神様のミスで女に転生したようです

結城はる

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31 ケータという男

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 佐伯圭太さえきけいたは日本で暮らす42歳のサラリーマンだ。
 妻も娘もいて、幸せな家庭を築けていると思っていた。

 結婚して13年目の頃、娘の体調が悪く病院に連れて行ってやると、詳細に診断するため血液検査をすることになった。
 その際に、血液型を確認して俺は驚愕した。
 俺と妻の血液型はO型だ。
 それなのに娘の血液型はA型だった。
 何かの間違いかと思い、妻に隠れてDNA鑑定も行ってみた。
 結果は、不一致。
 全てに絶望した。
 今まで愛してきた娘は本当は俺の子じゃなかった……。
 現実を受け止めることができず、しばらくの間、無気力となってしまった。
 妻が心配して寄り添ってくれるが、もはや妻が信用できない。

 そんな日が2ヶ月程度続いて、ついに俺が妻に対して暴力を振るってしまった。
 やってしまったことを後悔したが、妻は俺のことを10年以上も騙し続けていたのだ。
 それに比べたら、これくらいの暴力なんか気にならなかった。
 その日を境に俺は頻繁に妻に暴力を振るっていた。
 妻も娘も家を出て行き、しばらく経つと、俺の家に弁護士が来た。

 内容は、夫からのDVによる離婚、慰謝料及び養育費の請求だった。
 弁護士には妻が不倫をしていて、娘は本当の子供じゃないことを伝えたが、DVの証拠映像も妻が撮っていたらしく、俺の言い分は全く通らなかった。
 このままだと訴えて裁判をすることになると言われ、引き下がってしまった。
 DVは事実だし、そんなことをすれば会社にも居場所がなくなる。最悪の場合、懲戒解雇だ。
 保身のために和解をした。
 離婚も成立して、慰謝料と養育費を支払うために会社で懸命に働いた。

 しかし、元妻は俺がDVをしていたという映像をSNSに俺の名前を入れて公開した。
 俺の名前が瞬く間に広がり、会社では陰口を叩かれるようになった。
 もう少しで出世もあり得たのに、今回の事象により出世の話も無くなり、隅へと追いやられた。
 会社に出勤しても、周りから後指を指され上司や同僚からも全く相手にされなくなってしまった。
 数ヶ月出勤し続けたがあまりにも環境が悪く、また居た堪れない状況となったことで自ら辞職した。

 どうしてこうなったんだろう。
 俺は今まで真面目に生きてきたのに。
 一度の失敗で全てを失ってしまった。
 家も、家族も、金も、信頼も、友も……。なにもかも……。
 俺の自業自得ではあるが、世間の目も怖く外出するのも恐ろしく感じる。
 もう生きていく意味を感じなくなってしまった。
 もし生まれ変われるならたくさんの人から信頼される英雄みたいな人になりたい。

 そう思いながら、俺はから飛び降りた。





 目が覚めると、神秘的な空間にいた。
 そして目の前には羽の生えた美女。
 自分が死んで天国に来たのだと悟る。

『初めまして、佐伯圭太さん』

 え、今どこから声が……?

『私ですよ。目の前にいますよね。私は女神フューリー。あなたに力を借りたくて、異界より魂を呼び寄せました』

 女神?
 異界?
 魂?

『混乱するのはわかります。でもあまり時間がないのでよく聞いてください。これから佐伯さんは私が管理している世界に転生してもらいます』

 転生だと。
 なぜ俺みたいなやつを。

『あなたは死ぬ直前に願いましたね。英雄になりたいと。それを私が叶えて差し上げます』

 確かに来世は英雄になりたいと望んだ。
 だが、そんな簡単に叶えるとかいうな。
 信用できない。

『なれますよ。私は神様ですから。あなたをこれから転生させる世界はあなたが生きてきた地球とは全く異なる世界です。そこで私のお願いを聞いていただきたいのです』

 なんだそれは、英雄の話とは全く関係ないじゃないか。

『いえ、そのお願いは私の管理する世界を救っていただきたいというお願いです』

 世界を救う?
 どこのSF映画だよ。
 バカにするな。

『こちらは大真面目に言っています。あなたが転生する世界はいずれ破滅していく運命になっているのです』

 破滅?
 そんな世界に転生させて楽しいのかよ。

『だからこそ、あなたの魂を呼び寄せたのです。私があなたに力を与えて、世界の中心にある呪われた世界神核ワールドコアを破壊して欲しいのです。それを破壊することで破滅の運命から逃れることができるんです』

 そんな話を信じるとでも?

『信じてくださいとしか言えません。私の大切にしている世界を助けてください』

 それだったら女神様がやったらいいだろ。

『私は直接干渉できないんです。ですから佐伯さんにお願いをしています』

 ……その世界神核ワールドコアを破壊すれば世界の破滅を防げて、俺は英雄になれるのか。

『はい、もちろんです』

 ……わかった、話を聞かせろ。

『ありがとうございます。世界神核ワールドコアはあなたが転生する世界の中心にありますが、通常は人が入ることは不可能な場所です』

 だったら、破壊するなんて無理じゃないのか。

『しかし、1つだけ方法があります。佐伯さんが転生する世界には、攻略が難しいとされている迷宮が3つあります。それがクロト迷宮、ラケシス迷宮、アトロポス迷宮です。この3つの迷宮を踏破することで世界の中心であるモイライという場所に辿り着くことができるんです。そしてモイライにある世界神核ワールドコアを破壊することで破滅を回避できます』

 迷宮?
 なんかそんな漫画を読んだことがあるがそれと同じなのか。

『はい、同じものだと思っていただければ』

 でも攻略が難しいんだろ。
 俺にできるわけがない。

『ですから私から佐伯さんに力を与えるんです』

 それはいわゆる、チート能力ってことか。

『地球だとそういう表現で正しいです』

 なるほど理解した。
 俺の役目は、呪われた世界神核ワールドコアを破壊するため、3つの迷宮を踏破することだな。

『その通りです。とは言っても、いきなり迷宮に挑んでも死んでしまうので、この世界にいる魔物をたくさん倒して、スキルのレベルをあげてください』

 スキル?
 なんだそれは。

『スキルとは能力のことです。スキルにもたくさんありますので、私の方で必要そうなスキルは与えますのでご活用ください』

 よく分からないが、俺は最初から様々なスキルは与えられるが、レベルを上げないと迷宮を踏破することはできないということか。

『そうですね。力をつけてこの世界で一番強くなってください』

 確かに強くなれば、英雄にもなれそうだな。

『それに世界を救った英雄として歴史にも名を残せます』

 わかった。
 やってやるよ。

『ありがとうございます。では、時間もないので佐伯さんを転生させますね。外見も年齢も変わった姿で転生させますので驚かないでくださいよ』

 わかったよ。
 女神様のお願いだから役目を果たしてきてやるよ。

『ふふ、期待していますよ……』

 俺の魂が消える瞬間、女神フューリーの口角が少し上がっているのが見えた気がした───。





 これが俺の姿……。
 森の中に佇んでいた姿は、年齢も18歳程度で黒髪の青年になっていた。
 どうやら夢ではなく現実のようだ。
 本当に異世界に転生したんだ。

「俺はこの世界を救うためにきた。そのために力をつけて英雄とやらになってやる」

 そこから、佐伯圭太……。
 ケータの世界を救う冒険が始まるのであった───。
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