神様のミスで女に転生したようです

結城はる

文字の大きさ
126 / 139

126 一筋の光

しおりを挟む
 
 私達は衛兵所に向かうため、地下牢から出ようと歩き出した。
 やるべきことは衛兵に今回の事件内容及び私達以外にも被害者がいること、証拠は商会長室にあることを伝えることだ。
 シャルを失って泣きたい気持ちを抑えて、私は今後のことを考える。
 もちろん今回のことを衛兵に伝えることも重要だが、何よりウルレインでの奴隷売買組織の証拠をフィリップに渡したい。
 もし、この国の衛兵に渡った場合、証拠を隠滅される可能性だってある。
 国際問題になり得るからこそ何よりも隠したい重要な証拠書類だ。
 ここでやるべきことを終えたら、すぐにウルレインに戻ろう。

「……シャルが死んだなんて、未だに信じられない」

 カレンがふと呟いた。
 私も同意だ。
 短い間ではあるが、私にもシャルとの思い出がたくさんある。
 一緒にパーティとして冒険者をやっていたし、一緒に暮らしていたんだから家族みたいなものだった。
 そんなシャルがもういない……。

 ……だめだ。
 シャルのことを考えるとどうしても涙が出てしまう。
 辛くて、悔しくて何より寂しい。
 色んな感情がごちゃ混ぜになって自分でもよく分からないのだ。
 気持ちの整理がつくまではまだ時間は掛かりそうだ。

「……そうだね」
「あたしが勝手な行動をしなければこんな事にならなかった……ごめん」
「ううん。あんなの誰にも予想できないよ」
「せめてシャルが無事だったら……。シャルが生き返ってくれさえすれば……」
「いや、生き返るのは流石に……」

 ん……?
 カレンの言葉に時が止まる。
 ちょっと待って……。
 生き返る?
 私、何か重要なことを忘れている気がする。

「どうしたヒナタ?」

 私は立ち止まり考える。
 死者……。生き返る……。蘇生……。

「……あ!」
「なんだよ急に……」

 思い出した。
 確か、サンドラス王国の教会で読んだ書物に記載されていた。
 ベルフェスト王国にあるアスクレピオス迷宮の最下層に、死者を蘇生させることができる蘇生の宝珠というものがあることを……。
 もしあの書物に記載されていたことが事実なら、シャルが生き返る可能性がある。

 ───私達はまだ諦めてはいけないのかもしれない。

「カレン。アスクレピオス迷宮って知ってる?」
「え? まぁ、聞いたことはあるけど。なんでそんなこと聞くんだよ」
「前に教会にあった書物で読んだことがあるんだ。その迷宮の最下層に死者を蘇生させることができる宝珠があるって」
「……それは本当か?」
「うん。だからシャルを救うことができるかもしれない。もし教会で読んだ書物が偽りだったとしても、シャルが生き返る可能性があるならその迷宮に行ってみない?」
「シャルが生き返る……。その可能性があるなら……。ヒナタ、あたしもシャルを諦めるつもりはない。またシャルと一緒にいられるならどんなことだってやってやる!」

 あの書物を読んだときは迷信だとか思っていたけど、試す価値はあるはずだ。
 それにカレンもコハクもいる。
 アスクレピオス迷宮にどんな魔物がいるのか分からないけれど、私達3人なら不可能ではないはずだ。

 ……でも確か、蘇生するには制限があったよね。
 なんだったかな……。思い出せ……。
 私は頭を抱えながら、あの時の書物の内容の記憶を呼び起こす。

 ……えっと、確か死亡後30分以内なら蘇生ができたはず。
 いや、無理じゃん。
 今から大急ぎで飛行魔法フライで向かって、迷宮を攻略するにしても30分では不可能だ。
 そうだ。だからあの時迷信だと思ったんだ。
 有り得ない条件下だからこそ、意味のないものだと思ってしまったんだ。
 だとしたら、シャルを救うことが……できない。

 あーもう!
 折角アスクレピオス迷宮という一筋の光が見えたと思ったのに。
 このまま諦めるしかないのか……。
 いや、まだ諦めるのは早い。
 考えろ……。

 まず前提として死亡後30分以内でないと蘇生ができないということは今のままでは蘇生は不可能だ。
 まだシャルが死んでから30分が経過していないにしても、既に10分程度は経過しているはず……。
 どうやったってあと20分で迷宮の最下層まで行くのは無理。
 30分なんて制約のせいでシャルを救うことができない。
 何か、何か手段はないのか……。

 せめて私に時間を操る時空魔法でもあれば、シャルの時間だけ止めて30分という制約も解決する。
 いや、そんな魔法が使えるならシャルが死ぬ以前に戻すか……。
 時間を操るのは論外かな。でも、悪い視点ではないと思う。
 いや、正直に言えば私の知力ではそんなことぐらいしか思い付かないんだけど。
 時間を操るなんてそんな不可能なことが出来る訳が無い。
 やはりシャルを蘇生するのは無理なのか……。

 私の保有しているスキルで何か使えそうなもの……。
 ステータスを開き手段を模索する。
 なんかステータス見るのはかなり久しぶりだな……。

名前:ヒナタ
種族:人族
年齢:15歳
職業:魔法使い
HP :265/279(+42)
MP :397/429(+54)
スキル:水魔法LV7
    風魔法LV8
    火魔法LV5
    土魔法LV8
    無属性魔法LV5
    無限収納
    威圧LV4
    毒霧LV1
    毒耐性LV4(+1)
    麻痺耐性LV2
    気配察知LV5
    気配遮断LV4
    隠密LV7(+1)
    発情LV2
    遠視LV4
    気配探知LV8(+2)
    自然回復LV7(+1)
    身体強化LV5(+2)
    物理攻撃耐性LV7(+1)
    竜装化
    竜王覇気
ユニークスキル:強奪
 
 知らないうちによく使っているスキルのレベルが上がっている。
 でも結構魔法を使っている割には魔法スキルのレベルが上がっていない。
 でも、ネメアー討伐からまともに魔物と戦っていないからしょうがないか。
 それにもしかしたら、高レベルになるにつれてレベルの上昇も難しくなる可能性もあるしね。
 ん? 気が付いたら毒耐性のレベルが上がっている……。
 どこか知らない所で毒でも盛られたのか……?
 いや、今はそんなことより何か使えそうなスキルは……と。

 魔法で時間を操るのは私では不可能だから、他のスキルで検討しよう。
 無属性魔法では……無理だよね。私もそこまで無属性魔法について詳しいわけでもないし。
 うん。諦めよう。
 あとは……。

「……無限収納か」

 そうか……。
 時間を止めることは無限収納だと可能だ。
 普段、魔物の回収や資材の収納のために使用しているが、生物の収納はできない。
 だから人間の死体を収納するってことについては今まで発想がなかったけど、死亡した人間なら魔物と同様、収納ができるはずだ。
 そしてこの無限収納スキルには時間停止機能がある。
 確信があるわけではないが、長期間無限収納内に保管していた魔物が腐敗していたりすることもなかった。
 それは初めてこの世界に転生した時に討伐したポイズンスネークが証明している。
 討伐から2ヶ月以上経過したにも関わらず、冒険者ギルドで換金する際に無限収納から取り出しても腐敗などしていなかった。まるでついさっき討伐したかのようだった。
 このことから時間停止機能があると勝手に解釈している。
 でも、この仮定が正しければ30分という無理難題な制約もこれで解決するのではないか……。
 そうと決まれば、早速シャルを収納できるか試してみよう。

 私は辿ってきた道を戻り、シャルのもとへと向かう。

「お、おい! ヒナタどうしたんだよ!」
「ちょっと試したいことがあるの!」

 血だらけになって倒れているシャルの前に立ち、無限収納スキルを発動させる。
 ……すると、地面に黒い円形の影のようなものができて、その中にシャルが吸い込まれていった。

「……できた」

 想定通り、シャルを無限収納の中に収納することができた。
 これで迷宮攻略まで時間を掛けても問題ないはずだ。
 ……よし、懸案事項は解決したからあとは迷宮を攻略するだけだ。

 あ、ちょっと待って。でもこの状況で、ニアのウルレインでの奴隷売買組織の証拠書類はどうしよう?
 さっきまではシャルの蘇生について考えてなかったから、ここを解決したらフィリップのところに戻ろうとしていた。
 でもシャルが生き返る可能性があるなら、こっちを優先したい気持ちもある。それにあんなにやる気に満ちたカレンは絶対にそう考えそう。
 ウルレインに戻るのは避けた方がいいかな。飛行魔法フライで私だけ行くのも有りだけど、ここまで馬車で3週間掛かっている。
 そう考えれば、いくら飛行魔法で行っても往復で1週間以上は掛かるだろう。
 その間、カレンとコハクを2人きりにさせるのは気が引ける。
 となると……、冒険者ギルドに頼んで速達便かなんかで依頼しようかな。
 国境で検問とかがあればめっちゃ困るけど、ベルフェスト王国に入国する際は、そこまで厳しく検問された記憶もない。
 入国よりも出国の方が厳しいとも考えられない。そう考えればこの書類を包装紙で包んで、フィリップのところに送ればいいかな。

「ヒナタ! 今のなんだ!? シャルはどこに消えたんだ!」

 私が1人で今後の計画を考えていると、カレンが驚いた顔で私を見ていた。
 そういえばカレン達には私が収納スキルを持っていることを秘密にしていた。
 今まで私のウエストポーチがアイテム袋だと思わせている。
 まぁ、容量が有り得ないくらい入るから信じてくれていたかは分からないが、カレン達は詮索をしたりはしなかった。
 でも、この反応を見るとこのウエストポーチをアイテム袋だと思ってくれていたみたい……。

「私の収納スキルにシャルを収納したの」
「収納スキル? そんなのヒナタが持っていたのか……。いや、確かにそのアイテム袋は怪しかったからな。収納スキルと言われれば納得するな」
「ごめんね。今まで黙ってて。言い出すタイミングを逃してね」
「いや、いくらパーティでも他人のスキルを聞くのはマナー違反だからな。そんなことを気にする必要はないよ」

 え、そうなの?
 でも確かに、今までカレン達は私が怪しいことをしてもスキルを聞いてくることはなかった。
 それに私も2人のスキルを聞こうともしなかった。
 何故かというと、私が聞いたら2人も私に聞いてくる可能性があったからだ。
 でも、そのおかげかマナー違反にならずに済んだというわけか。
 知らなかったとはいえ、2人に失礼なことを聞く可能性もあったかもしれないと思うと恐ろしいものだ。

「それより何でシャルを収納スキルに?」

 まぁ、それは気になるよね。
 そのためカレンにアスクレピオス迷宮にある蘇生の宝珠の制約と無限収納スキルの特性について説明した。

「……というわけで、シャルを収納しておけばいいと思ったわけ」
「なるほどな。その30分という制約があるなら、シャルはそのままスキルに収納しておいた方がいいってことだな」
「そうだね。だから、衛兵に今回の事件について説明するときはシャルが犠牲になったことは伏せたほうがいいと思う」
「分かった。ならすぐに衛兵所に向かおう! さっさとこの場にカタをつけてアスクレピオス迷宮に向かうぞ!」

 カレンが私に向かって拳を出してきた。
 だから私もカレンに拳を向けて笑顔でお互いの拳をぶつけ合った。
 なんか少年漫画っぽくなったけど、お互い女なんだよね。
 あ、私は男だった……。

────────────────────────────────────
蘇生の宝珠については『43 教会に行ってみる②』をご参照ください。
しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

狼になっちゃった!

家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで? 色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!? ……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう? これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...