神様のミスで女に転生したようです

結城はる

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134 迷宮攻略(アスクレピオス迷宮編)④

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「何で扉が開いたの……?」
「分からねぇ……」

 私とカレンはこの状況が理解できない。
 何故急に扉が開かれたのか。
 ケルベロスの討伐をしていないのにも関わらず、目の前にあった大きな扉が突然開かれたことに私達は驚愕する。
 ……これで第一階層を攻略したってことなのか?
 目の前で起こった状況から整理すると、ケルベロスの討伐が攻略条件ではなくて、仲間にすることが条件だったということか……?
 その仮説が正しいとする。では何故、ケルベロスは仲間になったのか。
 コハクという、本来は魔物である存在がケルベロスと対話ができたから?
 ……いや、違う。
 桃の中にあった種のような物をケルベロスに与えたからだ。
 これしか考えられない。
 あれだけ敵意が剥き出しだったケルベロスが、謎の種のようなものを食べたことによって私達の仲間になったのだ。……まあ、正確にはコハクの仲間みたいだが。
 
 こんな攻略方法どうやって分かるんだよ。
 そりゃあ、過去の挑戦者達も攻略が出来ないわけだ。
 多数の犠牲を払ってケルベロスを討伐したとしても、仲間にするなんて条件を知らなければ永遠に討伐が続くだけ。何度も何度も何度も、討伐してもケルベロスは召喚される。まさに無限地獄。
 ケルベロスを仲間にするなんて発想は普通の人間では思いも付かないから、この迷宮の攻略が現在まで出来なかったのは理解できる。
 私達だってコハクがいなければ攻略を諦めていたかもしれない。
 そもそもコハクが桃を見つけたわけだし、桃を持ってくることを提案したのもコハクだ。そして種のようなものをケルベロスに食べさせたのもコハク。
 つまり今回はコハクが大手柄だったわけだ。やっぱりコハクをこの場に連れてきて正解だったみたい。

「くぅぅぅん……」
「よしよし、お利口さんだね!」

 コハクはケルベロス相手にも笑顔で接している。
 対してケルベロスはコハクの体に擦り寄っている。
 先程まで敵同士だったとは思えないほどの、和やかな雰囲気。
 そしていつの間にか、私の魔法で与えたはずのケルベロスの傷が治っている。
 あの種のようなものは回復薬ポーションの役割もあったのかもしれない。

 ケルベロスが仲間になったことでこの先がとても不安になりそうだが、仲間になったこと自体は悪いことではない。この迷宮を進むにあたって、コハクを傍で守ってくれる存在は有難い。
 コハクが私の言うことを聞くかは別としても、この先何があるか分からない迷宮だ。
 何せ、この先の迷宮に関する情報は全くないため未知の世界なのだ。
 1人……いや、1匹でも多くの戦力があった方が助かるのは間違いない。
 でも唯一懸念すべきこともある。それはこのケルベロスがどこまで付いてくるかだ。
 まさかとは思うけど、迷宮を攻略し終わった後も街まで付いてくるとかないよね……。
 それだけは本当に勘弁願いたい。

「ケロちゃんの背中に乗ってもいい?」
「わん!」

 コハクがジャンプしてケルベロスの背中に乗った。
 とても仲が良さそうだ。こうやってみるとケルベロスも可愛く見えてくる。
 ……いや、そうじゃない!

「コハク、ケロちゃんって何?」
「この子の名前! かわいいでしょ?」

 由来は何となくわかる。
 ケルベロスを略してケロちゃん。
 この名前だとどうしてもどこかのカエルのキャラクターを思い浮かべるのは私だけだろうか。
 それに名前を付けるってことは、コハクはこのケロちゃんを飼うつもりでいる。
 流石にこの大きさでウルレインに連れ帰るのは……うん、無理。
 なんとかしてコハクを説得しないといけない。

「可愛いけど……この子はお家まで連れて帰れないよ? この迷宮でさよならできる?」
「え、どうして……?」

 コハクが涙目になりながら聞いてくる。
 コハクが可哀想だからケロちゃんを連れて行きたい気持ちもあるが、流石に私の許容範囲を超えている。
 これだけは譲ってはいけない。

「だってケロちゃんを街に連れて行ったら、みんなが怖がっちゃって大人の人達に剣で攻撃されちゃうかもしれないよ?」
「そんなのダメだよ!」
「そうでしょ? だからケロちゃんが怪我をしないように、この迷宮にいた方がママは安全だと思うんだけど、コハクはどう思う?」
「でも……」

 コハクがケロちゃんの背中を撫でながら俯いている。
 コハクは今、真剣に考えている。こんな姿をしたコハクは初めて見た。
 自分の我儘でケロちゃんを危険に晒すのか、それでも自分の意見を押し通すのか。
 コハクが成長する良い機会だ。じっくり考えてもらいたい。
 ……まあ、単純に私がケロちゃんのお世話ができないからどうしても連れて帰りたくないだけなんだけど。
 そもそもウルレインに連れ帰る以前に、このベルフェスト王国の王都に連れて行く時点で問題しかない。
 間違いなく危険な魔物を連れてきたことで牢に収監されるだろう。
 それに可愛いという理由だけでペットを飼うなんて無責任だ。命を粗末にしてはいけないからね。
 さっきまでケルベロスを10体近く討伐した私が言っても説得力がないけど。

「コハクはケロちゃんが痛い思いをしてもいいの? 本当にケロちゃんのことを考えて、連れて帰ろうとしているの?」
「考えてるもん……。ケロちゃんはここにいた方が幸せなの?」

 コハクがケロちゃんに聞く。
 そしてコハクの質問にケロちゃんは俯いた。

「くぅぅぅん……」
「……そうなんだ。その方がケロちゃんは幸せなんだね……」

 どういう会話が繰り広げられているか分からない。
 でもコハクの落ち込み様からケロちゃんはこの迷宮に残るつもりみたいだ。

「ママ、ケロちゃんはここに居たいんだって……」
「……そっか。でもこの迷宮ならずっとケロちゃんと一緒だから、その間だけでもお世話をお願いできる?」
「……うん!」

 コハクの目から一粒の涙が頬を流れる。
 いくらコハクにとって可愛い魔物でも一つの命を預かるのは簡単ではない。
 飼うにしても責任が生じてしまう。
 コハクがそこまで理解してないにしても、ケロちゃんの意思を尊重したのは本当に偉い事だと思う。

「ケロちゃんのことをちゃんと考えられて偉いねコハク」
「えへへ」

 コハクが頬を赤くして照れている。
 本当に良かった。ケロちゃんがウルレインまで付いてくるとなると面倒でしかない。
 これは絶対に回避しなければいけなかった。

 とりあえず第二階層への扉も開いているみたいだし、先に進もう。
 次から先は本当に未開の地だ。
 どんな魔物が待っているのか分からない。
 第一階層より更に慎重に進んでいこう。

「カレン、そろそろ先に進もうか」
「やっとかよ……」
「ケロちゃん、いくよー!」
「わおん!」

 こうして3人と1匹の妙な隊列が出来上がった。
 いや、正確には2人と2匹になるのかな?
 コハクは竜だし。

 私達はケルベロスを仲間にした守護者の部屋を抜け、先にある扉に向けて歩き始める。
 扉を抜けた先は螺旋階段になっていて下へと降りていくみたいだ。

 道順に従って私達は進んでいく。
 階段を降りた先は、第一階層と同じように通路が続いている。
 でも第一階層に比べて通路の大きさが桁違いだ。大きなトンネルのような構造になっている。
 何故か。それはケルベロスが仲間になることが前提で造られているからだろう。
 ケルベロスが難なくこの通路を進んでいけるように配慮されているようだ。

 さて、今はこの後のことを考えよう。
 これから先の情報は全くないわけだから、この通路にどんな魔物が存在しているのか分からない。
 それにこのトンネルのような通路は直線となっているようだが、第一階層に比べて暗い。
 明かりのための蝋燭のようなものもあるが、トンネル構造のため全体を照らすほどではないのだ。
 気配探知でもこの先に魔物が複数体いるのは分かっているが、暗くて見えない。
 またゴブリンでもいるのだろうか。それとも別の魔物なのか。

「カレン、この先に魔物がいるよ」
「分かった。さっきはヒナタに任せきりだったからここはあたしにやらせてくれ」
「うん。気をつけてね」
「頑張ってカレンお姉ちゃん!」
「わおん!」

 カレンを全員で応援する。
 そして慎重に先を進んで行くと、目の前に現れたのはまたゴブリンだった。
 でも数匹は大きい個体もいる。

「……ホブゴブリンも混ざっているな」

 カレンが呟く。
 ほー。あれがホブゴブリンか。
 普通のゴブリンよりも身体が大きくて強そうに見える。
 でも私達はゴブリンキングの討伐経験もあるから問題はないだろう。
 カレン1人でも大丈夫だと思う。

「行ってくる!」
「いってらっしゃーい!」
「わふん!」

 コハクとケロちゃんの声援で後押しし、カレンがゴブリンの群れに突っ込む。

「「「ゴギャ!」」」

 カレンが繰り出す剣捌きによって、あっという間にゴブリン達が蹂躙されていく。
 ゴブリン達はカレンの剣捌きに対応できず、次々と斬られていく。
 ホブゴブリンだろうが関係ない。カレンに太刀打ちできず、どんどん斬られ数が減っていく。

「これで最後だ!」
「ゴギャー!」

 1分くらいだろうか。
 10体以上いたゴブリンが今では全員血を流しながら倒れ、その中心には返り血を浴びたカレンが突っ立っている。

「さすがカレンだね!」
「カレンお姉ちゃんかっこいい!」
「わふっ!」
「そんな大したことねーよ」

 カレンはスカした感じで返答する。
 ゴブリン相手だからかカレンは物足りないようだ。
 ゴブリンなんて数え切れないほど討伐してきているだろうから、カレンにとっては大したことのない魔物。所詮初心者冒険者のレベルでも討伐可能なのだから、階層を守護している魔物とのギャップが凄すぎると感じてしまう。ゴブリンしかいない迷宮だと思ったらケルベロスが出てくるなんて、初めてこの迷宮に挑戦した人は驚愕しただろうな。

「さっさと先に行くぞー」

 カレンが先行して先へ進んでいった。
 それを追うように私達も後を付いていく。



 その後も何度かホブゴブリンが混ざったゴブリンの群れをカレンがあっさりと討伐していき、いよいよ第二階層守護者がいる扉が見えてきた。

「あれだな」
「そうだね」
「ケロちゃんも一緒に頑張ろうね!」
「わん!」

 ケロちゃんは完全に犬扱いだ。
 鳴き声も犬だからか、もう私にはちょっと大きめで頭が3つあるだけの犬にしか見えない。
 ここまで従順だとケロちゃんが可愛く見えてきてくるから不思議でしょうがない。

「コハク、また魔物の声が聞こえたら教えてね?」
「分かった!」

 まだ桃の種のようなものがたくさん残っているから、また魔物に食べさせてあげれば仲間になってくれるかもしれない。
 でも条件が分からないから試さないと。
 それにコハクはどのタイミングでケロちゃんの声が聞こえるようになったのか。
 実は最初から聞こうと思えば聞こえていたのかもしれない。
 ……いや、そもそもこの第二階層の魔物を仲間にすることが攻略条件かは分からないけどね。
 でも念の為コハクにも伝えておく。
 もしかしたらがあるからね。

「開けるぞ」
「うん」

 カレンが第二階層守護者がいる扉を開けた。
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