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126 一筋の光
しおりを挟む私達は衛兵所に向かうため、地下牢から出ようと歩き出した。
やるべきことは衛兵に今回の事件内容及び私達以外にも被害者がいること、証拠は商会長室にあることを伝えることだ。
シャルを失って泣きたい気持ちを抑えて、私は今後のことを考える。
もちろん今回のことを衛兵に伝えることも重要だが、何よりウルレインでの奴隷売買組織の証拠をフィリップに渡したい。
もし、この国の衛兵に渡った場合、証拠を隠滅される可能性だってある。
国際問題になり得るからこそ何よりも隠したい重要な証拠書類だ。
ここでやるべきことを終えたら、すぐにウルレインに戻ろう。
「……シャルが死んだなんて、未だに信じられない」
カレンがふと呟いた。
私も同意だ。
短い間ではあるが、私にもシャルとの思い出がたくさんある。
一緒にパーティとして冒険者をやっていたし、一緒に暮らしていたんだから家族みたいなものだった。
そんなシャルがもういない……。
……だめだ。
シャルのことを考えるとどうしても涙が出てしまう。
辛くて、悔しくて何より寂しい。
色んな感情がごちゃ混ぜになって自分でもよく分からないのだ。
気持ちの整理がつくまではまだ時間は掛かりそうだ。
「……そうだね」
「あたしが勝手な行動をしなければこんな事にならなかった……ごめん」
「ううん。あんなの誰にも予想できないよ」
「せめてシャルが無事だったら……。シャルが生き返ってくれさえすれば……」
「いや、生き返るのは流石に……」
ん……?
カレンの言葉に時が止まる。
ちょっと待って……。
生き返る?
私、何か重要なことを忘れている気がする。
「どうしたヒナタ?」
私は立ち止まり考える。
死者……。生き返る……。蘇生……。
「……あ!」
「なんだよ急に……」
思い出した。
確か、サンドラス王国の教会で読んだ書物に記載されていた。
ベルフェスト王国にあるアスクレピオス迷宮の最下層に、死者を蘇生させることができる蘇生の宝珠というものがあることを……。
もしあの書物に記載されていたことが事実なら、シャルが生き返る可能性がある。
───私達はまだ諦めてはいけないのかもしれない。
「カレン。アスクレピオス迷宮って知ってる?」
「え? まぁ、聞いたことはあるけど。なんでそんなこと聞くんだよ」
「前に教会にあった書物で読んだことがあるんだ。その迷宮の最下層に死者を蘇生させることができる宝珠があるって」
「……それは本当か?」
「うん。だからシャルを救うことができるかもしれない。もし教会で読んだ書物が偽りだったとしても、シャルが生き返る可能性があるならその迷宮に行ってみない?」
「シャルが生き返る……。その可能性があるなら……。ヒナタ、あたしもシャルを諦めるつもりはない。またシャルと一緒にいられるならどんなことだってやってやる!」
あの書物を読んだときは迷信だとか思っていたけど、試す価値はあるはずだ。
それにカレンもコハクもいる。
アスクレピオス迷宮にどんな魔物がいるのか分からないけれど、私達3人なら不可能ではないはずだ。
……でも確か、蘇生するには制限があったよね。
なんだったかな……。思い出せ……。
私は頭を抱えながら、あの時の書物の内容の記憶を呼び起こす。
……えっと、確か死亡後30分以内なら蘇生ができたはず。
いや、無理じゃん。
今から大急ぎで飛行魔法で向かって、迷宮を攻略するにしても30分では不可能だ。
そうだ。だからあの時迷信だと思ったんだ。
有り得ない条件下だからこそ、意味のないものだと思ってしまったんだ。
だとしたら、シャルを救うことが……できない。
あーもう!
折角アスクレピオス迷宮という一筋の光が見えたと思ったのに。
このまま諦めるしかないのか……。
いや、まだ諦めるのは早い。
考えろ……。
まず前提として死亡後30分以内でないと蘇生ができないということは今のままでは蘇生は不可能だ。
まだシャルが死んでから30分が経過していないにしても、既に10分程度は経過しているはず……。
どうやったってあと20分で迷宮の最下層まで行くのは無理。
30分なんて制約のせいでシャルを救うことができない。
何か、何か手段はないのか……。
せめて私に時間を操る時空魔法でもあれば、シャルの時間だけ止めて30分という制約も解決する。
いや、そんな魔法が使えるならシャルが死ぬ以前に戻すか……。
時間を操るのは論外かな。でも、悪い視点ではないと思う。
いや、正直に言えば私の知力ではそんなことぐらいしか思い付かないんだけど。
時間を操るなんてそんな不可能なことが出来る訳が無い。
やはりシャルを蘇生するのは無理なのか……。
私の保有しているスキルで何か使えそうなもの……。
ステータスを開き手段を模索する。
なんかステータス見るのはかなり久しぶりだな……。
名前:ヒナタ
種族:人族
年齢:15歳
職業:魔法使い
HP :265/279(+42)
MP :397/429(+54)
スキル:水魔法LV7
風魔法LV8
火魔法LV5
土魔法LV8
無属性魔法LV5
無限収納
威圧LV4
毒霧LV1
毒耐性LV4(+1)
麻痺耐性LV2
気配察知LV5
気配遮断LV4
隠密LV7(+1)
発情LV2
遠視LV4
気配探知LV8(+2)
自然回復LV7(+1)
身体強化LV5(+2)
物理攻撃耐性LV7(+1)
竜装化
竜王覇気
ユニークスキル:強奪
知らないうちによく使っているスキルのレベルが上がっている。
でも結構魔法を使っている割には魔法スキルのレベルが上がっていない。
でも、ネメアー討伐からまともに魔物と戦っていないからしょうがないか。
それにもしかしたら、高レベルになるにつれてレベルの上昇も難しくなる可能性もあるしね。
ん? 気が付いたら毒耐性のレベルが上がっている……。
どこか知らない所で毒でも盛られたのか……?
いや、今はそんなことより何か使えそうなスキルは……と。
魔法で時間を操るのは私では不可能だから、他のスキルで検討しよう。
無属性魔法では……無理だよね。私もそこまで無属性魔法について詳しいわけでもないし。
うん。諦めよう。
あとは……。
「……無限収納か」
そうか……。
時間を止めることは無限収納だと可能だ。
普段、魔物の回収や資材の収納のために使用しているが、生物の収納はできない。
だから人間の死体を収納するってことについては今まで発想がなかったけど、死亡した人間なら魔物と同様、収納ができるはずだ。
そしてこの無限収納スキルには時間停止機能がある。
確信があるわけではないが、長期間無限収納内に保管していた魔物が腐敗していたりすることもなかった。
それは初めてこの世界に転生した時に討伐したポイズンスネークが証明している。
討伐から2ヶ月以上経過したにも関わらず、冒険者ギルドで換金する際に無限収納から取り出しても腐敗などしていなかった。まるでついさっき討伐したかのようだった。
このことから時間停止機能があると勝手に解釈している。
でも、この仮定が正しければ30分という無理難題な制約もこれで解決するのではないか……。
そうと決まれば、早速シャルを収納できるか試してみよう。
私は辿ってきた道を戻り、シャルのもとへと向かう。
「お、おい! ヒナタどうしたんだよ!」
「ちょっと試したいことがあるの!」
血だらけになって倒れているシャルの前に立ち、無限収納スキルを発動させる。
……すると、地面に黒い円形の影のようなものができて、その中にシャルが吸い込まれていった。
「……できた」
想定通り、シャルを無限収納の中に収納することができた。
これで迷宮攻略まで時間を掛けても問題ないはずだ。
……よし、懸案事項は解決したからあとは迷宮を攻略するだけだ。
あ、ちょっと待って。でもこの状況で、豚のウルレインでの奴隷売買組織の証拠書類はどうしよう?
さっきまではシャルの蘇生について考えてなかったから、ここを解決したらフィリップのところに戻ろうとしていた。
でもシャルが生き返る可能性があるなら、こっちを優先したい気持ちもある。それにあんなにやる気に満ちたカレンは絶対にそう考えそう。
ウルレインに戻るのは避けた方がいいかな。飛行魔法で私だけ行くのも有りだけど、ここまで馬車で3週間掛かっている。
そう考えれば、いくら飛行魔法で行っても往復で1週間以上は掛かるだろう。
その間、カレンとコハクを2人きりにさせるのは気が引ける。
となると……、冒険者ギルドに頼んで速達便かなんかで依頼しようかな。
国境で検問とかがあればめっちゃ困るけど、ベルフェスト王国に入国する際は、そこまで厳しく検問された記憶もない。
入国よりも出国の方が厳しいとも考えられない。そう考えればこの書類を包装紙で包んで、フィリップのところに送ればいいかな。
「ヒナタ! 今のなんだ!? シャルはどこに消えたんだ!」
私が1人で今後の計画を考えていると、カレンが驚いた顔で私を見ていた。
そういえばカレン達には私が収納スキルを持っていることを秘密にしていた。
今まで私のウエストポーチがアイテム袋だと思わせている。
まぁ、容量が有り得ないくらい入るから信じてくれていたかは分からないが、カレン達は詮索をしたりはしなかった。
でも、この反応を見るとこのウエストポーチをアイテム袋だと思ってくれていたみたい……。
「私の収納スキルにシャルを収納したの」
「収納スキル? そんなのヒナタが持っていたのか……。いや、確かにそのアイテム袋は怪しかったからな。収納スキルと言われれば納得するな」
「ごめんね。今まで黙ってて。言い出すタイミングを逃してね」
「いや、いくらパーティでも他人のスキルを聞くのはマナー違反だからな。そんなことを気にする必要はないよ」
え、そうなの?
でも確かに、今までカレン達は私が怪しいことをしてもスキルを聞いてくることはなかった。
それに私も2人のスキルを聞こうともしなかった。
何故かというと、私が聞いたら2人も私に聞いてくる可能性があったからだ。
でも、そのおかげかマナー違反にならずに済んだというわけか。
知らなかったとはいえ、2人に失礼なことを聞く可能性もあったかもしれないと思うと恐ろしいものだ。
「それより何でシャルを収納スキルに?」
まぁ、それは気になるよね。
そのためカレンにアスクレピオス迷宮にある蘇生の宝珠の制約と無限収納スキルの特性について説明した。
「……というわけで、シャルを収納しておけばいいと思ったわけ」
「なるほどな。その30分という制約があるなら、シャルはそのままスキルに収納しておいた方がいいってことだな」
「そうだね。だから、衛兵に今回の事件について説明するときはシャルが犠牲になったことは伏せたほうがいいと思う」
「分かった。ならすぐに衛兵所に向かおう! さっさとこの場にカタをつけてアスクレピオス迷宮に向かうぞ!」
カレンが私に向かって拳を出してきた。
だから私もカレンに拳を向けて笑顔でお互いの拳をぶつけ合った。
なんか少年漫画っぽくなったけど、お互い女なんだよね。
あ、私は男だった……。
────────────────────────────────────
蘇生の宝珠については『43 教会に行ってみる②』をご参照ください。
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