神様のミスで女に転生したようです

結城はる

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104 孤児院で働く

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 私はサーシャと一緒にマイホームに帰ってきた。

「キュキュー!」

 玄関を開けるとすぐにコハクが飛んでくる。
 腹部にぶつかってきたため、私は勢いに押されて尻餅をつく。

「お待たせ、コハク」
「キュイ!」
「コハクちゃーん!」

 サーシャがコハクを抱きしめる。
 コハクは私から離されて嫌がっている。
 とりあえず私はコハクをサーシャに任せてリビングに移動する。
 カレン達がいないから冒険者ギルドだろうか?
 ということはコハク1人でお留守番をしていたのか。
 もう少し構ってあげればよかったな。

「キュイー!」

 するとコハクがサーシャから逃げて私のところにやってくる。
 定位置の頭の上に。

「お留守番ありがとうねコハク」
「キュ!」

 片手を挙げるコハク。
 サーシャはコハクを追ってくる。

「コハクちゃん急に逃げなくても……」

 サーシャが寂しそうにしている。
 無理矢理抱きつくとコハクも嫌がるよ。
 
 カレン達もいないから、コハクは人間の姿になってもらって庭で遊ぶことにした。
 サーシャが魔法を放ってそれをコハクの拳で相殺するという女の子同士とは思えない遊び方だ。
 私は木陰で見ていたけど、サーシャは魔法がかなり上達している。
 私の家庭教師が終わってもしっかり魔法の練習は怠っていないようだ。
 でもそれを拳で相殺するコハクもすごい。
 
 長い時間2人で遊んでいるからか私は木陰で居眠りをしていた。

「ヒナタお姉ちゃん?」
「ママ?」

 2人から起こされて目が覚める。
 結構時間が経っているようだ。
 サーシャとコハクの隣にはフィリップがいた。

「孤児院について報告をしにきた」

 思ったより早かったな。
 私は立ち上がってフィリップの話を聞くためにマイホームに案内した。

 フィリップには椅子に座ってもらい、私は対面に座る。
 一応サーシャとコハクも同席している。

「あの後孤児院に行き、院長のクリシスにも事情聴取をさせていただいた」
「それでどうでしたか?」
「ヒナタさんの予想通り、クリシスは補助金を横領していたことを認めた」

 やっぱりそうだったか。
 人は見た目で判断してはいけない良い例だった。
 一見、優しそうな院長だったけど、裏では横領をして子供達を苦しめていたなんて。
 サーシャも状況を察したのか、手で口を覆って驚いている。

「すでにクリシスは捕らえ、牢に収監している」
「子供達はどうなるんでしょうか……?」
「……」

 一番の心配は子供達だ。
 ルークやシアンがいると言っても、あの人数の子供達の面倒を見続けるのは難しいだろう。
 フィリップも悩んでいるみたいだ。

「ただいまー」
「ただいまです」

 良いタイミングでカレン達が帰ってくる。
 ちょうど孤児院の話をしていたので、カレン達にも事情を説明する。

「それは本当なのか……?」
「あの院長先生が……」

 カレンもシャルも絶句している。
 子供達の味方であるはずの院長先生が、あの状況を作り出したと思えばその反応になるよね。
 私もコハクからイヤリングの話を聞いた時は驚いたからね。

「今は新しい孤児院の経営者を募集しているところだが、その間に誰が孤児院の面倒を見るか検討しているところだ」
「……そ、それは私がやってもいいんでしょうか?」

 シャルがフィリップに提案する。
 子供が好きなシャルだからこその提案だろう。

「シャーロットさんか。本当にいいのか?」
「はい。私でよければですが……」
「もちろん構わない。その間の給金は支払うのでお願いしたい」

 シャルが孤児院で働くのは短期間かもしれないけど、私もお手伝いしようかな。
 コハクも子供達と遊んで楽しそうにしていたからね。

「シャル。私も一緒に孤児院のお手伝いをするよ」
「ヒナタさん……。心強いです」
「シャル! あたしだってやるよ!」
「ママ! コハクもやる!」
「そう言ってくれて感謝する。それなら皆さんにお願いしようと思う」

 ということでフィリップからの許可も得たことで、しばらくは4人で孤児院で働くことになった。
 どうせやるなら人数が多い方が楽しいよね。
 


 翌朝、4人で市場に行って食材を購入してから孤児院に向かう。
 このメンバーだと料理番は私でシャル達は子供達の遊び相手になる。
 今日は19人分のご飯を作るのか。
 寮母さんにでもなった気分だ。

「あれ? カレン先生じゃないですか!」

 孤児院に着くと庭でルークが薪を割っていた。
 あれ、今日は仕事がないのかな。

「あぁ、ルークか。今日は孤児院にいるんだな」
「はい。院長先生が急にいなくなってしまったので、俺とシアンで子供達の面倒を見ているんです」

 ルークの様子を見ると、どうやらクリシスが横領していたことは知らないんだな。
 子供達の前ではしっかりとした院長先生だったんだろう。
 それなら私たちが真実を言う必要もないかな。

「院長先生は諸事情でこの孤児院を辞めなくちゃいけなくなったから、私たちが代わりにここに来たんだ」
「ヒナタか……」

 なぜかルークに睨まれる。
 あれ、私何かしたかな?

「ヒナタってAランク冒険者だったんだな。他の冒険者から聞いたぞ」

 あちゃー。
 他の人から聞いちゃったのか。
 それなら私の印象がさらに悪くなるかも。
 嘘をついてルークたちに近づいたわけだし。

「うっ……。ごめんね、嘘ついちゃって。でもあの時は……」
「いや、いいよ。俺たちのことを心配してくれて嘘をついたんだろう」

 ルークが顔を逸らしながら言ってくる。
 なんか照れてる?
 でも、私のことを嫌いになったわけじゃないならよかった。

「そういえばシアンちゃんは?」
「シアンなら中で子供達と遊んでいるよ」

 シアンはこの孤児院では一番のお姉さんだから子供達の面倒を見るには適任だね。

「ヒナタさん、私も子供達のところに行ってきます」

 シャルの言葉にカレンも続いて孤児院の中へと入っていく。
 ということは私は調理場だな。
 頑張るぞ。

「コハクはどうする?」
「みんなと遊びたい!」
「うん。行ってきていいよ」
「やった!」

 コハクは走って孤児院に入る。
 私は調理場へと移動する。
 コハクが来たことで子供達も喜んでいる。
 昨日で大分打ち解けたみたいで安心だね。

 私は朝食の準備をする。
 人数も多いし、簡単なものでいいよね。

「あの、ヒナタさん。私も手伝います……」

 振り返るとシアンがいた。
 シャル達が子供達の相手をしているから私のところにやってきたのかな。

「うん。なら一緒にやろう」

 子供だから甘いものが好きかな。
 なら卵に少し砂糖を加えてオムレツでも作ろう。
 どうせなら卵焼きとかにしたいけど、卵焼き用のフライパンがない。
 普通のフライパンでも作れないことはないけど、オムレツの方が早く作れる。

 シアンと一緒にオムレツを作る。
 どうやらこの孤児院では院長先生とシアンが料理当番だったらしい。
 シャルよりは手際がいいし、初めて作るはずのオムレツも上手にできている。

「みんな朝食の準備ができたよー!」

 ようやく全員分の朝食を作り終え、全員に呼びかける。
 すると外で遊んでいた子供達が走って集会場にやってきた。

「それじゃあ、いただきます」
「「「いただきまーす」」」

 シアンの言葉に子供達も合わせる。
 子供達から「おいしい!」という声が聞こえてくるので好評みたいだ。

 全員が食べ終わり、後片付けをしているとカレンがやってきた。

「ヒナタ、領主様が来ているよ」
「え? フィリップ様が?」

 一体何の用だろう?
 私は急いで孤児院の外に出るとフィリップが佇んでおり、シャルも一緒にいた。

「フィリップ様、朝早くからどうしましたか?」
「孤児院について話があってな……それで3人を呼んだんだ。それにしても、実際に孤児院に来てみると、酷いものだな……。私の失態だ」

 責任を感じているようだ。
 でもこの街の領主なのだから仕方がないか。
 大事なのは同じ失敗を二度としないことだと思う。

「でもこれからは子供達も幸せになっていくと思いますよ」
「そうなるよう私も努力しないとな」

 新しく院長になる人がきっと子供達を幸せにしてくれるだろう。

「それで話とは何でしょうか?」
「この孤児院の改築が正式に決まった」
「本当に!?」
「よかった……」

 カレンもシャルも喜んでいる。もちろん私も嬉しい。
 それに孤児院もここまで廃れているから修繕よりも改築の方がいいからね。
 まぁ、私が魔法で作るっていう手もあるけど、それは私の仕事でもないからね。
 それに私が魔法で家を造れるって知られると、厄介ごとというか建築業を生業にしている人に恨みを買いそうだしね。
 改築については領主であるフィリップがやるべきことだ。

「それはよかったです。これで子供達も快適に暮らしていけそうですね」
「ああ。その関係で近いうちに仮設住宅の準備をするから、子供達にも伝えておいてくれないか?」
 
 確かに改築するなら仮設住宅は必要になるね。
 
「分かりました。伝えておきます。そういえば新しい院長先生は決まりそうですか?」
「孤児院の経営者については数人が応募してきたため、今は選考中だ」

 思ったよりも早く決まりそうでよかった。
 これなら私たちの仕事もすぐに無くなりそうだ。

「なるほど。それでは新しい院長が来るまでは私達に孤児院は任せてください」
「よろしく頼む。それでは私は仕事もあるのでこれで失礼する」

 フィリップは要件を伝え終えてすぐに孤児院を後にした。
 私達は孤児院の中に入って、子供達にもフィリップからの要件を伝えた。
 子供達も孤児院の改築に喜んだ。
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