31 / 139
31 ケータという男
しおりを挟む佐伯圭太は日本で暮らす42歳のサラリーマンだ。
妻も娘もいて、幸せな家庭を築けていると思っていた。
結婚して13年目の頃、娘の体調が悪く病院に連れて行ってやると、詳細に診断するため血液検査をすることになった。
その際に、血液型を確認して俺は驚愕した。
俺と妻の血液型はO型だ。
それなのに娘の血液型はA型だった。
何かの間違いかと思い、妻に隠れてDNA鑑定も行ってみた。
結果は、不一致。
全てに絶望した。
今まで愛してきた娘は本当は俺の子じゃなかった……。
現実を受け止めることができず、しばらくの間、無気力となってしまった。
妻が心配して寄り添ってくれるが、もはや妻が信用できない。
そんな日が2ヶ月程度続いて、ついに俺が妻に対して暴力を振るってしまった。
やってしまったことを後悔したが、妻は俺のことを10年以上も騙し続けていたのだ。
それに比べたら、これくらいの暴力なんか気にならなかった。
その日を境に俺は頻繁に妻に暴力を振るっていた。
妻も娘も家を出て行き、しばらく経つと、俺の家に弁護士が来た。
内容は、夫からのDVによる離婚、慰謝料及び養育費の請求だった。
弁護士には妻が不倫をしていて、娘は本当の子供じゃないことを伝えたが、DVの証拠映像も妻が撮っていたらしく、俺の言い分は全く通らなかった。
このままだと訴えて裁判をすることになると言われ、引き下がってしまった。
DVは事実だし、そんなことをすれば会社にも居場所がなくなる。最悪の場合、懲戒解雇だ。
保身のために和解をした。
離婚も成立して、慰謝料と養育費を支払うために会社で懸命に働いた。
しかし、元妻は俺がDVをしていたという映像をSNSに俺の名前を入れて公開した。
俺の名前が瞬く間に広がり、会社では陰口を叩かれるようになった。
もう少しで出世もあり得たのに、今回の事象により出世の話も無くなり、隅へと追いやられた。
会社に出勤しても、周りから後指を指され上司や同僚からも全く相手にされなくなってしまった。
数ヶ月出勤し続けたがあまりにも環境が悪く、また居た堪れない状況となったことで自ら辞職した。
どうしてこうなったんだろう。
俺は今まで真面目に生きてきたのに。
一度の失敗で全てを失ってしまった。
家も、家族も、金も、信頼も、友も……。なにもかも……。
俺の自業自得ではあるが、世間の目も怖く外出するのも恐ろしく感じる。
もう生きていく意味を感じなくなってしまった。
もし生まれ変われるならたくさんの人から信頼される英雄みたいな人になりたい。
そう思いながら、俺はマンションから飛び降りた。
目が覚めると、神秘的な空間にいた。
そして目の前には羽の生えた美女。
自分が死んで天国に来たのだと悟る。
『初めまして、佐伯圭太さん』
え、今どこから声が……?
『私ですよ。目の前にいますよね。私は女神フューリー。あなたに力を借りたくて、異界より魂を呼び寄せました』
女神?
異界?
魂?
『混乱するのはわかります。でもあまり時間がないのでよく聞いてください。これから佐伯さんは私が管理している世界に転生してもらいます』
転生だと。
なぜ俺みたいなやつを。
『あなたは死ぬ直前に願いましたね。英雄になりたいと。それを私が叶えて差し上げます』
確かに来世は英雄になりたいと望んだ。
だが、そんな簡単に叶えるとかいうな。
信用できない。
『なれますよ。私は神様ですから。あなたをこれから転生させる世界はあなたが生きてきた地球とは全く異なる世界です。そこで私のお願いを聞いていただきたいのです』
なんだそれは、英雄の話とは全く関係ないじゃないか。
『いえ、そのお願いは私の管理する世界を救っていただきたいというお願いです』
世界を救う?
どこのSF映画だよ。
バカにするな。
『こちらは大真面目に言っています。あなたが転生する世界はいずれ破滅していく運命になっているのです』
破滅?
そんな世界に転生させて楽しいのかよ。
『だからこそ、あなたの魂を呼び寄せたのです。私があなたに力を与えて、世界の中心にある呪われた世界神核を破壊して欲しいのです。それを破壊することで破滅の運命から逃れることができるんです』
そんな話を信じるとでも?
『信じてくださいとしか言えません。私の大切にしている世界を助けてください』
それだったら女神様がやったらいいだろ。
『私は直接干渉できないんです。ですから佐伯さんにお願いをしています』
……その世界神核を破壊すれば世界の破滅を防げて、俺は英雄になれるのか。
『はい、もちろんです』
……わかった、話を聞かせろ。
『ありがとうございます。世界神核はあなたが転生する世界の中心にありますが、通常は人が入ることは不可能な場所です』
だったら、破壊するなんて無理じゃないのか。
『しかし、1つだけ方法があります。佐伯さんが転生する世界には、攻略が難しいとされている迷宮が3つあります。それがクロト迷宮、ラケシス迷宮、アトロポス迷宮です。この3つの迷宮を踏破することで世界の中心であるモイライという場所に辿り着くことができるんです。そしてモイライにある世界神核を破壊することで破滅を回避できます』
迷宮?
なんかそんな漫画を読んだことがあるがそれと同じなのか。
『はい、同じものだと思っていただければ』
でも攻略が難しいんだろ。
俺にできるわけがない。
『ですから私から佐伯さんに力を与えるんです』
それはいわゆる、チート能力ってことか。
『地球だとそういう表現で正しいです』
なるほど理解した。
俺の役目は、呪われた世界神核を破壊するため、3つの迷宮を踏破することだな。
『その通りです。とは言っても、いきなり迷宮に挑んでも死んでしまうので、この世界にいる魔物をたくさん倒して、スキルのレベルをあげてください』
スキル?
なんだそれは。
『スキルとは能力のことです。スキルにもたくさんありますので、私の方で必要そうなスキルは与えますのでご活用ください』
よく分からないが、俺は最初から様々なスキルは与えられるが、レベルを上げないと迷宮を踏破することはできないということか。
『そうですね。力をつけてこの世界で一番強くなってください』
確かに強くなれば、英雄にもなれそうだな。
『それに世界を救った英雄として歴史にも名を残せます』
わかった。
やってやるよ。
『ありがとうございます。では、時間もないので佐伯さんを転生させますね。外見も年齢も変わった姿で転生させますので驚かないでくださいよ』
わかったよ。
女神様のお願いだから役目を果たしてきてやるよ。
『ふふ、期待していますよ……』
俺の魂が消える瞬間、女神フューリーの口角が少し上がっているのが見えた気がした───。
これが俺の姿……。
森の中に佇んでいた姿は、年齢も18歳程度で黒髪の青年になっていた。
どうやら夢ではなく現実のようだ。
本当に異世界に転生したんだ。
「俺はこの世界を救うためにきた。そのために力をつけて英雄とやらになってやる」
そこから、佐伯圭太……。
ケータの世界を救う冒険が始まるのであった───。
24
あなたにおすすめの小説
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
狼になっちゃった!
家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで?
色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!?
……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう?
これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる