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87 白竜から託される
しおりを挟む白竜はフラつきながら動き出した。
『ここに私の子供がいるの』
白竜のお腹の下に隠されていたのは卵だった。
『私の命はもうすぐ尽きるわ。でもこの獅子を倒せるあなたになら私の子供を託すことができる』
え、そんな大役私にできないよ。
責任重大じゃん。
子育てもしたことないのに、竜は育てられない。
『私が死んだらこの子は生きていけない。でもあなたがここにやってきたことで、この子を守ることができる。最期にあなたに会わせてくれたこの世界の運命の女神様に感謝しないとね』
なんか勝手に話が進んでいる気がする。
引き受けるなんて言っていないけど。
でも目の前の白竜の死の直前に託された子供を見捨てるのは罪悪感が……。
さすがに断れないよ。
「本当に私でよければ……」
『あなたがいいわ。あなたにしか頼めない』
そこまで言われたら引き受けるしかない。
正直自信はないよ。
孵化したら竜が出てくるわけだから、ウルレインで育ててもいいか分からないし、大きくなったら確実にマイホームにも入れない。
最悪街から追い出される可能性もある。
というかそもそも竜と一緒に暮らすというのがありえない。
でもこの状況で断るのは白竜に申し訳ない。
「分かりました。白竜様に代わって私が大切に育ててみせます」
『ふふ。よろしく頼むわね……』
白竜が安心したのか目を閉ざす。
あれ?
「……白竜様?」
返事がない。
気配探知で反応を確認すると消えている。
「え、死んじゃった……」
少ししか会話をしていないが、目から一粒の涙が頬を流れる。
なんでだろう。すごく悲しい。
たぶんこの白竜は子供のことが心配で、気力だけでここまで生きてきたのだろう。
そこに私が来て、この子を託したことで安心して逝ったのだ。
文字通り命を懸けてこの卵を守っていた。
私は責任を持ってこの子の面倒を見ないといけない。
でもこの卵を持って王都にはいけないな。
抱えられるくらいの大きさではあるけど、目立ってしまう。
一度、ウルレインのマイホームに置いてこないといけない。
あとこの白竜はここに埋葬したほうがいいかな。
何百年も生きた竜だ。ちゃんと弔ってあげたい。
埋葬する前に白竜に強奪スキルを使用してから、土魔法で白竜が入る大きさの穴を掘り埋葬する。
「安らかに眠ってください」
その後に私はステータスを確認してみる。
名前:ヒナタ
種族:人族
年齢:15歳
職業:魔法使い
HP :237/237
MP :307/375
スキル:水魔法LV7
風魔法LV8
火魔法LV5
土魔法LV8
無属性魔法LV5
無限収納
威圧LV4
毒霧LV1
毒耐性LV3
麻痺耐性LV2
気配察知LV5
気配遮断LV4
隠密LV6
発情LV2
遠視LV4
気配探知LV6
自然回復LV6
身体強化LV3
物理攻撃耐性LV6
竜装化
竜王覇気
ユニークスキル:強奪
なんかすごいスキルなんだけど……。
竜装化とか竜王覇気とは絶対やばいでしょ……。
こんなスキル、人族が持ってはいけないスキルなんじゃないの。
でも気になるよね。
試しに竜装化をやってみる。
「うわっ!」
……身体中に鱗が生えてきた。
それに伴い服が破れました。
裸ですよ。裸。
できれば腕だけ生えてくれればよかったのに。
……あれ? 腕だけになった。
「腕だけでも竜装化できるんだ」
これなら便利だ。
防御力高めの鱗をゲットだね。
そしてこれで完全に人外認定だね。
こんなスキル人前では絶対使えない。
これがバレたら人類の敵として捕らえられて解剖されちゃうよ。
私以外の時は封印だ。
竜王覇気はまたそのうち試してみよう。
さて、予備の服もないのでこのままウルレインに帰るしかない。
隠密スキルを持っていてよかった。
……いや、マイホームにバスタオルはあるか。
せめてバスタオルだけでも巻いておこう。
私は無限収納からマイホームを取り出してバスタオルを羽織る。
そして隠密スキルを使って、卵を持ち飛行魔法でウルレインに向かう。
この格好で3日間の旅とか本当に恥ずかしい。
隠密スキルを使っているけど、誰にも見られませんように。
というより、この状態だと第三者から見てどうなっているんだろう?
卵が浮いて見えているのか、卵ごと見えなくなっているのか。
今度試してみよう。
はい。無事にマイホームに到着しました。
「ただいまー」
「お、おかえり?」
「おかえりなさい?」
カレンたちが私の姿を見て呆然としている。
そりゃそうだ。バスタオル姿で玄関を開けて手には卵を抱えているんだから。
「えっと、どこからつっこめばいいの?」
「まあ色々あったのよ。察してよ」
察してよと言われても事情を知らないとこの状況は異常すぎる。
でも私はすぐに王都に行かないといけない。
「ちょっと王都に行かないといけないから、この卵は私の部屋に置いておくね。詳しい話は帰ってきてからするから」
「え? ちょっと!」
私はすぐに自分の部屋に行って服を着てマイホームを後にする。
本当は王都に行くまでに時間稼ぎをするつもりだったからちょうどいい。
このまま王都に向かっても怪しまれない。
それからウルレインから出発して2日目に王都に到着した。
すぐに王宮に向かい、王城の中に入る。
「よく来たな。ヒナタ」
案内されて王様の部屋に入った。
この短い期間に王様に3回も会うなんて貴族でも珍しいだろう。
「鉱山に発生したネメアーの討伐に感謝する。それで話は聞いていると思うが、ネメアーを是非見せてほしいと思ってな」
「大丈夫ですけど、どこに出せばいいですか?」
「それなら案内しよう」
私は王様と隣にいた宰相に連れられて、王国騎士団が狩ってきた魔物を解体する場所に案内された。
「ここなら大丈夫だろう」
言われた通りにネメアーを出す。
ドンッ!
「ほう。ここまで大きいのか……。こんな魔物は初めて見た」
「そうですね……」
王様も宰相も驚いている。
王族ですら見たこともない魔物なら相当珍しいんだろう。
それに白竜すらも倒している魔物だ。
でも予想だけど、白竜の場合は卵を守りながらだったから、あそこまで追い詰められたんだと思う。
「ネメアーという希少な魔物はなかなか遭遇できない。せっかくなので国として買い取っても良いか?」
「こちらとしてはありがたいですが……」
その後は王様にネメアーを引き渡して、お金はギルドカードに振り込んでもらった。
渡された時にまたニヤッとした顔をしていたので嫌な予感がするよ。
卵が心配なのですぐにウルレインに帰る。
マイホームに着いたのは夜になってしまったがまだ明かりが点いている。
まだ起きているみたいで安心した。
「ただいまー」
「やっと帰ってきたよ!」
王都の往復で3日しか経過してないよ。
このスピードは異常じゃない?
「何かあったの?」
「何かあったの? じゃないよ! いきなり卵をお願いとか言われても訳わかんないし!」
「あはは。ごめんね。とりあえず説明するよ」
私は2人に説明する。
とりあえず鉱山の魔物は討伐したけど、王様に呼ばれて王都を目指していたけど途中で白竜に会った。
白竜はネメアーに怪我を負わされて、死ぬ寸前だった。
そこに私がきたことで白竜の卵を託された。
「……ということだよ!」
「ってことはあの卵はあの時の白竜の子供ってことか!?」
カレンとシャルもいい反応をしている。
やっぱり2人といると楽しいね。
最近は1人が多かったからね。
「どうするんだよ……。竜の子供とか育てらんねーよ」
「で、でも確か竜って生まれた時に最初に見た者を親だって思い込むんだよね?」
シャルが驚きのことを言い出した。
「え、そうなの?」
それなら私を親と思い込ませれば、危険はないんじゃないのかな。
「うん。昔どこかの貴族がそれで竜を飼っていたから」
いい情報をゲットだね。
昔にも竜を飼い慣らした人がいるという前例があるなら、私も頑張れば育てられる。
でもとりあえずフィリップには報告したほうがいいよね。
何かあった後に事後報告なんてしたら、罪人になるかもしれないし。
とりあえず明日はフィリップのところに行こうかな。
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