神様のミスで女に転生したようです

結城はる

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77 ウルレインに到着

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 あれはなんだ。
 空を飛ぶ大きな鳥?

「あれって竜じゃないのか!?」

 カレンが叫ぶ。
 竜? あれが?
 なんかイメージと違う。
 竜といえばかなり強大な力を持っていて、なりふり構わず周囲を火の海にでもするような邪悪な存在だと思っていた。
 しかし目の前に見える竜はまるで神命でも受けたような神々しい姿をしている。

「あれは、白竜だな……」

 カレンがそう呟く。
 白竜か。確かに白い。
 なんとなくだけど、竜といえば黒かったりするイメージだったが、あのような竜がこの世界にいるんだな。

 私の感想とは裏腹にカレンたちも護衛の騎士たちも怯えているが、どうも白竜には敵意は感じられない。
 ただの暇つぶしに空を飛んで謳歌しているように見える。

「綺麗……」

 ふと、そんなことを呟いた。
 確かに敵対すれば勝つ見込みはないだろうけど、鑑賞するだけなら綺麗な姿をしている。
 白竜には失礼かもしれないけど。

 白竜は私たちを無視して、そのまま山奥の方へと飛び去っていった。

「怖かった~」

 私以外の全員が腰を落として安堵している。

「ヒナタ、あれを見て綺麗とか正気かよ」
「え? 綺麗じゃなかった?」

 そんな不思議なことを言ったかな?
 そのままの感想を言っただけなんだけど。
 それとも私には違うものにでも見えていたのかな。そんなわけないか。

 白竜が通り過ぎるという展開もあったが、その後は何事もなく旅は続いた。
 そしてようやく明日にはウルレインに到着する。

 今日がサーシャとの最後の夜だ。
 あ、最後ではないか。
 でも、しばらくはこうやって一緒に馬車に乗って旅をすることもない。
 だから最後の晩餐は、チーズフォンデュにしよう。

 王都のゲイル商会で購入したIHを使って鍋にチーズを溶かす。
 そして様々な野菜を一口サイズに切り、お皿に据える。

「な、なんですかこれは!?」

 サーシャが高揚している。
 もちろん可愛い。

「これはね、チーズフォンデュっていうんだよ」
「ちーずふぉんでゅ?」

 なにその言い方。あざとすぎる。

「このチーズに野菜をつけて食べるんだよ」

 そういうと、サーシャが一目散に食べた。

「おいしい!」

 それはよかった。
 サーシャに続いてカレン、シャルも食べ始めておいしそうに食べている。
 チーズフォンデュは好評のようだ。
 とはいっても、今までのハンバーグとかコロッケも好評だったがチーズフォンデュは特に好評なのだ。
 私もよくお店でチーズフォンデュは食べていた。
 男同士でチーズフォンデュは恥ずかしかったので、付き合っていた彼女を連れて食べに行っていた。

 好評のチーズフォンデュはすぐになくなり、私たちは簡易風呂に入った。

「しばらくはヒナタお姉ちゃんたちとこうやって森の中でお風呂に入るのもなくなりますね」
「森の中では無理かもしれないけど、サーシャちゃんのお屋敷では入れるよ」
「んー、ヒナタお姉ちゃん、あまりお屋敷に来てくれないんだもん」

 ドキッ!

 言われてみれば、いつも遊びに行くって言っておいてサーシャに会いに行っていない。
 でも、色々忙しいからしょうがないじゃん。
 このままじゃ私は口だけの女になってしまう。
 他の人にはどう思われてもいいけど、サーシャにだけはだめだ。

「……ウルレインに帰ったら絶対に遊びに行くから!」

 嘘はつかない。
 今度こそただサーシャと遊びに行くために屋敷に行こう。
 そして泊まってお風呂に入って一緒のベッドで寝よう。

「約束ですよ……」

 口を尖らせて言ってくる。だからあざといって。
 こんな風に言われたら、この世の男性は誰も断れない。

「もちろんだよ」

 もうお金には困っていないから、依頼なんてそっちのけでサーシャと遊ぼう。

 夜も遅いので、サーシャには寝てもらい、私たちは護衛として交代で見張りをして夜を過ごした。



 翌朝、ウルレインの門が閉まる前に着きたいので、いつもより早めに起きて出発する。

「んー、眠いですぅ」

 サーシャはまだ眠そうな顔をしている。
 今日もいつも通り可愛いよ。

「ヒナタはウルレインについたらどうするんだ?」

 カレンからの唐突な質問が飛んできた。
 とりあえずやることは決まっている。

「ちょっと土地でも買って家を建てようかなって思ってるよ」
「「「えぇ!?」」」

 そんな3人して驚かなくても。
 私だって自分の拠点は欲しいからね。

「そんなに驚くこと?」
「いやだって、家を買うなんてずっとウルレインに住むのか?」

 そういう風に捉えられるのか。
 別に住み着くわけではないんだけど。
 今まで通り自由にいろんな街にも行きたいし、他国にも行きたいからね。
 ただ拠点が欲しいだけだ。
 どこにいようと自分の家があると安心するからね。

「そんなつもりはないよ。ただ毎回宿に泊まるのも面倒だからね」
「そ、それなら私たちと宿に泊まることもないんだな」
「え? 別にカレンたちも家にいていいんだよ?」

 2人とも驚いた顔をしている。
 え? 当然だよね?
 カレンたちには宿に泊まってもらって、私だけ自分の家で過ごすなんて申し訳ないよ。

「いいのか……?」
「もちろん。1人だと寂しいからカレンたちがいると嬉しいな」

 それに2人とお風呂に入りたいし、同じベッドで寝たいしね。
 あ、でもベッドは無理かな。そっちは諦めよう。

「なら世話になろうかな」
「ありがとうございます……」

 カレンもシャルも笑顔で答えてくれた。
 私にとって2人は大切な家族みたいなものだ。
 一緒に住むのが当たり前なのだ。

「気にしないで」

 なんかいい話みたいになっているけど、私にとっては当たり前のことだから気にしない。

 そんなこんなで気がつけばウルレインの街が見えてきた。

「もうすぐだよ!」

 私はサーシャに向かって声を掛ける。
 久しぶりのウルレインだ。
 サーシャも嬉しそうにしている。

 なんとか門の閉門時間に間に合ってウルレインの街へと入る。

 そのままブルガルド家に向かう。

「久しぶりにお父様に会えます!」

 サーシャは昨日からずっとテンションが上がっている。
 この時期の女の子は、お父さんのことなんか嫌いな子が多いのにサーシャは両親ともに好きなようだ。


「お父様!」
「サーシャ! 無事に帰ってきてよかった!」

 いつも通りブルガルド家の抱擁の始まりだ。
 なんとも微笑ましい光景だ。

「ヒナタさんにもお世話になった。おや? そちらにいるのはワイバーン討伐の時の……」

 フィリップはカレンたちを覚えていたようだ。

「お久しぶりです。フィリップ様。こちらは私と冒険者パーティを組んでいるカレンとシャーロットです」
「ほう! ヒナタさんもパーティを組んだのか!」

 カレンたちはやっぱり貴族が苦手なのかずっと萎縮してしまっている。
 なんでサーシャは大丈夫なんだろう? 子供だから?

「サーシャを無事に送り届けてくれたお礼に今夜はここに泊まっていくといい」
「それではお言葉に甘えてお世話になります」
「「ありがとうございます」」

 どうせ今からだと宿に泊まれるかも分からないからありがたい申し出だ。

 さて、明日はいい土地を探しに行こうかな。
 家は私の土魔法で作れるしね。
 明日が楽しみだ。
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