神様のミスで女に転生したようです

結城はる

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132 迷宮攻略(アスクレピオス迷宮編)②

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 扉の先にはひらけた空間が現れた。
 学校の体育館くらいの広さに、高さは目測で15メートル程。
 周囲には松明がいくつもあり、第一階層守護者のいるこの空間の全体がよく見える。
 よく見えるおかげで、この空間には多数の人間の骨が散らばっている。
 過去に戦ったこの迷宮での犠牲者だと思われる。
 そしてこの犠牲者達の元凶である奥に見える大きな影。

「あれがケルベロス……」
「そうみたいだね……」
「ママ、あのワンちゃんかわいいね!」

 書物通り目の前に立ち塞がる3つの頭を持った大きな犬の魔物。
 大きさは、ネメアーより少し大きい7メートル程。
 ケルベロスのいる先には扉もある。あの先が第二階層へ進む道のようだ。
 それにしても、コハクはケルベロスが可愛いと言っているけど別に可愛くはない。
 やっぱり前世の影響か頭が3つなのが生理的に受け付けないようだ。
 私達は扉を抜けケルベロスのいる部屋へと入る。
 そしてケルベロスと相対する。

「ヒナタ、やるぞ」
「うん。コハクはここで大人しくしててね?」
「分かった!」

 コハクは桃を抱き締めながら答える。
 とりあえずコハクにケルベロスを近づけないように戦わないといけない。
 前衛はカレンに任せて、私はコハクの最終防衛ラインとしてなるべく傍で戦うようにするか。

「いくぞ!」
「うん!」

 カレンがケルベロスに向かって駆け抜ける。
 私は後方からケルベロスに岩石弾ロックショットを放つ。

「ワオォォォン!」

 私の岩石弾ロックショットが命中したことで、ケルベロスが雄叫びを上げる。
 魔力を込めた割にはあまりダメージがないようにも見えるが、岩石弾が命中した箇所から血が出ている。
 どうやら魔法でもダメージを与えることが出来るようだ。
 最悪を想定して、魔法攻撃耐性のスキルを持っていたら討伐は困難になると思ったが、これなら安心だ。このまま後方から不意を突いて魔法で攻撃し続けよう。

 そして私の魔法によってケルベロスが怯んだ隙に、カレンの剣がケルベロスの足を切り裂く。……が、あまりダメージがないように見える。

「くそっ! こいつ硬いぞ!」

 どうやらカレンも手応えを感じていないようだ。
 遠視でケルベロスの足を確認してみても、カレンの剣によって大きな傷はなく、かすり傷程度を負ったようだ。
 やっぱり私の岩石弾ロックショットでも思ったよりダメージを与えられなかったから、あの覆われている毛は唯の毛ではないようだ。
 もう少し強力な魔法でやってみようか。

「カレン! 援護はするからそのまま攻撃して!」
「分かった!」

 私はすぐさま、魔力弾マジックショットをケルベロスの一つの頭に向けて放つ。
 しかし、ケルベロスは何かを察したのか、目に見えないはずの魔力弾を回避した。

「ちっ!」

 これにより、ケルベロスの敵意が私に向いた。
 そしてケルベロスは全速力で私に向かって突っ込んでくる。

「ヒナタ逃げろ!」

 カレンからの声も聞こえてくるが、私は動じない。
 直線で向かって来るので、私は再度魔力弾マジックショットをケルベロスの頭を狙って放つ。
 しかしケルベロスは魔力弾を回避しようと走りながら右側へと転がり込んで回避した。
 そしてケルベロスが回避したその先にはもう一つの魔力弾。

「ゴアアァァァァ!!!!」
「よし、上手くいった!」

 回避されることを想定して、始めに打った魔力弾マジックショットは囮だ。
 ケルベロスに向かって放った魔力弾マジックショットが一発。
 その次には回避に備えて左右に一発ずつ。
 そしてジャンプして回避することも想定してのケルベロスの頭上にも一発。
 これで計四発の、大砲くらいの大きさをイメージした魔力弾を放っていた。
 これなら流石に不意を突かれて回避はできないだろう。

 そして見事命中した魔力弾マジックショットによって、ケルベロスの一つの頭の片目が損傷し、血飛沫が飛んだ。
 ……流石無属性魔法。威力が桁違いだ。

 カレンは私がケルベロスの片目を潰したことにより隙ができたため、ひたすら足を集中攻撃している。
 一つ一つの攻撃で大きなダメージはないが、カレンの光のような速さで繰り出される剣裁きによって、ケルベロスの足から血が流れ出す。
 確かに足を狙ってケルベロスの動きを封じるのは一つの手かもしれない。
 頭は3つでも足は通常の犬と同様4つなんだから。

 カレンの剣裁きを遠くから見ていると、ケルベロスの反撃かカレンに向かって2つの頭が喰らいつく。

「カレン!」

 私はカレンに向かって叫ぶ。
 カレンはケルベロスの動きを読んでいたのか、すぐに後方へ退き回避した。

「大丈夫だ!」

 カレンが後方へと退いたことで、ケルベロスの標的は私へと移る。
 たぶんケルベロスとしては最も危険な私を最初に始末したいのだろう。

「ガウゥゥ!」

 ケルベロスは猛スピードで私へと向かってきた。
 そしてそれを追うようにしてカレンも向かってくる。
 この好機を生かし、私はカレンに当たらないように先程と同じように魔力弾マジックショットを行使した……がケルベロスはそれを回避するように高く飛び上がる。

「嘘でしょ!?」

 あんなに高く飛び上がれるのか。
 たかが犬だと思っていたけど、あそこまで跳躍力があるとは。
 ネコ科の魔物じゃないよね……?
 そんなことを考えていると、ケルベロスが私の目の前に着地する。
 そして私を見下ろすケルベロスが前足を大きく振りかぶった。
 ……あ、やばい。

「ヒナタ逃げろ!」

 カレンの言葉も虚しくケルベロスの前足が私に向かって振り払われる。

「うっ……」

 私は弾き飛ばされそのまま壁へと衝突する。

「大丈夫かヒナタ!?」

 カレンが私に声を掛けてくれるが、少しだけ眩暈がして意識も朦朧としている。
 物理攻撃耐性によって衝撃は緩和したが、壁への衝突により頭を打って眩暈がする。
 物理攻撃を無効にするスキルではないから、これほどの衝撃だと私へのダメージもあるみたいだ。

「いてて……」

 私が飛ばされたことでケルベロスを追ってきていたカレンの方へとケルベロスが瞬時に駆ける。

「ワオォォォン!!!」
「やりがったな!!!」

 カレンがケルベロスの突進を躱してから横から剣を振る。
 しかし、ケルベロスがカレンに向けて足を蹴り上げたことでカレンが高く飛び上がる。

「ぐっ……」

 カレンは蹴り上げられた衝撃により持っていたミスリル剣を手離す。
 そしてカレンの落下地点にはケルベロスが大口を開けて待つ。
 まずい。空中では反撃もできない。このままではカレンが喰われる。
 私はすぐに魔力弾マジックショットを行使した。
 しかし、先程の衝撃もあってか焦点が合わずケルベロスの隣を魔力弾が通過する。
 外した。やばい、カレンが……。

「カレン!」

 私はカレンに向かって叫んだ。
 私の声が聞こえたのか、カレンは私に向かって微笑んだように見えた。

「え……?」

 何かを察したような表情を見せるカレン。
 まさか、諦めた……?

「……諦めるのは早いよ!」

 こうなったら仕方ない。
 カレンに当たる可能性もあるが、魔力弾マジックショットを広範囲に複数発動させ、ケルベロスに向かって行使しようとする。
 カレンの落下速度と、私の魔力弾のスピード。
 ……正直、カレンが喰われる方が早い気がする。
 でも、これが当たれば最悪の事態は避けられる可能性はある。
 一か八かだ。お願い、間に合って……。

「マジックショッ……「いっけー!」」

 ……ん?
 なぜかコハクの声が……。
 コハクが待機していた方を見るとコハクがいない。
 あれ?
 もう一度、ケルベロスに目線を戻す。
 ケルベロスがいない。その代わりにコハクが佇んでいる。
 ……ん?

「カレンお姉ちゃん危なかったね!」
「お……おお。助かったよコハク」

 カレンが着地し、コハクが声を掛ける。
 ケルベロスを探す。
 あ、なんか壁に激突してるじゃん。
 コハクがやったんだね。
 あれだけの体格差があるにも関わらず、拳で殴り飛ばせるとは……。
 コハク強し……。

 私はまだ眩暈がしていたが、フラつきながらコハクの下へと駆け寄る。

「ママ大丈夫?」
「うん大丈夫だよ。ありがとね、コハク」
「えへへ」

 私はコハクの頭を撫でる。
 コハクのおかげでカレンが助かった。
 ……本当に良かった。
 それにしてもコハクはいつの間にここまで移動していたんだ。
 全く気が付かなかったよ。

「コハク、ここは危ないからあそこで待ってて」
「えー、コハクもワンちゃんと遊びたいのに……」

 私達は別に遊んでいるわけじゃないんだよ。
 命の奪い合いをしているんだよ。

「ダメだよ。ママと約束したでしょ?」
「はーい……」

 不服そうなコハクだが、トボトボと後方へと下がる。
 そして私はコハクによって気絶したケルベロスに向かって、試しに魔力波マジックウェーブを行使する。
 ケルベロスが孤立しているから、カレンにも被害も出ないし良いよね。
 そして魔力波が直撃したケルベロスの身体が木っ端微塵に弾け飛ぶ。

「……え?」
「ヒナタ!? なんだ今の魔法!?」

 カレンも私を見て驚愕している。
 実際、私も驚いている。
 魔力弾マジックショットでも大してダメージを与えられなかったケルベロスが、魔力波マジックウェーブで木っ端微塵。
 ケルベロスは防御力が高いようだし、それに戦場が広いから多少は大丈夫かな……なんて思ってつい魔力を込めた結果がこれだ。
 そもそも以前魔力波マジックウェーブを試した時に、ほんの少しの魔力でかなりの威力だったから、これが普通なのか……。今まで封印しててよかった。
 それにしてもケルベロスがなかなかグロテスクな姿になっちゃった。
 18禁だよ。

「ヒナタ? さっきの魔法はなんだ?」

 カレンが私の肩を掴んで尋問する。
 確かに無属性魔法はカレン達にはお披露目していない。こうなると思っていたから。
 最後に行使したのは、カレンとシャルがオークジェネラルに囚われた時だ。
 あの時は2人とも威圧スキルで気絶してしまったため、私が魔力波マジックウェーブでオークジェネラルを倒したことを知らない。
 でもあの時に洞窟を崩壊させるという前科があるから、少しは心配もあった。
 また迷宮が崩落したらどうしよう……とかは思ったよ?
 でも私は今後の迷宮攻略のために試してみたかった。
 この広大な迷宮が魔法一発で崩壊するとも考えにくい。私の魔法で少しは亀裂が入る可能性があるにしても、崩落するには至らないだろう思った。
 その結果、迷宮の壁を損傷させることもなく。魔力波マジックウェーブが行使できた。
 これでこれからは魔力波マジックウェーブを安心して行使できるようになったわけだ。
 ……でもあの死体からはスキルを強奪出来ないだろうな……。
 何せケルベロスの原型を留めていないくらいの有様だ。
 次はもう少し威力を考えて魔力波マジックウェーブを行使しないと。

「えっと……私が隠していた魔法だよ」
「あんなの見たことないぞ! なんて魔法だ?!」
「それは秘密でもいいかな……」

 言っても問題はなさそうだが、無属性魔法は本来、失われた魔法だ。
 そんなスキルを持っていることを知られるのは私が何者か怪しまれる可能性だってある。
 私は普通の女の子を目指したいんだ!
 ……でも前世がおっさんで、他の世界から来た転生者で、数々のスキルを持っていて、魔力も世界のトップクラス。
 ……あれ?
 普通ってなんだ?

「カレン、話してる時間はないみたい……」

 こうしている間に、いつの間にか討伐したはずのケルベロスの死体が消え去り、地面に魔法陣が現れた。
 そして光を放ちながらケルベロスが再召喚された。

「そうだな……。あたしの攻撃は効果が少ないからヒナタ頼りになっちまうが、魔力は平気か?」
「うん。全然余裕だよ」
「流石だな……」

 正直、ここのケルベロス戦の攻略法は全く分からない。
 でも討伐は可能みたいだから、何度も戦って規定条件を満たすという持久戦しかないと思う。
 これくらいしか、攻略法が思い付かない。
 どのくらい討伐すればいいのかは分からないが、限界まで挑戦するしかない。
 一応、自分なりに目標を定めておこうかな。
 んー……。10体くらい?
 これくらい倒しても第二階層の扉が開かないなら、一旦考えた方がいいかもしれない。
 よし、とりあえずの目標は10体だ!

 2体目のケルベロスと戦うため、カレンと一緒に臨戦態勢に入る。
 また魔力波マジックウェーブで討伐すればいい。次は強奪スキルを使いたいから、なるべく損傷を防がないと。
 魔力も問題ないし、魔力消費も少なく、攻撃力が高い無属性魔法は便利だね。
 これなら10体を討伐できるくらいの魔力を保てるだろう。
 それに万一のための回復薬ポーション魔力回復薬マナポーションも無限収納に大量に入っている。
 王都の冒険者ギルドで大量に買い込んできたからね。

「カレン、もう何回ケルベロスを討伐するか分からないけど、絶対油断しないでね」
「分かってるよ」

 よし。再度ケルベロスに魔力波マジックウェーブを放とうかなと思ったところで、ふと、後方に待機させたコハクを確認しようと振り返る。
 私との約束通りに大人しくしているかなっていう軽い気持ちで。

「んー! やっぱり美味しい!」

 …………ちょっとコハクさん?
 なんで桃食べてるんですか?
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