侘助。

ラムネ

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P.32

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「水持って来ようか? あ、煙草吸う?」
「んー……水がいい……っつーか煙草やめる……」
「え」
「ミナトに副流煙吸わせるのヤだし……」

 ─────……何という事でしょう。
 俺の『押してダメなら引いてみな作戦~しおらしさを添えて~』は想像以上に効いているらしい。ふっ……ふふふふふ……このチョロさが堪らんほど愛おしい。

「何だその泣き笑いみたいな顔」
「うん……ホントにここに居させてくれるんだって思って……」
「302号室空けて入居者募集するかー」
「…………」
「うちは部屋余ってるし……ミナト?」

 マジで泣けてくるわ。この人はどこまでお人好しなんだ。俺みたいな腹黒い人間をこんなにあっさり信じるなんて感動すら覚えるわ。
 ヨシヨシと頭を撫でてくれる手を取って指にキスすると、アラタはほっぺたや髪にまたいっぱいちゅっちゅちゅっちゅしてくる。

 もう─────完全に落ちて来てくれた。
 だがそれでも、俺は手を緩める気はない。これも爪の先ほどだって持ち合わせていないのだ。

 今夜アラタが寝入った頃合いでスマホに監視用アプリをインストールする。これさえ潜ませておけばメッセージも会話も位置情報も全て把握する事が可能だ。
 固定された盗聴器など足元にも及ばないと(世情に疎い)俺は今日の昼休み、食堂で小耳に挟んで初めて知った訳だが、スマホが爆発的に普及した数年前からこの手のアプリは存在していたらしい。

 こんな有益な情報を得られたのはアラタが弁当を持たせてくれなかったお陰とも言える。
 ここしばらく手作り弁当持ちだった俺が食堂を利用したら、先輩や上司の皆さんから『彼女と喧嘩したのか』『嫁さん体調悪いのか』と絡まれて鬱陶しかったけどチャラになった。目の前で盗聴器を外す演出もかなり効果的だったようだし……ふふふ。

「そう言えばミナトお前、ケルベ□スとか俺のスマホに仕込むなよ」
「…………」


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