいたしました。主?その蜘蛛は?』
ユリ「うーん、そうなの。この子がキールたちのところに行かせてくれなくてね。キールはこの子の言ってること分かる?」
キール『すみません、我にも分かりません』
ユリ「そっかぁ。蜘蛛さんどうしたの?」
赤い蜘蛛はどこかに連れて行きたがっていた。
ユリ「ちょっと待ってね。アステリの様子を見てからでもいい?」
蜘蛛は諦めたのかユリのそばで大人しくなった。
ユリ「魔法石くれた商人さんにお礼言わなきゃね。あとアステリが起きたらお説教も」
キール『程々にしてやってください』
ユリ「でも、自己犠牲は好きじゃないって言ったのに。アステリが私のせいでいなくなるとか耐えられないよ……」
キール『主……』
そして、ユリたちはその場で一泊する事にした。ご飯を準備しているとアステリが起きてきた。
アステリ「ユリ……様…大丈夫でしたか……?」
ユリ「アステリ!本当に無事で良かった。助けてくれてありがとう。でも!今度からは私の身代わりとか絶対にしないでね?」
アステリ「魔法石使ってしまったんですね。せっかくユリ様が僕に託してくれたのに」
ユリ「アステリ?聞いてる?」
アステリ「………」
アステリが聞こえないふりをする。きっと体が反射で動いてしまったのだろう。これ以上アステリを説得するのは無理なのだ。
ユリ「……アステリ。私たちの事……好き…?」
アステリ「もちろんです!ユリ様……?」
ユリ「ならっ……!私たちに恐怖を与えないで。私が生きていけてるのはアステリたちのおかげなの忘れないで……」
アステリ「……はっ!申し訳ございません!!ユリ様、泣かないでください…僕、一生懸命強くなります。誰にも負けないくらい。もうユリ様を泣かせたりしません。だから僕を捨てないで、、」
ユリ「捨てるなんて思ったことないよ。アステリが
強くなって心配することがなくなったら私はアステリを頼れる。だけど、今はまだそうじゃないでしょ?だから今は自分を優先してね……?」
アステリ「……はい、申し訳ございませんでした…」
ユリの気持ちがどれだけ伝わったか分からない。それでもアステリは悔しそうにしていたからきっとこれからどんどん強くなっていくのだろう。そう思うと少し安心できた。気が緩んだのを悟ったのかアステリが質問を始める。
アステリ「そういえば、僕を襲ったあいつはどうなさったのですか?」
ユリ「んー?倒したよ」
キール『主は凄かったのだぞ!アステリが倒れたせいで見れなかったのは可哀想だな!』
アステリ「キール、お前ずるいぞ!」
キール『ふんっ、これに懲りたら無茶なことはしない事だな』
キールも少し怒っていたのか、アステリに意地悪をする。キールの頭を撫でて気持ちを落ち着かせてあげた。
アステリ「どんな様子だったのか聞いてもよろしいですか?」
ユリ「うーん、すぐに終わっちゃったからあんまり参考にならないよ?」
アステリ「それでも大丈夫です!ぜひ!」
ユリ「まずは、ゴブリンキングを水の竜巻に閉じ込めて、その後雷をぶつけただけだよ」
キール『かなり離れたところにいた我にも見えた。かなりの大きさで少し地面が揺れたほどだった。あれは相当魔力が込められていたんだと思う』
アステリ「やはり、ユリ様はかなりの規格外でお強いですよね?」
ユリ「そんなことないよ。接近戦だとゴブリンにも勝てないと思うし。今回のはたまたま運が良かっただけだよ。ゴブリンキングの気が私以外にも向いてたからね」
アステリ「そうだったのですか??」
ユリ「うん、多分この子かなあ」
ユリが赤い蜘蛛を撫でる。相変わらずキーキーと鳴くが意図が全く伝わってこない。それでもどこかに連れて行きたがってるのは分かった。明日はこの子の後を着いていくつもりだった。
アステリ「初めて見る魔物ですね」
ユリ「そうなの?赤くて綺麗だから怖くないね」
キール『クゥーン』
キールが嫉妬して鳴き声を出す。可愛すぎるキールに飛びついてずっとお腹をわしゃわしゃしてあげた。
ユリ「あ、明日はこの子の後に着いていくからアステリはキールの上に乗ってね。まだ歩けるほど回復してないでしょ」
アステリ「はい、分かりました。なら明日は索敵をしておきます。キール、今日は狩りに行けなくてすまない。明日も迷惑をかける。これからは気を付けるから許してくれるか?」
キール『主がかなり叱っていたからな。許してやろう。だが次回はないと覚えておくのだ。もう口を聞いてあげないぞ?』
アステリ「はははっ、ああ、ありがとう」
二人が仲直りをしたところでご飯を食べる。赤い蜘蛛にはキールが狩ってくれていた魔獣の肉を与えてみる。美味しそうにバクバク食べていて安心した。そしてそのまま寝ることにした。赤い蜘蛛がユリの寝袋に入ってきた。少しひんやりしていて気持ちがよくすぐに眠ることができた。
目が覚めるとアステリとキールは話し合いをしていた。挨拶をして朝ご飯を準備する。アステリはまだ本調子じゃないため多めにご飯を作った。沢山食べているアステリを見て満足した。
ユリ「ご飯を食べたあとはいつも走ってたけど今日はこの子の方を優先しよっか。昨日の様子を見る感じ焦ってたみたいだから」
アステリ「はい、分かりました」
ユリ「じゃあ、案内してくれる?」
赤い蜘蛛はユリの言いたいことがわかったのかすぐに歩き出した。しばらく歩いた場所にはゴブリンの集落があった。キーキーと鳴く蜘蛛の言いたいことは分からなかったが倒してほしそうにしていたため、キールと共に片付けに向かう。
ユリ「キール、今日はアステリいないけど怖くない?怯えて動けなくならないでね」
キール『我も一人で戦えます!しかと見ていてください!』
ユリ「うん!でも、ゴブリンメイジもいるみたいだからそっちは私に任せてね。騎士や槍兵の部隊をお願い」
キール『はっ!』
作戦会議をして戦いに行く。アステリは悔しそうにしていたが自業自得だったので何も言わないでおく。キールが先に飛び立す。ゴブリン側はちゃんと連携が取れていてチクチクと攻撃を仕掛ける。だがキールの動きは早く確実に敵を減らしていった。次にユリが走り出す。ユリはまず弓兵を仕留める。地魔法で小さい石を作り思いっきり弓兵へと飛ばす。風魔法で速さをあげて頭を一匹一匹潰していった。順調に倒していたら火の球がユリに迫ってくる。メイジが攻撃を始めたのだ。メイジにもぶつけようとしたが魔法で弾き返される。ならどちらが押し負けるのかの勝負だった。アイシクルを連発させて実験をしてみる。二つ同時に他種類の魔法が出せるか試みる。結果は、ダメだった。どう頑張っても違う種類の魔法は同時には出せなかった。だが、少しの時間差を縮める事は出来た。その結果メイジが押され始める。焦ったメイジは後ろに気が付かなかった。
ユリ「キール!アイシクルを出して!」
キール『はっ!』
他の部隊の片付けが終わったキールが魔法の準備をしてくれていたのだ。キールがアイシクルをメイジに向かって放つ。そのアイシクルにユリは雷を合わせる。メイジは弾き返せずに当たった。
ユリ「キール!他の魔法考えてたのに咄嗟にアイシクルにしてくれてありがとう!凄く強くなってたしとってもかっこよかったね!」
キール『いえ!我など主に比べればまだまだです!それにこやつも手伝ってくれました』
キールの後ろを見ると赤い蜘蛛がいた。
ユリ「そうなの?キールと一緒に戦ってくれてありがとうね。この子は強かった?」
キール『はい。糸で相手の動きを止め、相手からの攻撃は柔軟な糸で受け止め躱す。それに動きも素早く我に着いてくるほどでした。かなり助かりました』
ユリ「糸の強度を変えて戦うんだね。キールってすごく速いんだよ?もしかして君は上位の魔物なの?」
赤い蜘蛛がじっとユリを見つめる。分からない。やはり何を考えてるのかが分からなかった。
ユリ「それで、私たちをここに連れてきたかったのはどうして?」
赤い蜘蛛は思い出したように歩き出す。ゴブリンたちが寝床にしていた簡易テントのようなものの中に入っていく。すぐに着いて入ってみる。ユリは絶句した。赤い蜘蛛よりも数倍大きな黒い蜘蛛のようなものが足をもがれ頭を潰されて死んでいた。そばに飾ってあった足の先には赤い蜘蛛と同じサイズの黒い蜘蛛たちが突き刺さっていた。赤い蜘蛛はキーキーと鳴くがその蜘蛛たちは誰も反応しなかった。みんな死んでいるのが分かっているが頭が理解したくないようだった。ユリは赤い蜘蛛を抱きしめる。
ユリ「どうして、こんなに酷いことができるの。君はあの時ゴブリンキングから逃げてきたのね。ごめんね。もっと早くここに辿り着いてたら、こんな酷いことは起きなかったかもしれないのに」
キール『いいえ、主のせいではありませぬ。恐らくこれは縄張り争いに負けたのでしょう。これは他の魔物に見せびらかして近寄らせないようにするために用意していたのだと思います。ですがこれは自然の摂理なのです。魔物は弱肉強食で弱いものが負ける。主が救えぬ者がいても仕方ないのです。どうか、自分を責めるのはやめてください』
ユリ「それでも私は頼られたら助けてあげたい。この子は私をどこかに連れて行こうとしてた。でも私は私を優先したの」
キール『いいえ、それは違います。こやつはあの後すんなりと諦めました。恐らくこの結果が分かっていたのでしょう。ですが悲しまないわけではありませぬ。なので今は主を責めるのはやめて、こやつを慰めることにしませぬか?』
ユリ「そうだね。君の方が悔しくて悲しいはずだもんね。私もっと強くなるね。みんなを助けられるように」
赤い蜘蛛が一滴、涙を流した。魔物は涙を流さないと思っていたため驚いた。そのあと死んでしまった蜘蛛たちを埋めてあげてお墓を立ててあげた。
ユリ「君はこれからどうする?ここで墓守りする?」
キーキーと鳴いてユリの裾を噛む。
キール『恐らく連れて行ってほしいのでは?』
ユリ「そうなの?私は仲間が増えるのは嬉しいよ。アステリたちはどう?」
アステリ「僕も嬉しいです。ですが、僕のことも忘れずに撫でてくださいね?」
ユリ「え!?私より大きい人を撫でるのは抵抗あるよ」
アステリ「ちゃんと撫でやすいようにしますので、お願いします!」
ユリ「うーん、分かった。強い魔物に勝った時とかのご褒美ね?」
アステリ「はい!ありがとうございます!」
キール『我も問題ありませぬ。こやつは強くて一緒に戦うのも楽しかったです。色んな連携も考えれそうですし賛成です』
ユリ「キールは戦闘狂みたいだね……まあいいか。赤い蜘蛛さん、私たちの仲間になってくれる?」
赤い蜘蛛が少し飛んだ。軽いからできることなのだろう。可愛い。気を引き締めて名前を考えることにした。
ユリ「うーん、赤い蜘蛛って凄く珍しいよね?」
アステリ「はい。聞いたことがないですし、突然変異なのかもしれませんね。」
ユリ「へー、そういうこともあるんだね。シュアは?」
アステリ「可愛らしい名前ですね」
ユリ「この子にピッタリだよ。とても可愛いし。もしかしてこの子男の子かな?」
アステリ「性別はないと思います。親の魔物は分かったのですが、生涯に一度だけ卵を産む魔物でした。出産直後の弱っている所をゴブリンキングに狙われたのでしょう」
ユリ「そうなんだね」
赤い蜘蛛は名前を気に入ってくれたようでユリの周りをくるくると回っていた。
ユリ「シュア、これからよろしくね。私はユリって名前で、こっちの大きい狼がキール。それでこっちのかっこいい獣人がアステリだよ」
アステリ「シュア、これからよろしくな」
キール『よろしく頼む』
シュア「キー!」
微笑ましい。種族が違っても仲良くできることが証明された瞬間だった。
ユリ「それじゃあ、今日は一日ここで休んでそろそろ次の街、ルートアに行こっか」
三人がそれぞれ返事をして、沢山ご飯を食べて眠りについた。
ユリ「アステリ、もう元気出して?」
アステリ「はい……僕、魔法が使えるようになりたいです」
ユリ「獣人は魔力持ってるよね?魔法使えないの?」
アステリ「はい、身体強化には使えるのですが、魔法を使う獣人は聞いたことがありません。キールも本来はそうだったのですが、ユリ様と従魔契約を結んだことで魔法が使えるようになったのかと思います」
ユリ「そうなんだ。でも私はアステリが魔法使わなくてもとても強いの知ってるし、私たちが魔法を剣に付与することだってできるじゃない?それとも、もう私とは連携技したくない?」
アステリ「いいえ!ユリ様と一緒に戦うのは心強いですし、何よりとても楽しいです。僕、やっぱり魔法使えなくてもいいかもしれません」
アステリが焦りながらそう言うので頭を撫でてキールの帰りを待った。キールは今とても成長していて、一人で小型の魔獣を狩ることにハマっている。しかも信じられない成長をしてくれた。それは……
??『ただいま帰りました!』
ユリ「キール、おかえり!今日はどんな魔獣を狩ってきたの?」
キール『ふふん、実は小鹿を見つけたのでがぶりと噛んで仕留めました!』
ユリ「え!親はいなかった?大丈夫なの?怪我は?」
キール『主、我はもう子どもじゃないのですよ?』
ユリ「ごめんね、いつまでもキールは私にとっては可愛いわんちゃんだから」
そう言ってキールを撫でる。キールの成長、それは念話で会話ができるようになったことだった。鹿型の魔獣を倒した翌日、キールが話しかけてきて私たち三人はとても大喜びした。もともとアステリは狼と犬のハーフだったからかキールの言いたいことは分かっていたようだったが、会話できた事により連携が取りやすくなり、とても喜んでいた。私はワンワン鳴いてるキールも好きだったのでたまに、念話を切ってキールの鳴き声を楽しんでいる。だけど、それをするとキールが悲しむのでアステリと会話している時にこっそりとすることしかできないけど。
アステリ「キール、今度は僕とも行ってくれよ」
キール『うむ、アステリがいてくれれば少し大きめの魔獣も倒せるやもしれん。だが筋トレはいいのか?』
アステリ「寝る前にするつもりだから大丈夫だよ」
キール『なら明日から頼んでもよいか?』
アステリ「ああ!今のうちに明日の行動を相談しておこうか!」
そう言って二人だけの世界に入ってしまった。キールとアステリはとても仲が良い。たまに羨ましくなるくらいに。2人の会議が終わるまでにキールの狩ってきてくれた小鹿を下処理をしてマジックバックの中に入れておく。この鞄の中にはたくさんの下処理済みの魔獣が入っている。いつか食べれる時を夢見て。そうこうしているうちに二人の会議が終わったので、今度は三人で明日の行動を話し合う。
ユリ「はい、では次に明日の行動を話し合おうね。ノースグリーンから旅出て半月程経ったからそろそろゴブリンキングに会いたいね。もう少し奥に進むか、諦めて次の街に向かうかどっちがいい?次の街に向かう途中にゴブリンキングがいる可能性もあるし、いつか討伐依頼が出てきた時に受ければいいけどどうしたい?」
アステリ「僕はもう少し奥に進みたいです。危険が伴うのは分かってるのですが、僕たちの力がどれだけ強いのか確かめてみたいんです」
キール『我も奥に進んでみたいです。この旅の間にたくさん成長できましたし、連携もスムーズにできるようになりました。主が我たちを心配しているのは分かりますが、強くなったところを見てほしいのもあります』
アステリ「あ!そういえば冒険者ギルドの月一の依頼は大丈夫なんですか?冒険者登録が剥奪されませんか?」
ユリ「あー!それなら大丈夫だよ。ギルドマスターがCランクにしてくれたから。こんなに強い冒険者をEランクに留めておけないって強制的にCにしてくれたよ。おかげで長旅ができるからマスターには感謝してるけどね」
アステリ「そうだったんですね、ならもう少し奥に進んでもよろしいですか?」
ユリ「うん、そうしようか。でもこれからはもっと魔物たちがもっと強くなると思う。だから約束をしておこう。一つ目は自分の身を一番に考えること。二つ目は絶対に危険な行動をしないこと。自己犠牲はあまり好きじゃないから……」
アステリ「はい、分かりました。ですが、僕たちにとってユリ様しかいないのは分かっていてほしいです」
ユリ「うん、そうだね。私も今までよりも警戒して動くことにするね。ありがとう」
キールが頭を撫でてほしそうに擦り寄ってくる。ご要望通りに頭を撫でる。こういう所が可愛いわんちゃんのままなんだよなぁ。微笑ましくなってすっかり大きくなったキールと一緒に寝転ぶ。アステリもそっと横に寝転ぶ。あっと思い出し起き上がる。
ユリ「そういえば、ノースグリーンの商人さんたちに貰った魔法石。これをアステリが持っててほしいの」
アステリ「絶対にだめです。これはユリ様が持つべきです」
ユリ「私とキールが怪我しそうになったらアステリが庇うでしょう?そのおかげで私たちに余裕ができて、魔法を放ったりできるけど、その逆でアステリは常に怪我が隣にいるの。今までは対処できる魔物だったから良かったけど、動きも力もアステリが勝てなかったらアステリは為す術なく倒されると思うの。だからこれを持っててほしい。私たちにもキールはかけがえのない仲間だって事を覚えていてね」
キール『我らは強くなったのだ。アステリが身代わりになる必要のないくらいに。だが、心配なのであろう?だから止めはせぬ。せめて我らの気持ちだけは受け取ってくれ』
アステリ「二人とも……ありがとうございます。僕はこんなにも二人に愛されてるなんて知りませんでした。僕も二人のことが大切で大好きです。なのでこれからも守っていきたいです。ユリ様、魔法石を有難くいただきます。この魔法石を使うことがないように精進しますね」
ユリ「ありがとう。二人とも大人っぽくなっちゃったね。初めて会った時の可愛い姿が嘘みたい」
そう言ってキールのお腹を撫でて寂しさをかき消した。気を取り直してご飯を食べる。毎日お肉ばかりで飽きてしまった。お米が食べたい。アステリたちはお米を知らないらしいのでいつか稲を見つけたいなあ。
そう考えて眠りにつく準備をした。二人とも不安だったのか一緒に寝たいと言い出したので快く了承した。キールの毛がもふもふで暖かくアステリが抱きしめてくれる安心感ですぐに眠ることができた。
次の日。目が覚めるとアステリたちが身体を動かしていた。最近はユリも体力を付けようと走りこみからしていた。だいぶ体力が付いてきて敵の攻撃を避けながら魔法の準備をするのも出来るようになってきてだいぶ強くなっていた。魔法も色んなものが使えるようになったが、最上級の魔法は強すぎてアステリたちにも被害が出そうで使ったことはなかった。一通り体を動かし終わり早速森の奥に進む。太陽の光が遮られて少し薄暗かった。光魔法でライトを唱えて進む。色んな魔獣の唸り声や遠吠えなどが聞こえる。アステリたちを見ると緊張しているようだった。
アステリ「ユリ様!すごい速さでこちらに向かってくる数匹の足音が聞こえます!恐らく狼型の魔獣かと!」
ユリ「分かった!二人とも戦闘態勢に入って。ボスは私が戦うからあとは頼んでも大丈夫?」
キール『うむ!』
アステリ「はい!」
狼型の魔獣の姿が見える。ウィンドカッターで先制攻撃を仕掛けるがなんなく避けられてしまう。一際大きい狼が飛びかかってくる。それを避け水の塊をぶつける。ただの水だと思ったのか避けもせずにぶつかってまたユリに突進してくる。狼がふらつく。実はこの水には毒を含ませていた。少しだけ体がピリつく程のものだったがそれだけで充分だった。狼がふらついた瞬間地魔法で拳を作り思いっきり上に殴る。空中に吹き飛ばされた狼のとどめを刺すためウィンドカッターの威力を強くして放った。狼はそのまま息絶えた。アステリたちの方向を見るとアステリたちも丁度終わったところだった。反省会をしようと呼ぼうとした時だった。
アステリ「ユリ様!後ろ!!」
ユリ「え?」
アステリがユリを押した。何が起こったのか分からなかった。アステリが地面に倒れている。頭から血を流して。
ユリ「ぎゃああああああああ」
ユリの父親と重なるアステリを見て殺意が湧く。ユリを殴った正体を見るとゴブリンキングだった。キールが何かを言っていたが今のユリには届かなかった。
ユリ「絶対に殺す!!キール!」
キール『はっ!』
ユリ「アステリを安全なところに連れて行って治療して!」
キール『主は?!』
ユリ「早くして、貴方たちがいる方が邪魔になるから」
キール『はっ!治療が終わり次第お知らせ致します!』
キールがアステリを抱えてこの場を離れる。ゴブリンキングはユリたちを観察しているようだった。ユリを見てニヤニヤしているのを見る限り最低なことを考えているのが透けていた。ユリはすぐに終わらせることにした。
ユリ「ウォータートルネード」
ゴブリンキングを水の竜巻の中に閉じ込める。ユリは魔力の半分程を注ぎ込み最後の魔法を使う。
ユリ「サンダー!!」
竜巻が消える。ゴブリンキングは為す術もなく消し炭になっていた。ゴブリンキングの最後を確認していた時、後ろの草むらからガサゴソと音が聞こえた。
ユリ「ゴブリンキングの仲間?王様と同じ目にあいたくなければ早く出てきなさい」
ゆっくりと姿を現す。それは真っ赤な子犬サイズの蜘蛛だった。キーキーと鳴いている蜘蛛は何を伝えたかったのか分からなかったが敵意が無いのは分かった。
ユリ「分かった。見逃してあげるからさっさと逃げなよ」
ゴブリンキングを倒したことにより、殺意は消えアステリの心配が出てきた。アステリの元に向かいたいため、今は蜘蛛の相手をしている暇はなかった。
キール『主!アステリの魔法石を使いアステリの治療を終えました。先程威力の高い雷を確認したのですが、主の魔法ということでよろしいでしょうか?』
ユリ「キール!うん、こっちはもう終わったよ。それよりもこっちに戻ってこれる?今私の方は動けなくて、出来れば戻ってきてほしいんだ」
キール『はっ!少々お待ちください!』
数分待つとキールが眠っているアステリを背負ってゆっくりとやってきた。
キール『お待たせいたしました。主?その蜘蛛は?』
ユリ「うーん、そうなの。この子がキールたちのところに行かせてくれなくてね。キールはこの子の言ってること分かる?」
キール『すみません、我にも分かりません』
ユリ「そっかぁ。蜘蛛さんどうしたの?」
赤い蜘蛛はどこかに連れて行きたがっていた。
ユリ「ちょっと待ってね。アステリの様子を見てからでもいい?」
蜘蛛は諦めたのかユリのそばで大人しくなった。
ユリ「魔法石くれた商人さんにお礼言わなきゃね。あとアステリが起きたらお説教も」
キール『程々にしてやってください』
ユリ「でも、自己犠牲は好きじゃないって言ったのに。アステリが私のせいでいなくなるとか耐えられないよ……」
キール『主……』
そして、ユリたちはその場で一泊する事にした。ご飯を準備しているとアステリが起きてきた。
アステリ「ユリ……様…大丈夫でしたか……?」
ユリ「アステリ!本当に無事で良かった。助けてくれてありがとう。でも!今度からは私の身代わりとか絶対にしないでね?」
アステリ「魔法石使ってしまったんですね。せっかくユリ様が僕に託してくれたのに」
ユリ「アステリ?聞いてる?」
アステリ「………」
アステリが聞こえないふりをする。きっと体が反射で動いてしまったのだろう。これ以上アステリを説得するのは無理なのだ。
ユリ「……アステリ。私たちの事……好き…?」
アステリ「もちろんです!ユリ様……?」
ユリ「ならっ……!私たちに恐怖を与えないで。私が生きていけてるのはアステリたちのおかげなの忘れないで……」
アステリ「……はっ!申し訳ございません!!ユリ様、泣かないでください…僕、一生懸命強くなります。誰にも負けないくらい。もうユリ様を泣かせたりしません。だから僕を捨てないで、、」
ユリ「捨てるなんて思ったことないよ。アステリが
強くなって心配することがなくなったら私はアステリを頼れる。だけど、今はまだそうじゃないでしょ?だから今は自分を優先してね……?」
アステリ「……はい、申し訳ございませんでした…」
ユリの気持ちがどれだけ伝わったか分からない。それでもアステリは悔しそうにしていたからきっとこれからどんどん強くなっていくのだろう。そう思うと少し安心できた。気が緩んだのを悟ったのかアステリが質問を始める。
アステリ「そういえば、僕を襲ったあいつはどうなさったのですか?」
ユリ「んー?倒したよ」
キール『主は凄かったのだぞ!アステリが倒れたせいで見れなかったのは可哀想だな!』
アステリ「キール、お前ずるいぞ!」
キール『ふんっ、これに懲りたら無茶なことはしない事だな』
キールも少し怒っていたのか、アステリに意地悪をする。キールの頭を撫でて気持ちを落ち着かせてあげた。
アステリ「どんな様子だったのか聞いてもよろしいですか?」
ユリ「うーん、すぐに終わっちゃったからあんまり参考にならないよ?」
アステリ「それでも大丈夫です!ぜひ!」
ユリ「まずは、ゴブリンキングを水の竜巻に閉じ込めて、その後雷をぶつけただけだよ」
キール『かなり離れたところにいた我にも見えた。かなりの大きさで少し地面が揺れたほどだった。あれは相当魔力が込められていたんだと思う』
アステリ「やはり、ユリ様はかなりの規格外でお強いですよね?」
ユリ「そんなことないよ。接近戦だとゴブリンにも勝てないと思うし。今回のはたまたま運が良かっただけだよ。ゴブリンキングの気が私以外にも向いてたからね」
アステリ「そうだったのですか??」
ユリ「うん、多分この子かなあ」
ユリが赤い蜘蛛を撫でる。相変わらずキーキーと鳴くが意図が全く伝わってこない。それでもどこかに連れて行きたがってるのは分かった。明日はこの子の後を着いていくつもりだった。
アステリ「初めて見る魔物ですね」
ユリ「そうなの?赤くて綺麗だから怖くないね」
キール『クゥーン』
キールが嫉妬して鳴き声を出す。可愛すぎるキールに飛びついてずっとお腹をわしゃわしゃしてあげた。
ユリ「あ、明日はこの子の後に着いていくからアステリはキールの上に乗ってね。まだ歩けるほど回復してないでしょ」
アステリ「はい、分かりました。なら明日は索敵をしておきます。キール、今日は狩りに行けなくてすまない。明日も迷惑をかける。これからは気を付けるから許してくれるか?」
キール『主がかなり叱っていたからな。許してやろう。だが次回はないと覚えておくのだ。もう口を聞いてあげないぞ?』
アステリ「はははっ、ああ、ありがとう」
二人が仲直りをしたところでご飯を食べる。赤い蜘蛛にはキールが狩ってくれていた魔獣の肉を与えてみる。美味しそうにバクバク食べていて安心した。そしてそのまま寝ることにした。赤い蜘蛛がユリの寝袋に入ってきた。少しひんやりしていて気持ちがよくすぐに眠ることができた。
目が覚めるとアステリとキールは話し合いをしていた。挨拶をして朝ご飯を準備する。アステリはまだ本調子じゃないため多めにご飯を作った。沢山食べているアステリを見て満足した。
ユリ「ご飯を食べたあとはいつも走ってたけど今日はこの子の方を優先しよっか。昨日の様子を見る感じ焦ってたみたいだから」
アステリ「はい、分かりました」
ユリ「じゃあ、案内してくれる?」
赤い蜘蛛はユリの言いたいことがわかったのかすぐに歩き出した。しばらく歩いた場所にはゴブリンの集落があった。キーキーと鳴く蜘蛛の言いたいことは分からなかったが倒してほしそうにしていたため、キールと共に片付けに向かう。
ユリ「キール、今日はアステリいないけど怖くない?怯えて動けなくならないでね」
キール『我も一人で戦えます!しかと見ていてください!』
ユリ「うん!でも、ゴブリンメイジもいるみたいだからそっちは私に任せてね。騎士や槍兵の部隊をお願い」
キール『はっ!』
作戦会議をして戦いに行く。アステリは悔しそうにしていたが自業自得だったので何も言わないでおく。キールが先に飛び立す。ゴブリン側はちゃんと連携が取れていてチクチクと攻撃を仕掛ける。だがキールの動きは早く確実に敵を減らしていった。次にユリが走り出す。ユリはまず弓兵を仕留める。地魔法で小さい石を作り思いっきり弓兵へと飛ばす。風魔法で速さをあげて頭を一匹一匹潰していった。順調に倒していたら火の球がユリに迫ってくる。メイジが攻撃を始めたのだ。メイジにもぶつけようとしたが魔法で弾き返される。ならどちらが押し負けるのかの勝負だった。アイシクルを連発させて実験をしてみる。二つ同時に他種類の魔法が出せるか試みる。結果は、ダメだった。どう頑張っても違う種類の魔法は同時には出せなかった。だが、少しの時間差を縮める事は出来た。その結果メイジが押され始める。焦ったメイジは後ろに気が付かなかった。
ユリ「キール!アイシクルを出して!」
キール『はっ!』
他の部隊の片付けが終わったキールが魔法の準備をしてくれていたのだ。キールがアイシクルをメイジに向かって放つ。そのアイシクルにユリは雷を合わせる。メイジは弾き返せずに当たった。
ユリ「キール!他の魔法考えてたのに咄嗟にアイシクルにしてくれてありがとう!凄く強くなってたしとってもかっこよかったね!」
キール『いえ!我など主に比べればまだまだです!それにこやつも手伝ってくれました』
キールの後ろを見ると赤い蜘蛛がいた。
ユリ「そうなの?キールと一緒に戦ってくれてありがとうね。この子は強かった?」
キール『はい。糸で相手の動きを止め、相手からの攻撃は柔軟な糸で受け止め躱す。それに動きも素早く我に着いてくるほどでした。かなり助かりました』
ユリ「糸の強度を変えて戦うんだね。キールってすごく速いんだよ?もしかして君は上位の魔物なの?」
赤い蜘蛛がじっとユリを見つめる。分からない。やはり何を考えてるのかが分からなかった。
ユリ「それで、私たちをここに連れてきたかったのはどうして?」
赤い蜘蛛は思い出したように歩き出す。ゴブリンたちが寝床にしていた簡易テントのようなものの中に入っていく。すぐに着いて入ってみる。ユリは絶句した。赤い蜘蛛よりも数倍大きな黒い蜘蛛のようなものが足をもがれ頭を潰されて死んでいた。そばに飾ってあった足の先には赤い蜘蛛と同じサイズの黒い蜘蛛たちが突き刺さっていた。赤い蜘蛛はキーキーと鳴くがその蜘蛛たちは誰も反応しなかった。みんな死んでいるのが分かっているが頭が理解したくないようだった。ユリは赤い蜘蛛を抱きしめる。
ユリ「どうして、こんなに酷いことができるの。君はあの時ゴブリンキングから逃げてきたのね。ごめんね。もっと早くここに辿り着いてたら、こんな酷いことは起きなかったかもしれないのに」
キール『いいえ、主のせいではありませぬ。恐らくこれは縄張り争いに負けたのでしょう。これは他の魔物に見せびらかして近寄らせないようにするために用意していたのだと思います。ですがこれは自然の摂理なのです。魔物は弱肉強食で弱いものが負ける。主が救えぬ者がいても仕方ないのです。どうか、自分を責めるのはやめてください』
ユリ「それでも私は頼られたら助けてあげたい。この子は私をどこかに連れて行こうとしてた。でも私は私を優先したの」
キール『いいえ、それは違います。こやつはあの後すんなりと諦めました。恐らくこの結果が分かっていたのでしょう。ですが悲しまないわけではありませぬ。なので今は主を責めるのはやめて、こやつを慰めることにしませぬか?』
ユリ「そうだね。君の方が悔しくて悲しいはずだもんね。私もっと強くなるね。みんなを助けられるように」
赤い蜘蛛が一滴、涙を流した。魔物は涙を流さないと思っていたため驚いた。そのあと死んでしまった蜘蛛たちを埋めてあげてお墓を立ててあげた。
ユリ「君はこれからどうする?ここで墓守りする?」
キーキーと鳴いてユリの裾を噛む。
キール『恐らく連れて行ってほしいのでは?』
ユリ「そうなの?私は仲間が増えるのは嬉しいよ。アステリたちはどう?」
アステリ「僕も嬉しいです。ですが、僕のことも忘れずに撫でてくださいね?」
ユリ「え!?私より大きい人を撫でるのは抵抗あるよ」
アステリ「ちゃんと撫でやすいようにしますので、お願いします!」
ユリ「うーん、分かった。強い魔物に勝った時とかのご褒美ね?」
アステリ「はい!ありがとうございます!」
キール『我も問題ありませぬ。こやつは強くて一緒に戦うのも楽しかったです。色んな連携も考えれそうですし賛成です』
ユリ「キールは戦闘狂みたいだね……まあいいか。赤い蜘蛛さん、私たちの仲間になってくれる?」
赤い蜘蛛が少し飛んだ。軽いからできることなのだろう。可愛い。気を引き締めて名前を考えることにした。
ユリ「うーん、赤い蜘蛛って凄く珍しいよね?」
アステリ「はい。聞いたことがないですし、突然変異なのかもしれませんね。」
ユリ「へー、そういうこともあるんだね。シュアは?」
アステリ「可愛らしい名前ですね」
ユリ「この子にピッタリだよ。とても可愛いし。もしかしてこの子男の子かな?」
アステリ「性別はないと思います。親の魔物は分かったのですが、生涯に一度だけ卵を産む魔物でした。出産直後の弱っている所をゴブリンキングに狙われたのでしょう」
ユリ「そうなんだね」
赤い蜘蛛は名前を気に入ってくれたようでユリの周りをくるくると回っていた。
ユリ「シュア、これからよろしくね。私はユリって名前で、こっちの大きい狼がキール。それでこっちのかっこいい獣人がアステリだよ」
アステリ「シュア、これからよろしくな」
キール『よろしく頼む』
シュア「キー!」
微笑ましい。種族が違っても仲良くできることが証明された瞬間だった。
ユリ「それじゃあ、今日は一日ここで休んでそろそろ次の街、ルートアに行こっか」
三人がそれぞれ返事をして、沢山ご飯を食べて眠りについた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる