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118 シャーロットの過去①
しおりを挟む明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
長らくお待たせしました。
話を変えて、シャーロットの過去編です。
─────────────────────
私はベルフェスト王国にあるスリープシ村という小さな村で生を受けた。
お父さんは村の外にいる猪とか鹿を狩ってくる狩猟のお仕事をしている。
お母さんは体が弱いみたいだけど、家の畑で農作業をしている。
そんな普通の家庭で生まれ育った。
私が5歳の頃、お母さんが椅子に座って泣いていた。
お母さんが泣いている姿は初めて見た。
だから私は聞いた。
「お母さん、何かあったの?」
お母さんは私を見ると、涙を拭って頭を撫でてくれた。
そしてその後、私を抱き締めた。
私に見えないようにお母さんが泣いているのが分かった。
「シャル……。お父さんがね。村の外で魔物に襲われたんだって……」
魔物……。
私は見たことがない。
お父さんもお母さんも村の外には魔物がいるから、絶対に行ってはいけないって言われていたから。
でもとても危険だと教えられた。
もし、村の中に入ってきたらすぐに逃げなさいって口酸っぱく言われた。
そんな魔物にお父さんが襲われた……?
「お父さんは怪我しちゃったの? お父さんはいつ帰ってくるの……?」
お母さんは何も答えてくれない。
なんで教えてくれないの?
私何か悪いことでもしたの?
「ねぇ、お母さん……」
「ごめんね……。お父さんはもう帰ってこないの」
どういうこと?
なんでお父さんはもう帰ってこないの?
「何で?」
「お父さんはね。もの凄く遠い場所に行っちゃったから」
遠い場所?
何でそんな場所に行っちゃったの?
お母さんと私を置いてどこに行っちゃったの?
「もうお父さんは帰ってこないの?」
「そうよ……」
よく分からない。
でもお父さんとはもう会えないってことは分かった。
私はその場で大きく声を出して泣いた。
お父さんがいなくなってから、お母さんはいつもより頑張るようになった。
お父さんがいなくなる前に多少は貯蓄をしていたみたいで、贅沢をしなければ普通の生活ができるってお母さんは言っていた。
でもお母さんは毎日のように1人で家の畑でお仕事をしている。
汗水垂らしながら畑を耕したり、作物の種を植えて毎日欠かさずお水を撒いたりしている。
育った野菜は収穫をして村民に売ったりしていた。
今までは畑で収穫した野菜は家で食べたりしていたけど、お父さんがいなくなったことで少しでもお金が必要だ。
でも収穫した野菜を売ることで私の家に残る食料は少なくなるはずだ。
そのはずなのに、私に出される料理はいつも通りだった。
私の目の前に置かれた野菜スープ。
数種類の野菜が一口サイズにカットしてある。
こんなに野菜がいっぱいだと美味しいな。
……でもお母さんはいつからか一緒にご飯を食べなくなった。
いつも私が食べている姿を笑顔で見てくれていた。
私はお母さんと一緒に食べたいのに何でだろう?
「お母さんも一緒に食べよう?」
私はお母さんに聞いた。
1人で食べるのは寂しいよ。
前みたいに、お母さんとお話しながら一緒に食べたいよ。
「お母さんはお腹が空いてないのよ。だからシャルがお母さんの分までいっぱい食べて」
お母さんが笑顔で言った。
この時の私はこの言葉を信じてしまった。
お母さんがお仕事を頑張るようになって私は1人になることが多くなった。
他の子供達はみんなでよく遊んでいる。
でも私にはこの村にお友達がいない。
家族以外の人とお話しするのが苦手だった。
そんなことから私は村にある木の下で1人でいることが多くなった。
ここは人があまりいないからすごく落ち着く。
しかしこの日は違った。
「こんなところで何してるの?」
突然やってきた少女に声を掛けられた。
背中まで伸びている赤髪が風に靡いている。
すごく綺麗な子だ。
「……なにも」
私はか細い声で答えた。
やっぱりお母さんと話す時と違って緊張する。
「ふーん。ならあたしと一緒に遊ぼうよ!」
その少女は私の目を見て、そして手を差し伸べて誘ってきてくれた。
いつもの私なら戸惑っていただろう。
緊張してしまって何も出来ずにこの少女を怒らせてしまうだろう。
でも違った。
私は何も考えずに少女の手を取った。
この少女との出会いが私の人生を変えた。
「あたしはカレン! 君は?」
「シャ、シャーロット……」
私とカレンは木の下で話し始めた。
カレンは私の隣に座って体が密着している。
「そうなんだ。素敵な名前だね!」
そんなこと初めて言われた。
というより友達もいないからしょうがないか。
でも、素敵な名前か……。
お父さんとお母さんが付けてくれた私の名前。
私も大好きだ。
素敵な名前なんて言われてすごく嬉しい。
「ありがとう……。カレンって名前もすっごく素敵だと思うよ」
「えっ……。そうかな? ありがとう!」
カレンが少し照れた。
私と違って積極的な女の子だから、ちょっと苦手意識もあったけど話してみると不思議なくらい話しやすい。
私にも友達が出来たのかな。
帰ったらお母さんに教えてあげないと。
「ならシャーロットちゃん……、ちょっと長いな……。お母さんには何て呼ばれてるの?」
「お母さんからはシャルって呼ばれてるよ」
「シャル……。シャルか! いいなそれ! あたしもシャルって呼んでもいい!?」
初めてお父さんとお母さん以外からシャルって呼ばれている。
でも嫌じゃない。
カレンにならそう呼ばれたい。
「うん、いいよ」
「よし! ならシャル! あっちで一緒にお花を摘みに行こう!」
カレンが私の手を引っ張ってお花畑に向かった。
こんな風に手を引っ張ってくれたのはお父さん以来だ。
まだ私が小さい頃によく私の手を引いて一緒に歩いたな。
カレンの手を握っているとすごく安心する。
なんか……懐かしいな。
「……そっかぁ。シャルのお父さんはどこかに行っちゃったんだな」
私はカレンとお花畑を歩きながら、お父さんが遠くに行ってしまったことを教えた。
言う必要はなかったが、カレンになら言ってもいいと思った。
「うん。だからね。お母さんが毎日お仕事頑張っているんだ」
「ならシャルもお母さんのお手伝いをしたら? 大変ならあたしも手伝うよ!」
カレンが提案してくれた。
そうか。私がお手伝いをすればお母さんが少しは楽になる。
私も一緒に頑張ればいいんだ。
「そうだね! 私、やってみるよ!」
「おお、頑張れよ!」
私はお母さんの畑作業を手伝うようになった。
そしてたまにカレンもやってきて3人で一緒に畑作業をした。
この日からお母さんがよく笑うようになった。
そして月日が流れて、私は8歳になった。
相変わらず私はお母さんの畑作業を手伝っている。
村の子供達はみんなで遊んでいたけど、私はお母さんのお手伝いだ。
そして私を心配してカレンも来てくれている。
カレンは私にとってこの村で唯一の友達だ。
畑作業が終わったらよく外で遊ぶようになったし、カレンの家で遊んだりもした。
カレンが友達になってから私もよく笑うようになった。
でもお母さんがどんどん痩せ細ってきている。
前はこんなこともなかったのに。
元々お母さんは病弱だ。
だから少し体調が悪いのかもしれない。
「お母さん、野菜は私が採るから休んでて」
「ありがとう。ならシャルには畑を任せようかしら」
「うん! 頑張るね!」
そう言ってお母さんは家へと入って行った。
それから私は1人での畑作業が日課になった。
でも私が畑作業をすることになってからは、お母さんはよく外出することが増えた。
そしてお昼と夜には帰ってきた。
私のご飯を作るために。
「お母さん、最近よくお外に行っているけどどうしたの?」
「えっとね。お母さんはマルダさんの家でお仕事をしているの」
マルダさんの家では絹織物で衣服を作ったりしている。
そこでお母さんはお仕事をしていたみたいだ。
「なんで? 畑は私がやっているからお母さんは休んでていいのに……」
「シャルには感謝しているわ。でもね、お母さんもシャルに任せてばかりいられないわ。それにお母さんは元気だから。心配させてごめんね」
そう言ってお母さんは私の頭を撫でた。
でもお母さんは絶対に無理をしているように感じた。
笑っているけど、顔色も悪い。
元気だというのは嘘だ。
「ダメだよ! お母さんは休んでいないとダメ! お母さんの分まで私が頑張るから!」
私はお母さんを怒った。
このまま無理をすればお母さんが倒れてしまう気がしたから。
でもお母さんは何も答えない。
お母さんは黙って私の頭を撫で続けた。
そんなお母さんの顔は少し寂しそうな顔をしていた。
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