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30 王都でお買い物③
しおりを挟むいい宿がないか探していると、住民が何やら騒いでいる。
近くの男性に聞いてみると、どうやら貴族の息子に小さい女の子がぶつかったらしくて、揉めているらしい。
「おい! 貴様、この私にぶつかるとは何事だ!」
「ご、ごめんなさい。わざとじゃないんです」
あー、よくあるわがままな貴族の息子ね。
前世の漫画でもよくあるシチュエーションだけど本当に嫌いなんだよね。
なんで貴族の子供だからって自分が偉いって勘違いしているんだろう。
お前が何か住民のために名誉でも残したのかよ。
偉いのは、お前の直系尊属だと思うぞ。
「貴様のせいで、私の服が汚れたではないか! どうしてくれるんだ」
そう言いながら、土下座している子供の頭を蹴った。
「いたっ……。ごめんなさい! 許してください!」
もう見てられないよ。助けてあげよう。
そう思って、私が前に出ようとすると、1人の青年が子供の前に立った。
「な、なんだ貴様は」
「この子もわざとやったわけじゃないんだから、許してやってくれないか。さすがに暴力まで振るっておいて、権力を振り立てるのも良くないと思うが」
「うるさいぞ、貴様! 私はミスリアド侯爵家の次期当主だぞ! お前みたいなやつ俺の手ですぐに消すことだってできるんだぞ!」
「なるほど、君のその発言は、ミスリアド侯爵家の考え方ということだね。こんな公衆の面前でそんな発言をするなんて、ミスリアド侯爵家に泥を塗っているのは自覚しているのかな」
おぉ、言うね! あの青年には好感が持てるよ!
あのバカ息子の顔も青くなっているよ。よくやった。
「くそっ、覚えてろよ!」
護衛の騎士に耳打ちされた後、取り乱したバカ息子は負け惜しみの捨て台詞を言って去っていった。
あんなセリフ言うのは漫画だけの世界だと思っていたけど、実際に聞くと面白いね。
「あの人は最近有名な冒険者だな」
私の隣にいた男性が気になることを呟いた。
「え、そうなんですか?」
私もつい聞いてしまった。そんな有名な冒険者なら情報は得ておきたいよね。何よりいい人そうだし。
「あぁ、3ヶ月前に冒険者登録をしたばかりなのに、史上最速でSランクまで上り詰めた冒険者だよ」
え、本当に! それはすごすぎるだろ。どうやってSランクになるのかは分からないけど、相当すごいんだよね。しかもいい人そうだし、仲良くしても損はないよね。
「そうだったんですね。情報ありがとうございます」
そんな会話をしていると、Sランク冒険者は蹴られた女の子の介抱をしていた。
「大丈夫かい?」
「はい……。助けてくれてありがとうございます」
「お家に1人で帰れる?」
「はい、大丈夫です」
私がそんな姿をみていると、そのSランク冒険者が私の方に向かってきた。え、私何かしたかな。
「君も助けに入ろうとしていたけど、俺が先に入っちゃってごめんね」
なんだ、そんなことか。私が助けようとしていたことに気がついていたのか。さすがSランク冒険者だ。
「い、いえ! 私が助けに行っていたら、もっと大変なことになっていたかもしれないのでありがとうございます」
「はは、そうか。俺は冒険者のケータだ。一応ランクはSだ」
「私は、Bランク冒険者のヒナタです」
「ならいつか、冒険者ギルドで会うかもしれないな。その時はよろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
そう言うと、ケータは去っていった。いい人だったな。強いだけでなく人間性も良いなんてなかなかいないよ。
あ、そうだ。どこかのバカ息子のせいで宿のことを忘れていた。急がないと!
この好青年であるケータとの出会いが、この先残酷な結末を迎えるとは、この時のヒナタには想像もしていなかったのであった───。
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